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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第八十五話「寡戦」

「あれは……エメルかッ!!」

「───皆さんッ!」

 皆の元へ駆けつける最中に、右月らと対面し、双方馬を止める。

「良かった、無事で……」

「いや、瀕死の者が多数出てしまった。金創医が救護に当たっているが、一刻を争う。すぐに駆け付けてくれッ!!」

 エメルはその言葉で、壊斗の嫌な予感が的中していた事に酷く心を痛めた。

「道を開けろッ!」

 右月は家臣にそう指示を飛ばし、エメル一人通れる程の道が開かれる。

「ワシらは逃げた隠田を追う、お主は皆の治癒を頼むッ!!」

「───はいッ!!」



「……ッ」

 再び主戦地に辿り着いたエメルは、そのあまりの惨事に口を押さえ、絶句する。

 すぐに回復に取り掛かろうと馬を下り、瀕死の者たちの元へ駆け出す。


「───エメル、来たか……ッ!」

「む、ムラクモさん……!」

 その声の主は、金創医に手当てを受けている叢雲の声だった。

「取捨選択だ、エメルッ!! 」

「え……?」

 痛みと出血に耐えながら、必死に声を振り絞り、話し始める。

 死体を壁を隔て、二人は会話を始めた。

「首を落とされた後……数秒の間は意識を保つ。が、それを超えると完全に死に至る。死者は生き返すことの出来ないという話の通りなら……死に至らない程度の、助かる見込みのある重傷者を、優先的に助けてやってくれ。……俺はまだ耐えられるッ! まずは助かるはずの命をッ!!」

「───はいッ!!」


 …


「見つけたぞッ!! 隠田だッ!!」

「血に塗れてる……疲弊してるようだ」

「ん、あれは……壊斗かッ!?」

 睨みつける隠田の傍。血が滲みながら横たわる壊斗の姿が右月の目に入る。

 隠田によって川から引き上げられていたのだ。

「皆、止まれッ! 彼奴、何を企んでいる……ッ!?」


 右月は重臣と共に馬を下り、隠田の元へ近付く。

 ───えらく慎重だな。たかが小僧一人に。まさかこの小僧、何かあるのか?

 隠田は賭けに出ることにした。

「……安心しろッ! こいつはまだ死んでねぇよ。今なら助けることも出来るだろうな。あの小娘ならな」

 そのまま片足で背中を踏み付け、壊斗の首の真上に刃先を近付ける。

「今から少しでも余計な真似をすれば、こいつの首を落とす。そして条件だ。それを飲まない場合も、こいつを殺す」

 右月は家臣達に手で合図を送り、隠田の目を見ながら、言ってみろ。と啖呵を切る。

「一つ、これ以上の接近を禁ずる」

 そうすることで、自分が不利にならないような間隔を保たせた。

「二つ……武器を地に捨てろ。全員、例外無く」

「三つ! あの緑の小娘をここへ連れて来させ、俺の傷を治させろ!! それが条件だッ!!」

「どうだ。飲むか、飲まないか。二つに一つだ。さっさと決断しろよ」

 そう言葉を吐き、不敵に笑う。

 右月は渋々、武器を下ろせ。と合図を出す寸前。壊斗が最後の力を絞り出し、振り払うように刀を弾いた。残っている微かな力で、一瞬でも隙を作るため。

 ───誤算だったッ! さっきまで確かに呼吸はしていなかったはず……それに、肩、腕関節はすべて斬ったはずだッ!! 動かせるはずが……ッ


 これが千載一遇のチャンスであると、皆理解していた。忠松は壊斗を少しでも隠田から遠ざけようと、服を掴み後方へ引き摺り下げた。それと同時刻に日比谷は隠田の刀を蹴り飛ばす。

 隠田は一瞬顔を顰め、刀に目線を奪われる。その時。

「掛かったな」

 城戸は隠田の両足を踏みつけ、両の手で隠田の右腕に掴みかかり、背負い投げるように引っ張った。

 ブチブチと筋を千切りながら、肩から分裂した。痛みに意識を奪われた所に、トドメの一撃として右月は隠田の首目掛け刀を振った。


 …


 これは、数回に渡る会議の中の一つ。奇襲に関して、具体的な内容の話し合いまで話が進んでいた。

 前会議の結果、天文街へ奇襲の際、東雲城を裏から攻められることのないようにすべく、籠城に人員の4分の1を割くこととなった。籠城兵は鍛冶屋、大工などの職人業で基に構成された。奇襲ということもあり、単なる保険に過ぎなかったが。

 そして今回、城に誰を残すかの話し合いも終え、順当に話し合いが進む中、右月が口を開く

「……ワシも参戦する」

「は、反対ですッ! 殿が()られてしまえば、元も子もありませぬ! ここは城で籠城にッ───」

「だが……」

「分からないか? 遠回しに足手まといだって言われてんだぜ。殿」

 その発言に、重臣達は背筋を凍らせた。

「あくまでこれは奇襲。事前訓練も大詰めに入っている。わざわざ殿が戦地に赴く必要は無いんだ」

「……優馬の物言いには、未だに肝を冷やすばかりだ」

 重臣たちはため息を吐く。

「仕方ないだろ。俺はその役を買われて、ここに居るんだから。違うか?」

【東雲家 軍師 日比谷優馬(ひびやゆうま)


「……優馬はブレないな。だがそこに信を置いている」

 右月のその言葉に、優馬は頭を下げた後、話を続ける。

「その上、万が一にも殿が居なくなったら、円香姫が悲しがる」

 右月はその言葉を噛み締め、そして結論を出した。

「お前の言葉、よく分かる。けれど、この奇襲が上手くいかねば、死人は出る。いくらエメルの力があったとて、死者をゼロに防ぐ事は出来ないと踏んでいる。こちらも少なくない勢力を王衆国へ送る。とてもじゃないがエメル一人では手が追い付かんだろう」

 次第に沈黙の時間が長くなる。一足先に笹森が賛同の声を上げた。

「そうですな。金創医の手で延命処置を出来たとしても、限度があります故……」

「死者の出る中で、長の立場でありながら戦に赴かず、籠城する程、まだ腰は抜けておらん」

「それに、貴様らに心配されるほど、ワシは落ちぶれちゃいないぞ。……仮にワシが死のうが、東雲軍が全滅せぬ限り負けはしない。平和な世を掴む為、それを脅かす者達を討つ。それが、この戦の本来の意図だ」


 …


 ───皆で作り出した一瞬の隙、逃しはせんッ!!

 右月の刃が隠田の首に到達する寸前、顎を思いきり引き、刀を顎と鎖骨で挟み、攻撃を無効化した。

「……腕ぇ、一本捥いだからって、勝った気になっちまったのか?」

 顎で刀を挟み込んだまま、右月を蹴り飛ばし、その力に耐えきれず彼方後ろへ吹っ飛ぶ。それを槍兵数名でが受け止めることで何とか事なきを得た。

「───かはッ!!」

 だが、隠田の蹴りにより肺に肋が突き刺さり、その為内蔵に多大な損傷を負ってしまっており、吐血した。朦朧とする意識の中、気合いだけで意識を持ち堪えた。

「だいよん……じんけい……」

 そう言い残し、右月は意識を失った。

「だ……第四陣形ッ!! 第四陣形を作れッ!!」

 右月に代わり、声を聞き届けた槍兵長が指揮を執る。

 槍兵長の叫び声をしっかりと耳に入れた隠田は、ねじ切られ血の吹き出す切断部を抗力を込め握り潰し、止血した。

「お前ら如き、刀無しで十分」

 禍々しいオーラが漂う。隠田の抗力は、どす黒く変色してゆく。

 全身に力を入れ、構えをとる。丸腰にも関わらず、とてつもない威圧感を醸し出している。

 槍兵の邪魔にならぬよう、その場から離れようと考えるであろう重臣達を逃がすまいと、隠田は左手に抗力を纏い、まずは忠松の首目掛け手刀を落とす。防御は間に合わず、されるがままに攻撃を受け、首がへし折れた。忠松は涎を垂らしながら脱力し、前方向に倒れる。その隙に刀を奪い取り、間髪入れず刀を振るう。

 腕の恨み。と言わんばかりに城戸を狙う。人中を境に、真っ二つにされ、頭が飛ぶ。この間、僅か二秒。

 その速度に対応出来る者はおらず、目で追うこともままならなかった。

「……切れ味が悪ぃな。なまくらは」

 そうボヤきつつ、長政に目線を移す。次はお前だ。と宣告するかの如く。

「うがぁあああああッ!!」

 田島は、間一髪長政の襟を掴み、思い切り後方へ引き、隠田の攻撃を躱した。そのまま転がるように槍兵達の足元に紛れた。

 そして、もう片方の手で失禁している日比谷を捕まえ、抱きかかえながら槍兵の間をくぐり抜け、死ぬ気で逃げ果せた。

「……ふん。これがしたかったのか」


 槍兵達は槍を構えて極限まで距離を詰め、総出で隠田の周りを囲む。第三陣形と違い重臣が中に居ない為、より密となり、完全に逃げ道を封じた。

 これが、第四の陣形。疲弊した隠田を追い詰めた場合のみ発動される陣形。隠田が満身創痍の場合、思わぬ方法で突破される可能性もある為、この陣形が組まれるのは限定的であるが、ある程度疲弊した者を制圧するのに長けている陣形だ。この陣形は、槍兵だけで構成された三重の円を作り出し、全勢力で一人を取り囲む。

 一周目、二周目、三周目ともに、槍先の位置が重ならないよう、前と平行にならないように構える。こうすることで、仮に一周目を突破されそうな際も、二週目で食い止めることが出来るのだ。

 中には、足が震え、今にも逃げ出してしまいたい。と考える者も多かった。しかし、この陣形に希望が見え、勝ちを確信していた。それが槍兵達の足を踏みとどまらせる所以だった。

 拾おうとする隠田の刀を踏み付ける。

「隠田ッ!! 貴様らに奪われた家族の無念、晴らさせてもらうッ!!!」

 一人の槍兵が声を荒らげる。

「貴様の刀なんぞ、この俺がへし折ってくれるッ!!」

 続けざまにそう叫び、刀身を踏みにじった瞬間。

「おい……お前、足がッ!!」

「……?」

 確かに刃は横を向いていた筈が、いざ足を見てみると、刀は何故か刃先が上を向いたままになっており、思いっきり踏み付けた事で、土踏まずを境にサックリと二つに別れた。

「……ッ!?」

 痛みに顔を顰め、足を退かす。

「危険だッ! 私が拾い上げるッ!!」

 隠田の刀に違和感を感じた槍兵の一人が、先頭に立って刀を拾い上げた。

 確実に柄を持ったはずだ。しかし、刃先を掴んでおり、柄だと思いこみ強く掴んだことにより、五本の指は皮一枚繋がった状態になってしまった。

「うがぁああああ!?」

 絶叫し思わず手放す。刀はカランと音を立て倒れた。

「常人にゃ、その刀を掴む事出来ねぇよ」

 至る所から槍先が覗く状況で、隠田はひどく落ち着いていた。

「槍、用ォ意!!」

 槍兵長がそう叫ぶ。そのままの流れで、突き刺せッ!! と発しようとしたその時。

「待てッ!」

 言葉を遮り、負けを認めるかのように、潔く地面に刀を深く突き刺す。

「……降参だ。殺るなら殺れよ」

 それは、心身ともに疲れきった兵達にとっては、蜜より甘い囁きだった。その一瞬の気の緩みが、命取りになるとも知らずに。

 身振り手振りで敵を欺き、油断させた瞬間、突如として刀を半回転させる。

「なんてな」

 刃が前方を向きながら上に斬り上げる。それによって地面を裂き、大規模な地割れを起こした。

 その地割れは、前方を広範囲にわたって攻撃した。それと共に大きな土煙が上がり、他の者たちの視界を奪う。

「くッ……まだ、そこまでの余力がッ!?」

 兵の内の一人が、震える声を漏らす。

 隠田は刀を鞘に収め、極限まで姿勢を低くし、地面を蹴って前方に突進。土煙に乗じ、姿を隠しながら地割れを飛び越え、その先に居る槍兵達の足元を攻撃した。

「刀を蹴った借りはこれでチャラだ。小便小僧が」

 足元に潜んでいた日比谷の首を斬り飛ばし、そう吐き捨てた。

 ───短時間だが、広範囲の視界を奪う土煙。この状況下、お前らは誤って味方を攻撃しないよう、槍を下げざるを得ないだろ?

 隠田は次の手として、上等な人質を選定していた。誰も手出し出来ないような、大物を。それは即ち、右月の事だった。

 日比谷を斬った際付着した血を振るうように、右月目掛け血の斬撃を飛ばす。だが、右月を守らんと数人の槍兵が立ちはだかり、血の斬撃を受け一斉に首が飛んだ。

 外した。そう思った時、土煙の中に、微かに緑色の髪が煌めく瞬間を目撃した。その瞬間ハッと息を飲み、死に物狂いで捕まえに掛かった。

「阿呆が」

 動くな。と言わんばかりに刀を振り下ろす。的確にポニーテールを斬り落とし、結いていた髪がたなびく。

 腕を回し、肩を組むように拘束し、顔を近づける。その正体は、やはりエメルだった。徐々に視界が晴れてゆき、足元に壊斗が倒れていることに隠田は気付く。

 不幸中の幸い、エメルは壊斗に少しの間触れることに成功した。しかし、すぐに隠田はラリアットの体制のままエメルをなぎ倒す。

 エメルは地面に叩き付けられた衝撃で鼻血を吹き出す。そのまま背後を取り、両足でエメルの身体を挟み込み、動きを封じた。勝利宣言するかの如く、刀を地面に突き刺す。

 隠田は達観したようにエメルに語りかける

「……命が惜しければ、今すぐ俺を治せ。この目も、歯も腕も全て」

 血と共に、冷たくそう囁いた。エメルを人質に取られ、東雲の軍勢は迂闊に手出しが出来ない状況に陥った。

「何のカラクリか知らんが、大方俺のような力の派生だろ……? 今からでも遅くない、俺に着け。俺は無限に蘇る事が出来る。これまで受けた傷や疲労も瞬時に元通りだ。お前らに勝ち目は無い」

 エメルは、度重なる疲労により息を切らす隠田を尻目に、地面へ突き刺された刀に手を伸ばす。隠田はそれを傍観し、ほくそ笑んだ。

 ───何をしでかすと思えば……阿呆が。柄に手を掛けた瞬間、刀は回転し、刃先を向くだろうな


 エメルは刀に手を掛けると、そのまま柄を握り締めた。

 ───か、刀をッ!?

 エメルは地面から刀を引き抜き、驚きのあまり思考が停止した隠田諸共、自身の腹に刃を突き刺した。

「……ッ!?」

 隠田は腹を貫かれ、声にならない声と共に、口から血を吹き出す。エメル自分ごと道ずれを狙ったのだ。

「この、餓鬼……ッ 何を、考えて───」

「私は死なない……死ぬのは、アナタだけ」

 口から血を零しながら、振り返り様にそう囁く。

「今……ですッ!!」

 叫んだ事により、血流が活発化し、エメルは更に血を吐き出す。

「何だって───」

 そこに、タイミングを見計らって、一人の男が現れる。

「……京壱よ。さらばだ」

 叢雲は、トドメの一撃として、隠田の首を落とした。


 …


 隠田京壱の死亡後、厳戒態勢のまま暫く放置し、蘇ることが無いという確証を得た後。

 残った者達は、戦後の処理に取り掛かった。

「エメルよ、話は聞かせてもらった。そなたの作戦、見事だった」

 エメルの献身的な回復により、息を吹き返した右月はそう褒め称えた。

「ありがとうございます。でも、沢山の犠牲が出てしまいました」

「自陣の死者は、五十二名だそうだ。三百人中だぞ。もしエメルが居なければ、どうなってた事やら……」

「エメル! 一つ聞きたいことがあるのだが……京壱は最期に何か、言っていなかったか?」

 その問いに、目を真っ直ぐ見つめて答える。

「『俺は無限に蘇れる』って言ってました。傷や疲労も元通りになるって。でも、すぐに嘘だって分かったんです。もし本当にそうなら、私に頼らず、すぐに自分で死ぬことを選ぶはずだから。それで今まで受けた傷や疲労が治るなるなら、そうするはずでしょ?」

 それは至極真っ当で、間違いは無い。ただ、齢13の少女の発言にしては、少々薄気味悪く感じた。

 その時、エメルの膝で眠っていた壊斗が、目を覚ました。

「───カイト! やっと起きた……!」

 エメルの声に、エメルの匂いだ。その情報だけで、自分はまたエメルに助けられたのだと気付かされた。

「……もう、終わったのか……?」

「うん、終わったよ」

 エメルはそう優しく声を掛けた。徐々に視界が戻ってくる。

「誰が、隠田を……?」

「最後まで皆で戦った。でも、トドメを刺したのは、ムラクモさんだよ」

「凄いな。俺だけじゃ、とてもじゃないけど敵わなかった……」

「いいや、彼奴は戦いの中で覚醒していた。壊斗が京壱の体力を削ってくれていなければ、勝てていたか怪しい。だから、ありがとう。二人共。本当に助かった」

 叢雲は、改めて二人に深々く頭を下げた。


 敵陣7000対、自陣300。

 結果、自陣の約50人が死亡。後に王衆の乱と呼ばれるこの戦いは、東雲軍が勝利を収める形で終結した。


 …


 それから、壊斗たちは他の作業を手伝った。その間、叢雲は少しだけ一人にして欲しい。と申し出て、故郷のとある場所まで向かっていた。そこは、草一つ生えていない大地に一本の木が聳え立つ。とても思い出深い場所だった。

「……静かになったな。ここには、俺とお前だけだ。……少し付き合ってくれ。なに、ただ昔話がしたいだけだ。……いつもの三人でな」

 胡座をかき、刀に突き刺した生首に語り掛けた。昔を懐かしみながら。

天文街及びジャーバル編は、残すところ後二話となりました。次回、天文街過去編です。

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