第二十八話「大名」
壊斗は自分の読みの浅さに心底怨んだ。
周りを巻き込みたくないというただ一心で、相手を見誤りすぎたと反省した。壊斗はある可能性を考えていなかった。それは、相手が能力者かも知れないという事だ。
「忠松、姫を頼むぞ」
「畏まりました。」
長政は円香を預けると壊斗を迷路の様な城内を連れ回した後、男は立ち止まった。
「今からお会いするのは殿様だ くれぐれも無礼の無いようにせよ」
「…はいはい 分かりましたよ」
長政は襖を叩いた。
「殿、報告に参りました」
「入れ」
「ははッ」
長政はゆっくりと襖を開け、壊斗を連れて中に入った。
中は高貴な作りになっている大きな部屋で、奥の真ん中に殿様らしき人が鎮座していた。殿様の金色の座布団に胡座をかいており、右膝を立て、その膝の上に右腕を置いている。
この城に入る前に、長政に腕を手縄で縛り付けられている為、身動きが取れない。…と言う体で片付けているだけで、壊斗が少し力を出せば簡単に千切る事は容易だ。
「その者はなんじゃ」
殿の横に控えている男が、長政に声をかけた。襖を叩いた時の返事のもこの男の声だ。
「この者は罪人で御座います。縄で縛り付け身動きを取れなくしております故、御安心を」
「そうか。で、それだけか?」
「いえ。殿様、心してお聴き下さい」
「…何だ」
殿、右月は凍りつく様な冷たい声でそう言った。
「実の所…… 円香姫が見つかりました」
「何と…!」
「何じゃと!?」
辺りが動揺し、騒々しくざわめきだした。
「───は…ッ…うぅ… くッ… そうか… 見つかった…か…」
それに、右月も例外ではなかった。
「姫様の失踪を企てたのも… 全てこの者の仕業で御座います…」
「は……?」
壊斗は全く身に覚えのない罪を着せられ、イラついた。そんな事されてしまえば、誰でも腹が立つものだ。
「今はそんな事、取るに足らぬ。はよう円香に会わせよ…ッ」
「いえ、そうはいきませぬ…」
「───何?」
右月は長政を睨みつけた。
「この者は姫様を危険な状況下に置き、命の危機に晒していました。私の目には姫様は大分痩せ細って見えました… 早急にこの者に処罰を…ッ!」
「……分かった。この者の首を切り捨てよ 叢雲、頼んだぞ」
「…承知致しました」
膝を立てて座っていた髪を後ろで結んでいる男が立ち上がった。
「…円香は、何処におる」
「忠松に預けてありまする 御安心下さい」
「…ちょっと待って下さい!」
「貴様… 言葉に気をつけよ より惨たらしい死を迎える事になるぞ…ッ」
壊斗はそう家来に注意された。
「僕はただ、円香…姫を助けようとしただけで、誘拐した訳でもそれを企てた訳でもございません」
壊斗は一応、ぶをわきまえ発言した。初めて目にする自然と謙譲語が頭に湧いて出てきた。
「まだ言うか! くだらぬ言い訳は死んでからにしろッ!」
「死んでからじゃ意味無いだろッ!」
「…面倒じゃ さっさとこの者の首を刎ねい」
「…そうか」
壊斗は説得を諦めた。話が通じる相手に見えなかったからだ。壊斗は次の作戦に切り替えた。
「我は円香の元へ向かう 只家、後は頼む」
「お待ち下され…」
長政は殿を引き止めた。
「貴様… 先程から殿に対して随分と偉そうだな… 貴様から死ぬか?」
只家と呼ばれた宿老の男がそう言い放つ。
「お願い致します どうか、この者の処刑をお見届け下さい…」
「…はぁ もう良い …ならば、はようせい」
着々と壊斗の処刑準備が始まっていった。
数十分と経たずして、再び壊斗の処刑か言い放たれた。庭の様な場所に案内され、日で焼けた白い岩の上に正座されられ、小刀を渡された。
「これで腹を切り裂く事が出来れば… 罪は軽くなるだろう」
「……ふぅ……ふぅ……」
呼吸が荒くなる。幾ら死なないと思っていても、人間、死ぬかもしれない場面に直面すればほとんどの人間がこうなるだろう。
「何か言い残す言葉は?」
「…何も無ぇよ」
「そうか…」
叢雲と言う男は、刀を構えた。
「腹は…切らない気か?」
「…まぁな」
「…そうか。切り捨て御免ッ! せいッ!!!」
刀が首に到達した瞬間、ガキンッ!と鈍い音を立て、刀が折れ、宙を舞った。
『!?』
辺りがさんざめいている中、その場に居た一人だけ、冷静さを保っていた。
「…お主、首に何か付けておるな?」
右月はゆっくりと腕を壊斗の方向へ伸ばし、壊斗を指さした。
「い、いえ! 先程確認を致しました…! その際には何も身に付けてはおりませんでしたッ!」
長政は声を大にしてそう言った。
「そうか。まぁ良い。大方刃こぼれか何かが原因であろう 」
右月は続けて話す。
「弓矢を用意せい …十本じゃ」
家来であろう男達が、一切に火縄銃を持って集まった。
「───ッ…クッ…弓矢用意! ……放てッ!!」
忠家がそう言った瞬間、壊斗を狙い一斉に矢を射った。




