第二十九話「処刑…?」
風さんの「damn」はやべぇかっけぇ
結果だけ先に言うと、壊斗の服やズボンをボロボロにさせられただけであった。
壊斗が受けた痛みを表すならば、爪楊枝で軽く突つかれるのと同じ。むず痒い程度だった。
「…もう終わりか?」
壊斗は強がって見せた。内心、キザなセリフだとわかっていながら。
『───生きているッ!?』
家来達は声を揃えて大騒ぎした。それもそうだ。不備の無い筈の刀は折れ、矢は先端が折れて地面に落ちるだけ。
「貴様ァァァ! 何者なんだッ!!!」
「…ちょっと力が強くて頑丈なだけですよ ま、この城を消し飛ばす位なら訳ないかなぁ」
壊斗は笑いを堪えながらそう言った。
「二度の生還に免じてお願いがあるんですけど、長政って奴、黙らせて欲しいんですけど でないと殿様とちゃんとした話が出来ないから」
壊斗は改めて事の発端と成り行きを右月に事細やかに説明した。
「そうか…済まんかった… 娘の事が心配で…ろくに話も聞かずに…」
「お、お止めください殿ッ!」
「貴様は黙ってろッ!」
右月は声を荒げた。右月が声を荒らげる事等、滅多に無い。
「…長政 お前が虚偽報告をしたがばっかりに話が拗れ、良からぬ方向に進んだ。十分処罰の対象だ」
「───ッ!?」
長政は涙を流した。これは自分が処罰を受ける事にではなく、殿の信頼を失ってしまった事に対しての涙だ。
「壊斗 改めて言わせてくれ 本当に申し訳無かった」
「…そんな謝らないで わかってもらえればそれで良いです 結果オーライなんで大丈夫っすよ 俺がこんな体じゃなかったら… もった喚き散らしたりして必死に抗議したんでしょうけど」
壊斗は続ける。
「それと、長政さんはムカつくけど… 多分円香の事が心配で、殿を尊敬しているからこそ、俺が憎かったんだと僕は思います だから、最終的には殿様が決める事ですけど 僕は許します」
「…」
「失礼します! 円香姫をお連れしました」
男が襖を叩き、中に入った。
「…父様」
「円香ぁ…」
「───ッ …工崎さんと話をした訳じゃ無いのですね…」
円香は壊斗のなりを見て、そう悟った。
「…」
「でも、ご無事そうで良かったです」
ホッと一安心したかの様に息を吐き、直ぐに視線を右月に向けた。
「父様、私は話をしにここへ来ました まず……無言で城を飛び出してしまってごめんなさい」
「……本当だ 心配したのだぞ…」
「でも……もうここに戻る気は無い」
『!?』
一同、騒然とした。
「元々その話をしにここを尋ねたのです」
「…やはりか」
「私は…いつまでも同じ所に居続け、閉じ篭ったままなのは嫌なんです …もっと色んな所に行って、この世界を…見た事の無い世界を、沢山見てみたい」
円香のキラキラとした目の中には、しっかりと決意がみなぎっていた。
「此処を出て行きたいという訳か…」
暫くの沈黙、必然的に、その沈黙は右月が打ち破った。
「お前の口から聞くまでは信じられんかったが… 本当なのだな? この者に言わされたのでは無く?」
「私の意思です」
「……そうか」
右月は小さく息を吐いて、こう言った。
「壊斗。お主にどの様な力があるかは我には分からん …じゃが、何があったとしても円香を、守り抜くと…誓ってくれぬか…?」
「…わかりました 必ず守ってみせます」
壊斗はニコッと笑いながらそう答えた。
右月は安心したかのようにフッと笑った。しかし、その笑顔の奥底には、居た堪れない気持ちがあった。
右月はそこで待っててくれと言って、何処かに行ってしまった。
───数十分後
「おッ」
壊斗は息を飲んだ。右月が大きな風呂敷に包まれた箱を持ってきたからだ。
「…詫び金じゃ 受け取ってくれ」
右月が中を開けると、数え切れない程の金が入っていた。壊斗は度肝を抜かれ、声が出なかった。
「…長旅になるだろうが、金には困らんじゃろう 円香を、宜しく頼むぞ」
「…はい」
壊斗は、右月と約束を交わした。それは、右月が壊斗を見込み、信用した証であった。
壊斗はそれに答える様に大きく返事をした。
・・・
壊斗は城の出口へ向かって廊下を歩いていた時に、ふと声をかけられた。
「円香姫 ちょいとその方と話をさせてくれないでござろうか?」
「…ええ、良いけど…」
円香はキョトンとした顔をしている。
「出来れば"二人きりで"」
「じゃあ工崎さん 私入口近くで待ってますから」
壊斗はおうと返事をし、この処刑人、叢雲と言った男に着いて行った。
道中、無言が続いた。流石の壊斗も自分を処刑しようとした人間と話す話題が思いつかなかった。
「この部屋で良いだろう」
叢雲は部屋の襖を躊躇いも無く開けた。きっと使われてない部屋なのだろうと壊斗は思った。
叢雲は部屋を開けるやいなやいきなり話を始めた。
「まず、単刀直入に聞きたい。某… もしやとは思うが… "神"と出会った事はあるか?」
「え…?」
壊斗は予想外の質問に心臓の音が大きく鳴るのを感じた。
「アンタ…もしや…」
壊斗は無意識に戦闘態勢に入った。
「いやいや 拙者、貴殿と戦う気は毛頭ないでござるよ ───ただ、疑問に思っただけで」
「"会った"って言ったら?」
壊斗は叢雲をジトっと睨んだ。
「だからといって、何も致さぬよ」
「何で、分かったんですか?」
「あぁ……拙者、処刑をする際に罪人が苦しまぬ様、刀に"抗力"を込めて振り下ろすのでござる」
「こうりょく? 物理かなんか?」
「物理───と言う物は存じ上げぬが、まぁ似たような物でござろう」
叢雲は高笑いをした。壊斗は馬鹿にされた気がして少しムッとした。
「ふむ… やはり神に出会ったとて"そうで無い"人間も居るのだな…」
壊斗は叢雲の昔話を聞いた。
「───上位讃會!? それってスザンの!?」
「やはりスザンさんを存じ上げておりましたか… まぁ拙者はとうの昔に辞めたでござるが」
「でも 何でここに…?」
「殿は拙者の剣の腕を見込んで家来にして下さった …恩義に感じておる」
叢雲は続ける。
「あの頃の拙者はどうかしていた スザンさんの命令にただ従うだけ……拙者はより尊敬の出来るお方に付いた。ただそれだけでござるよ」
叢雲は微笑んだ。
「そっか… 話はそれだけ?」
「そうでござるが…?」
「円香待たせてるから」
「では最後に一つ───貴殿が困難に陥った時、必ず拙者が助太刀致す。罪の無い人間を処刑しようとしてしまった事への贖罪でござるよ」
「そっか ありがとう」
壊斗はその言葉だけでも嬉しく思った。
「じゃ…またいつか」
壊斗は叢雲と別れた後、円香の元へ急いだ。
「遅〜い」
「悪ぃな ちょっと話し込んじゃって じゃあ 行くか」
・・・
壊斗と円香は、二人揃って城を出た。右月は何人か護衛を付けると言っていたが、円香は丁重に断っていた。
「───あ、カイトッ!」
「バンッ!」
「円香ッ!工崎さんッ! 無事だったんですねッ!」
「…まぁな いや〜 俺生まれて初めて命張ったわ」
「何があったんだよ」
「実は殺されそうになったんだよね〜」
「は!? 何でぶちのめしちまわなかったんだよ?」
「目で見せた方が早いと思ったからね …それにもし俺が暴れたらお前らに危険が及ぶと思ったから…」
その場に居た皆が一斉に赤面した。
「えぇ? 何だよお前ら…」
「恥ずい事言うなよな〜」
トパーズは照れながらグイグイと押してきた。
・・・
「そう言やぁ お前 そのデカイのは何だ?」
「これ? 円香の父さん、殿様に貰った…」
壊斗は中を開けて中身を見せた。ぎっしりと詰まっている札束を見て、一同驚愕した。
「これ全部金か!? まじかよ!?」
「やっぱり凄いですね〜 右月様は」
「これで当分金には困んなそうだ」
これで壊斗達の不安の種が一つ、消え去った。




