表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/113

第十四話「蝿」

「…本当に盾の中に入れて持ち運びできんのか?」


壊斗は疑心暗鬼な目でトパーズを見る。


「《黄盾(イエローシールド)》は変幻自在だかんなァ こんぐらいの大きさなら余裕余裕」


人1.5人分の長さのボートをいとも簡単に包み込み、吸い込まれるように異次元空間に消えた。


「じゃあ早く行こうぜ!」




壊斗ら一派は拠点だった場所からほんの少し歩いた所に立ち並ぶ森に辿り着いた。


「早く入ろうぜ!」


「いや…俺、虫嫌いなんだよ…エメルは凄いな 虫得意なのか?」


「まぁ私は…慣れてるから…」


「ほ、ほら 行こう! 俺も勇気を振り絞ります!」


「…」


どうにか場を盛り上げようとするも上手くいかず、壊斗は困り果てていた。


「良し!決心した 森の中に入ろう!」




森。緑豊かではあるものの、鳥のさえずり一つ聞こえず、静まり返っている。


森の中は自然の成れの果てといった感じだ。木の枝が至る所に落ちており歩きずらく、湿った土が足を沈ませ体力を奪う。けものみち等の通り道は無く、足取りの悪い地面に道を作るように歩き続ける。


「暑いわけじゃないのに ジメジメしてて気持ち悪い… それに歩きずれぇし なぁトパーズ お前の盾使って一瞬で森抜けられない?」


「木が不規則に並んでんだから危ねぇし無理だ それに今は使用中だ」


「…言ってみただけだよ」


ブーン。


「うわぁ!!!」


「きゃっ」


突然叫び出した壊斗にエメルはか細い声で驚いた。


「何だよバン!ビビらせんな!」


トパーズもエメルと同タイミングで身を震わせた。


「み、み、耳元で、む、虫が…」


「虫如きで大声出してんじゃねぇよ!」


一匹の虫が、壊斗の耳元を通り過ぎる。そして仲間が居る所へと向かう。


ブン。


二匹目の蝿だ。今度はトパーズの耳元で不愉快な音を鳴らす。


バシっ!


トパーズは自分の耳を叩き、手を確認する。


「ちっ 逃がした」


二匹とも同じ場所に向かう。仲間の場所へ。


仲間は円を書くように集まり、いや違う。球体そのものだ。無数の蝿が一箇所に寄せ集まり。耳障りな音を立てながら浮かぶ。


「蝿か…?」


「うげぇ 気持ち悪ぃ あんだけ集まると吐き気がすんな」


虫等が割と得意なトパーズでさえ、口に手を当てたじろぐ程の気色の悪さ。統率が取れており、集団行動をする性質を持つ"この世界の蝿"は、ここの森だけに生息する。裏を返せば、ここの森以外には蝿は居ない。


「トパーズ お前…耳から血が出てるぞ?」


「あ?」


言われて始めて気がついた。トパーズは自分の耳を触ると、その手には少量の血が付いた。耳たぶから流れ出た血は首筋を伝い服に染み付いていた。徐々にジンジンと痛み出す。


「いったッ 何で耳が切れてんだよ」


『ブンブンブンブンブン』


トパーズが大声を出したと同時に、蝿の大群は三人目掛けて一直線に向かってきた。


「何だコイツら!」


トパーズが叫び声を上げた。確かにさっきまで大人しかった蝿達が向かってきたのは、壊斗たちの姿が見えたからでは無い。"音"に反応したのだ。


「エメルっ!」


壊斗は咄嗟にエメルの手首を掴み、その場から逃げた。


物凄い風圧に目が乾き視界が霞む。だがそんな事を気にしている余裕は無い。


大分離れた所まで逃げてきた。


「エメル大丈夫だったか?」


後ろを振り向きエメルの安全を確認した壊斗だったが、後ろには何も居なかった。


「…え?」


だが壊斗はエメル手首をしっかりと握っている。


少しずつ、少しずつ視線を自身の手に持っていく。


「──ッウァァァァァァァァァァァァァ!!!」


壊斗は目に入ったおぞましい光景に発狂する他なかった。


無造作に、強引に千切れたられた腕、跡からは血が静かに滴り落ちる。


壊斗に掴まれた手首の骨は砕けグチャグチャに潰れて赤黒く変色している。


普通なら曲がらない方向に曲がっている手首は、プラプラと揺れており今にも取れてしまいそうだ。


壊斗は驚きのあまり手を床に振り落としてしまった。


「何だよこれ…ッ何なんだよ…ッ!」


呼吸はどんどん荒くなっていき、過呼吸になっていく。上手く呼吸が出来ず、苦しい。


感覚は掴んでいたはずなのに、完全に慣れてはいないけれども、密かに毎夜毎夜訓練をしていた。力の抜き方や入れ方について。




時はお婆さんの家に泊めさせてもらっている時に遡る。


「クソッ!上手くいかねぇ…」


壊斗は自身の能力の研究に勤しんでいた。


慎重に、慎重に。丁度いい力の抜き入れを。


力を上手く扱う為の練習は至ってシンプルなものである。最小限の力で走る練習、落としておいた物を走りながら壊さずに拾い掴む練習、木が生えている所まで走りその木にそっとタッチする練習、最小限の力で飛び音を立てずに着地するといった感じでクリアしたら次へという形で進んでいく。


然し訓練は決して楽なものではなかった。


三ヶ月間毎日練習したとしても完璧には制御が出来なかったのだ。




「早くエメルの所まで行かなきゃ…」


高鳴る鼓動を沈める為…気を落ち着かせる為に深呼吸をし、練習通りの最小限の力の入れ方で、それでいて自分の制御できる最速の速さで二人の元に向かった。




「エメルッッッ! 時間かかっちまった! 大丈夫か!?」


咄嗟に走り出したせいで、自分が今森の何処に居るか分からなくなった壊斗は、エメル達の元まで辿り着くのに時間がかかってしまった。


然しそこに居たのは無数の蝿に覆われ、体蝕まれていくエメルらしき者の姿であった。


「エメル!」


助けようとしたが、踏みとどまってしまった。次もエメルに危害を加えてしまったらどうしようと。


「…おいトパーズ 何ボーっとしてんだ…」


「…え」


「え じゃねーよ! 何で助けねぇんだよ!あんな状態になるまで… 早くしろ!」


「わ、分かった」


トパーズが盾を取り出し、中身を外へ出している間に壊斗はエメルの体にまとわりつく気持ちの悪い蝿を一匹ずつ確実に取り除き潰していく。


「エメルっ ごめん… ごめん…っ」


壊斗は今日ほど神と自分の能力を恨んだ日はなかった。


何百匹ともなる蝿に至る所を食いちぎられ、地面に血溜まりを作り、酷い激痛のはずなのに声を上げないエメルの気持ちを思うあまり、壊斗は泣き出してしまった。必死に今自分が出せる安全かつ最速の力で体にへばりつく蝿を掻き分ける。


微かに見えるエメルの体は食い破られは治りを繰り返している。


何十匹かは壊斗の手を伝い、瞼の裏、目頭、鼻の穴、口の中、といった体の隙間という隙間に潜入してくる。


感触が気持ち悪い。


「おぅらぁぁぉぁ!」


後ろから刀で斬り上げるかの如く盾をマント状にし、トパーズは仰いだ。


「クッソ! コイツら全然飛んでいかねえ! ど、どうすんだ!?」


「…い…いた…い」


エメルが声を出した。


「え、エメル! 」


「エメルごめん 今の俺にはこれしか思いつかない」


躊躇いつつも千切られた腕を口に咥え、エメルを背負った壊斗は森の出口まで一直線で走り出した。トパーズを置き去りにして。


口に咥える際、豆腐を崩さずに噛むイメージを心がけた。


地面少し強くを蹴っただけで、地は抉れ、地鳴りが響く。周りの木々は生じた風圧によりへし折れ、壊斗に道を作る。


気がついた時には、崖を飛び越えていた。数十メートルはある空中からエメルを包むように背中を向け、水面に着水する。大きな水しぶきをあげながら。大方計算通りではあったものの、思ったより少しスピードが早すぎた為、ほんの僅かだか酔ってしまった。


…水の中。痛みは無く、酷く冷たく感じた。エメルの体から蝿が剥がれる。傷口に染みてしまうとも思ったが、永遠に続く痛みよりはマシという算段だ。


エメルに力が戻り、エメル自身の力で壊斗に掴まった事を確認し、腕を伸ばし指先のみで水を掻く。トルネードを作るように指の方向はそれぞれ逆向きで。


水中は竜巻を作り、その流れに乗って水面に顔を出すことが出来た。


「ぶはあっ!…はぁ…はぁ エ…メル 大丈夫か?」


「…」


「エメル…?」


心臓の鼓動は背中越しで聞こえる。ただ気絶してるだけのようだ。壊斗は胸を撫で下ろした。力が入ったのは、無意識だろう。



感じたその鼓動が、壊斗のものであるとも知らずに。


「安心なんかしてる場合じゃない… このままじゃ息をしてるか確認することが出来ねぇ 陸に… 陸に上がらなきゃ」


ザバーン。


不意打ちで食らった波に飲まれる。息が出来ない。


「バン!!!」


盾を弾む素材しかえ、器用に飛び移りながらトパーズが駆けつけた。


崖手前の地面に着地し、盾を縄ののうな物に変え、壊斗の居る方向に投げる。


「掴まれ!」


不服だったが、掴まる他ないので縄を掴んだ。


ブチッと音を立て、縄は千切れた。


「…っくそ!」


縄はそのまま粉々になり、光とともに消え去った。


壊斗は前にもやったが、次上手くいくとは限らないが、少しの可能性に縋り、手を鳥のように羽ばたかせた。エメルが掴み続けていられるとも限らないのに。


「エメルっ!」


力は続かず、エメルは案の定空中の途中で落下してしまった。


「あ…あ…っ ……キッ」


トパーズはエメルを助ける事を決意し、海に飛び込んだ。


エメルの着水には間に合わなかったが、しっかりとエメルを担ぎトパーズはバタ足で崖下まで向かう。


ドシーンッ!と大地が鳴り響く。壊斗が着地したのだ。


トパーズは崖下に着くと右手と両足のみで崖を登り始めた。利き手の左手はエメルに封じられている為だ。


高さは結構あり、多少時間がかかったが何とか登りきることが出来た。


先に崖上に着いていた壊斗は二つの意味でトパーズに手を差し伸べることは出来なかった。


「ハァ…ハァ…! バン! 良かった 無事なんだな!?」


今更その名前で呼ぶトパーズに嫌悪感を覚えた。


「…エメルをうつ伏せにして呼吸を確認しろ」


「わ、わかった」


トパーズはエメルの鼻と口付近に手を当てる。


「違ぇよ もういい 俺が確認する」


壊斗は十秒程度胸の動きを観察し、呼吸音を確認する。


「…息してねぇ」


「死んじまったのか…!? どうすんだよ!」


「…胸骨圧迫だ 今の俺には出来ない やり方は分かるよな?」


「わかんねぇよ!? カイトがやってくれよ!」


「この能力のせいで無理だ …やり方は教えるからお前がやれ」


「わかった…」


「まず胸の真ん中辺り…そこに手を重ねろ で確かドラ〇もんの歌 って知らねぇか」


壊斗は頭の中でド〇えもんの歌を流す。


「…一秒三回だ 一秒三回のペースで胸を圧迫するんだ 早く!」


トパーズは指示通り何回も、何回も胸骨圧迫をした。


およそ二分経過、未だ意識は戻らず。


「くっそ… こうなったらもう人工呼吸しか…」


壊斗の頭には、一人の女子が過ぎる。


「…お前がやれよ 兄妹なんだし」


「じんこうこきゅうって何だよ」


「うろ覚えだ… どうやるんだっけか」


「とりあえず…鼻をつまんで口で覆うように息を吹き込むんだよ」


「キスじゃねえか!? やだよ! お前がやれって!」


「ッ俺は…」


「さっきから馬鹿でけぇ音立てやがって…魚が逃げちまったじゃねぇか」


どこからか知らない男の声が聞こえた。


「ん?…おい…おい! その子どうしたんだ!?」


「あ…えっと」


「まさか気失ってんのか!? 息は!?」


「…してない…です」


「胸骨圧迫はしたのか!」


「まだ…です」


「早くしろ!二人の内のどっちでもいいから!」


「…無理だ…」


トパーズがそう言葉を漏らした。


男は二人を突き飛ばしエメルの口を自らの口で塞いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ