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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第八十四話「王衆の乱」

更新がとてつもなく遅れてしまい、本当に申し訳御座いません。期末試験や教習所等、立て込んでたのもあるのですが、天文街編、過去一手こずっている状況です。ここからは駆け足で執筆していくので、どうぞ宜しくお願いします。

 ───俺は……俺たちは、ここで死ぬのか……?

 敵を戦いと中心へ近づけさせないという(めい)を受けた騎馬兵の中の、負傷者は、そう考えた。


 …


 遡ること、二日ほど前。数年間一切開かれていない、大名からの招集があった。何事か。と農民たちは広場に集まる。

『あれは……叢雲様?』

 人々の目線の先、高台の上には、叢雲の姿があった。

『ちっ。俺たちがどんな目に合おうが、ろくすっぽ動きやしねぇ連中が、今更何の用だよ……』

『そんな言い方するなよ。きっと対処してくれているはずだ』

『まさか、もっと米を納めろって言い出すんじゃねぇだろうな……』

『本当、酷な連中だよ。自分たちさえ良ければ、それで良いんだろうぜ……』

 農民同士、常日頃感じている事への愚痴を顔を見合せて零す。

 そこで叢雲は、深呼吸し、二日ほど前の記憶を蘇らせていた。


 ……作戦会議にて。順調に話し合いが進んできた頃。

『しかし、幾ら奇襲と言えど、失敗する可能性が零でない以上、農民らを集めねばなりません』

 重臣のみで行われた作戦会議にて、日比谷優馬が新たな課題を提示した。

『それならば、彼らの活気を高める為、演説は必要不可欠』

 他の重臣も賛同をする。

『だが、演説をするのならば、民からの人望が厚い者でなければならない。……叢雲、お前に頼みたい』

『し、しかし……』

 右月は頭を下げる。決して軽くない頭を。

『嫌な役柄を任せようとしているのは重々承知だ。天文街からの攻撃を承知の上、黙認していたのは事実。その理由がどうであれ、民には関係のない事。我々は民からの不信感も強いだろう。それを払拭出来るような演説、お前なら出来ると信じている。そんな大層なこと、ワシには務まらん。……そなたにしか頼めぬ事だ』

 叢雲は慌てて右月よりも深々く頭を下げる。

『殿、頭をお上げください。……承知致しました。必ずや、成し遂げてみせましょう』


 ……そして、今に至る。

『皆、心して聞いてくれッ!! 殿から王衆国、天文街との開戦が告げられたッ!! 開戦は明明後日の丑三つ時、奴らの城へ奇襲を仕掛けるッ!!!』

 開戦という二文字に、民はどよめき出す。長年の間、形上は平和が続いていた。開戦というのは、それを脅かす発言であることは事実だった。

『奴らが才賀国(この国)にどのような危害を及ぼしているか、皆重々承知していると思う。そして、それを表立たせる事無く、沈黙を貫かねなければならないという風潮になりつつあるということも……』

 その言葉に、民はザワつく。大事(おおごと)になぬよう、そうしなければという風潮は確かに存在していた。そして、その事実を東雲の者の口から発せられたことに、皆驚きを隠せなかった。


『しかし、私はそれに意を唱えたいッ!! 生きる。というのは、我々の持つ当たり前の権利だッ!! 何者にも奪われていいはずがないッ!! だが!!! 奴らは命を軽視し、我々からその権利を剥奪する。奴らに大切な人を奪われ、耐え難い憤りを覚えた者も多いだろうッ!!』

 互いに定めた不可侵の条約を破り、天文街の一部の連中によって、罪の無い人々へ危害を加えられるという事案が年々増増えていた。実害はまだ少ないが、大切な人の命を奪われた者たちがいることに変わりはなかった。


『だが、天文街へ攻め入る事は出来ない状況であった。こちらからも危害を加えてしまえば、個人間の揉め事から、やがて大戦(だいいくさ)へ発展するかもしれない……と』

『戦となれば、奴らも勢力を上げて攻めてくる。そうなれば、今までに無い数の死者が出る。我々は奴らから奪われるだけの日々を、唇を噛み締めて耐えるしか無かった』

 その言葉で、人々は悲しみと怒りに包まれた。叢雲はそれを見越し、敢えて感情を揺さぶった。

『───そんなのは間違っているッ!! 皆そう思っていたのではないかッ!? 信じては貰えぬかも知れないが、私も強くそう思っていたッ!! 何度も策を練ってきた。だが我々には決定打がなかった。自信を持って戦を起こそうと決断出来る、切り札がッ!!』

『しかし今宵!! 遂に我々が反旗を翻す時が来たッ!! 奪われ続ける日々を強要される必要はもう無いッ!!』

 そう叫んだ叢雲は、はぁはぁと呼吸を整える。そこで、農民の一人が声を上げた。

『じゃ……じゃあ何故今まで黙りを決め込んでいた!?』

『そ、そうだ!! この件に関して、お前たちは頑なに触れなかったじゃないかッ!!』

『何かしらの対処は行っていたと、一言仰って下されば、私たちだってッ!!』

 それに反発されたよう、いくつもの抗議が起こる。

『付け焼き刃の策などッ! 公言すべきでないとの判断だった。申し訳なく思っている。だが、決定事項でなければ、ただの途中経過に過ぎない。皆を過度に期待させてしまう軽率な発言だと我々は考えた』


 暫しの沈黙の中、一人の大工が質問を始めた。

『……何が、叢雲様方に戦を決断させたのですか!? 一体、何がッ!!』

『───試行錯誤を繰り返し、隙の無い戦略に辿り着いた。……そして、それを遂行するための戦力を確保したッ!! 後はここに居る皆の力さえ貸して貰えれば、最小限の被害で奴らに勝つことが出来るだろうッ!!』

『被害一つ出さないなんて、綺麗事は言わないッ!! だが、最小限の被害で済ませられることさえ奇跡に近いッ!! 必ず勝利を収めると我々は……俺自身もそう思っているッ!!』

『いいかッ! 我々が奴らに勝つ可能性は十二分にあるッ!! 今この時、この好機を逃す選択肢は、我々にあるだろうか。いや、あるはずがないッ!! 憎き天文街を滅ぼし、束の間のものでなく、永久的に平和に暮らせる世を取り戻そうッ!!!』

 叢雲の声に、演説に、多くの歓声が上がった。他者に借りた言葉でなく、自分で作り出した言葉。それは、多くの民に希望を持たせ、心に響いた。常日頃から天文街に悪感情を抱いていた者たちの心を、上手く利用した演説だった。


 …


 その演説を思い出し、農民の一人は思い直す。

 ───いや、俺の死にはきっと意味がある!! 皆で笑い合える世のため……そんな時代を後世に託すッ!!! 皆、後は頼んだ……!

 一人の兵に、天の迎えが来るその前。微かに開く目には、煌めく緑色の天の使いが映った。


 十数秒後、自然と目が開く。落馬によって投げ出され、地面に強く打ち付けられた身体は嘘のように軽くなり、力が入るようになった。すると、敵に切りつけられ負傷した筈の馬が駆け寄ってきた。

「お前も……あれは、女神……神様は、実在したのか……」

 男は手を合わせて神に感謝し、落とした槍を手に取り、馬に乗って再び敵を殲滅しに向かう。恵んでもらった命が尽きるまで。


 …


「おいおい、もうバテちまったのか? 五人掛りで?」

 隠田はニヤケながら右月や重臣たちを挑発した。

 ───とは言ったが、俺の方も体力の限界が近い。さて、どうするか……


「お前こそ、今にも死んじまいそうだな、隠田!?」

「他の奴らは腰抜けばかりだが、お前はやるなぁ? 糞禿げ」

 息を切らしながら刀を構える田島を素直な気持ちで賞賛した。

「……伊達に、叢雲さんに稽古付けて貰ってねぇんだよ」


 互いに限界を迎え、刀を構えたまま呼吸を整える。そんな中、家来たちを掻き分け、叢雲が鬼の形相で飛び込んで来た。

 叢雲の姿が目に映った瞬間、隠田はまた狂気に満ちた笑顔に戻り、刀を振って田島を払い除け、叢雲に応戦する。

「待ちくたびれたぜ、おいッ!!」

 隠田は歓喜の声で叫ぶ。

「皆、ご無事で!?」

「他にかまけてられる程余裕か!? 光景ッ!!」

 隠田は、叢雲の呼び掛けに苛立ちを見せた。再び刀を交わすと、叢雲はあることを察する。

「……京壱。疲れてきてるな? 刀の振り方が雑になっている」

 冷静に分析した後、目に力が入る。

「あの頃から何も変わってないな、お前はッ!!」

「お前こそ、主を置いてどこで道草食ってた? 主を身を呈して守るのが、下っ端の役目だろ……!?」

 再び二人の激しい交戦が始まる。その隙を突くかのようなタイミングで、エメルがやってきた。

「皆さん、お待たせしました……!」

 エメルは馬の上から、小声で呼びかけ、負傷した右月たちの回復を始めた。その姿を目の端に映した叢雲は、思わず攻めの手を止め、攻撃をいなす事に専念した。

「ソイツだ……ソイツ!! 緑髪の餓鬼ッ! 何だお前は! 一体何をしてるッ!?」

 エメルを指差しながらそう叫ぶ隠田。片手で刀を持ち、叢雲の攻撃を捌く。もはや叢雲の姿は、周辺視野で捉えていた。

「何故ソイツらの傷が癒えるッ!? 何をしたッ!! 光景の足も、お前が治したのかッ!?」

「お前こそ、何処を見てる京壱ッ!」

 他者の声が耳に入らなくなった隠田は、引き続き攻撃を捌きながら、交渉に入る。


「おい……嬢ちゃんッ!! お前だけは殺さないでおいてやる……だから、こっちに来い! 俺に付け!! 悪いようにはしねぇッ!!」

 隠田がエメルだけに注視しているその隙に、一人の槍兵が背後から忍び寄り、隠田に向けて槍を突き刺した。槍は腹部を貫通し、隠田は腹の先に伸びる槍先を見て、刺された事に気が付いた。


「……なんだぁ? こりゃあ」

 隠田は笑いながらゆっくりと槍兵に歩み寄り、患部からは血が吹き出す。そのあまりの狂気さに、槍兵は思わず退いた。

「おい、突き刺した側が何故退く? もっと足腰に力入れて、踏ん張らないと……」

「それ以上動くな。京壱」

 叢雲は、刀を隠田の顔に突き立てる。刃先が頬に触れ、傷口から血が伝った。

 叢雲は圧だけで隠田の動きを封じる。既に憔悴しきった隠田は、ただ睨むことしか出来なかった。


 すると、別の槍兵が隙を突いて近づき、瓢箪の口を開き、隠田目掛け中身をぶちまけた。

「───ッ!?」

 液体の冷たさで、冷静さを取り戻す。

「何を、した……?」

 隠田は彼を鬼の形相で睨む。しかし、彼は既にもう槍兵の中に紛れていた。その隙に、エメルもこの場を後にした。

「───皆数歩退けッ!!!」

 右月が指示を飛ばすと、隠田囲む全ての人間はその場から退(しりぞ)き、槍兵と弓兵の間へと入り込み、いつでも前に出れるような体勢で様子を見る。槍が腹部を貫通したままの隠田だけを真ん中に置き去り、槍兵たちは離れた位置から槍の先を突き出して囲んだ。

 その時、隠田はこれから何が起きるかの察しがついた。しかし、蓄積されたダメージ、疲労のせいで膝から崩れ落ち、何とか立膝はついたものの、そこから一切身体が動かなかった。

 そして、一本の矢が放たれ、隠田の背中に突き刺さった。それは火矢だった。

 火矢が隠田に刺さる瞬間、一瞬で全身へと燃え広がり、今まで感じたことの無い感覚に思わず膝から崩れ落ちた。続け様に何本もの火矢が放たれ、身体中に突き刺さる。隠田は必死に身体に刺さった槍と矢を引き抜きながらも、あまりの痛みに辺りをのたうち回った。結果としてそれは、刺さった残りの矢を更に深く突き刺し、身体を伝って地面に垂れた油を全身に塗りたくる愚行だった。

 槍兵は二次被害を生まぬよう姿勢の低くなった隠田に向かって槍を構え直す。


 やがて動きが止まった隠田に、一人が思わず声を漏らす。

「……やった……やったぞッ!! 隠田京壱を倒したッ!!!」

「待て、まだ安心は……」

 一人の発言から、大きな歓声が上がった。叢雲の忠告が耳に入らない程。

 中には涙する者や、隠田に油を掛けた槍兵を胴上げする者たちも。ただ、叢雲、右月やその家来たちは、まだ勝利が確実なものになった訳では無いと、手放しに喜ぶことは出来なかった。

 そんな中で、叢雲の目にのみ映る。隠田の全身を包んでいた抗力が、勢いを失い、やがて尽きていく様を。それは、叢雲だけが分かるサイン。隠田の生命活動の終了を暗示していた。

「倒した……のか? 俺たちが、京壱を……?」

 隠田は拳を握りこみ、手足を湾曲させ、丸焦げになり朽ち果てていた。確実に死んでいる。長年の憂さを晴らしたこの状況に喜ぶべきなのは分かっている。しかし、どこか呆気なく、拍子抜けしてしまっている自分がいた。叢雲の中に、やるせない感情が入り乱れた。


「壊斗たちは……」

 それはそうとして、壊斗たちの安否を案じ、後ろを振り返った瞬間、膝に熱を感じた。それと同時に膝から崩れ落ちる。

 人々の歓声の中、隠田は既に刀を手にし、攻撃に移っていた。膝靭帯を的確に狙っての一撃。叢雲は自身の足に目線を移すと、だるま落としのように膝から下を斬り飛ばされていた。

 叢雲をその状態に追い込んだ元凶は、無惨に燃え尽き朽ち果てた筈の、隠田京壱であった。

「───鎮まれッ!! 全員油断をするなッ!!!」

 右月の叫びも人々の歓声によって掻き消されてしまった。

「……忘れたか? この国で人に背を向けたら」

 隠田は丸焦げのまま、刀を杖代わりにゆっくりと立ち上がる。その場に居る者は、一瞬何が起きたか理解出来ていなかった。

「斬り殺されても、文句は言えんぜ?」

 その過程で焼け焦げた皮膚は徐々に剥がれ落ち、肉や皮は再生し露出した骨を塞ぐ。水分が蒸発し、黒く萎んだ眼球も元の膨らみを取り戻し、唇が焼け落ち、歯がむき出しになっていた口も元に戻っていく。

 束の間の安息、それは一瞬にして絶望へと叩き落とされ、人々はパニックに陥った。

「……ったく。こんな所で使う羽目になるとは」

 ブツブツと文句を言いながら、隠田は背中にに違和感を覚え、背部を漠然と眺める。

「チッ。矢が一体化しちまってるじゃねぇか。まぁこの程度なら」

 背中に手を回し、刺さった矢を引き抜く。患部からは血が水鉄砲のように吹き出す。

「引き抜いても問題ねぇ」

 親指の先に抗力を込め、指圧で止血した。

「……で、お前ら。誰を、倒したって……?」


 …


 壊斗ら含む騎馬兵たちは、遂に殆どの敵兵の殲滅に成功した。敵の数はざっと七千人はくだらない。それをたった数百人程度で倒したのだ。

 助けられなかった数人の犠牲は出たものの、数名の医者が行った応急処置のお陰で何人もの延命に成功。エメルが到着後、すぐに回復という流れを作ることが出来た。これは紛れもなく作戦勝ちと言えた。


 過酷な状況の中、息を乱す壊斗は自身の背中に違和感を感じ、サッと振り返る。

「この街じゃ、相手に背中見せたら、後ろから斬り殺されれても文句は言えないよ? 余所者さん」

「この惨事は、貴様らの仕業か?」

 そこには、爽やかな好青年と、無精髭を生やした堅物が立ふさがった。どちらも刀を所持している。

「上手いでしょ? 今のは威嚇攻撃。服だけを斬り裂いたんだ。……てか君、防具はどうしたの? 生身で俺たち挑もうって、考えが甘すぎるんじゃない?」

 壊斗が防具を着ていないのには理由があった。ただでさえ防具の数が少なく、一部の槍兵は防具無しの状態だと言うのに、生身で攻撃を耐えうる防御力の自分が貴重な防具を使う事は出来ないと、自ら断りを入れたのだ。

「それはそうと、随分と派手にやってくれたね。街中死体だらけだ。歩きにくくて仕方ない」

 そう言いつつ地面に転がる死体を蹴り飛ばし、刀を水平にし壊斗の肩へ置き顔を覗き込む。壊斗の血に塗れた顔が好青年の目に映る。

「対話をする気は無い……か」

 好青年が目配せを送ると、そのまま好青年は逆刃に持ち替え首を切り付け、無精髭の男は慈悲深き刀を壊斗の首元に振るった。左右からの刃は確実に首を捉えていた。


 数秒の沈黙。爽やかな男が開く。

「……あれ、首が落ちないどころか、かすり傷程度じゃないか? おい冬彦(ふゆひこ)! 手加減はよせって!!」

歳生(としき)よ。俺は手加減をしていない」

 冬彦は、ギョッとした顔で歳生を見る。

「ま、まぁ良い。何か小細工をしたみたいだけど、無駄だよ。少しばかり生きていられる時間を伸ばしたからって、どうせすぐに死ぬ。お前が相手にしようとしてるのは、"双景(そうけい)"なんだから」

【天文街 "双景"『東冬彦(あずまふゆひこ)松坂歳生(まつざかとしき)』】


 …


「はぁ……はぁ……カイト、どこなの!?」

 エメルは、負傷者を見つけ次第回復しつつ、必死に壊斗を探していた。

 そうして遂に遠くの方に、壊斗と思わしき人物の姿が見える。

「カイトッ!!!」

 それが確信へと変わった時、馬から降り壊斗の元へ駆け出す。


 そこでエメルが見たのは、両の手で男ら二人の髪を鷲掴み、返り血に塗れた顔を俯かせ、息を整える壊斗の姿だった。

 その光景(こうけい)に口を抑え、思わず息を呑むも、そんな場合じゃない。とすぐに声を掛けた。

「お……遅くなってごめんね!! 今回復するから!!」

 エメルの顔を見た壊斗は、安堵のあまり男たちから手を離し、地面にへたり込む。胡座をかいて手を膝に乗せた。

「……遅かったな、エメル」

 優しい声色でそう呟く。

「いや、違うな……来てくれて、ありがとう。頑張ったな」

 すぐ回復に取り掛かるエメルの頭をそっと撫でた。

「……悪い。汚ったねぇ手で、触っちまって」

「……ううん、大丈夫」

 エメルはされるがままに頭を差し出した。


 沈黙が続き、回復を終えたエメルが口笛で馬を呼び、乗馬し手を差し出す。

「カイト、私の後ろに乗って。中心部に移動しよう」

「いや、俺は走れるよ。それより、城戸さんを……」

「キドさんは、他の騎馬兵の人が乗っけて行ってたよ。他の人たちも皆向かっていった。だから安心して」

「そうか……分かった」

 馬に乗り込んだ壊斗は、エメルの肩に腕を回して捕まり、目的に着くまで険しい表情で周囲を見渡した。


 …


「何で……ピンピンしてんだよ……焼け死んだんじゃ無いのかよッ!?」


 人々の戸惑いの声を尻目に、隠田はけたたましく笑い、十数人の槍兵の首を一瞬にして撥ね飛ばした。先程とは違い、余力を残さない位全力で。

 未だこの復活劇を呑み込めている者は少なく、その隙を突いた攻撃だった。

 隠田は抗力を足に集中させ、速度を上げる。こうして自身で作り出した穴へ飛び込む。

 首の他にも胴など、致命傷になるであろう箇所を狙い、真っ二つにしていく。光の如く目も追いつかない速さの剣術を防ぐことは至難の業だった。

 隠田は刀を鞘に収めながら駆け進む。向かってくるものを抜刀で攻撃する為に。

「穴を塞げッ!! 絶対にそこを通すなッ!!!」

 叢雲はそう叫ぶ事しか出来なかった。両足が使い物にならなくなった今、地面を這いつくばって叢雲の後を追おうと努力する。しかしそれには限度があった。出血も酷く、動く度に血が吹き出す。

「叢雲! 今は自分の事だけ考えろッ! 奴はワシらが追うッ!!」

 右月は長政を呼び付け、応急処置をしてやるよう命じた。叢雲は自分の無力さに打ちひしがれた。だが、頭の血が引いたのか、冷静に思考が回る。

 ───この状況で逃げるとは、此奴、まさか……!?

「……京壱ッ!もう復活は出来ぬようだなッ!! 一度限りの力だったかッ!!!」

 そう叫ぶ叢雲には、呻き声をあげ、遠くなる隠田の姿を目で追い続ける事しか出来なかった。


 陣形が大幅に崩れたことにより、人々の混乱を更に加速させた。隠田から逃げるべく四方八方に逃げ回り、陣形は完全に崩壊した。それでも場に残り、隠田を迎え撃ち、戦おうとしたのは家来たちや一部の勇敢な者たちだけだった。しかし、隠田はそれらを一瞬で亡き者にしながら、手頃な騎馬兵一人に狙いを定め、飛び上がりながら斬り掛かった。騎馬兵は槍で応戦したものの、その一突きを華麗に交わし、騎馬兵の首を落とした。

 首を落とされたことにより、全身の力が抜けた騎馬兵を片手で引き摺り下ろしながら馬に飛び乗り、綱を引き、駆け出す。逃げる背中を弓兵が狙うも、華麗な馬さばきで殆どを交わし続けた。交わしきれない矢を抜刀で叩き落とす。

 接近しようものなら、馬上からの剣撃により瞬殺される。遠距離、近距離共に完封され、東雲軍には為す術がなかった。



「ふぅ……何とか撒けたか?」

 地面に転がる死体を交わしながら、暫く馬を走らせると、そのまま河川敷付近まで辿り着いた。

 一息つこうとしたその時、何者かが足に力を入れ、地面を抉りながら蹴りつけ、隠田の元へ急接近した。

「───降りろ、お前の馬じゃねぇよ」

 その正体は、壊斗だった。血眼になりながら隠田を馬から引き摺り下ろす為、ラリアットで落馬させ、自分諸共地面を転げ落ちた。

 そのまま浅瀬の川に倒れ込み、水しぶきが上がる。その過程で隠田は思わず刀を手放してしまった。背中が浸かるほどの水位であったが、水流により刀は川に流される。だが、隠田は流れゆく刀を取りに行く事は出来なかった。

 壊斗は倒れざまに隠田へのしかかり、両手を組み、顔面目掛け叩き付ける。

「───あがッ!?」

 それにより隠田の鼻が潰れた。

 ───抗力で防いでこれかよッ!?

 壊斗は動く隙すら与えず、再び攻撃を繰り出した。マウントを取り、体重を乗せた肘鉄を食らわせ、反対の手で髪を掴み顔面に膝をぶち込み、そのまま膝に全体重を乗せ、拳を振りかぶる。鉄槌を落とす瞬間に膝を退かし、顔面に重い一撃をお見舞した。抗力では防ぎ切れず、歯が数本砕け折れた。

 壊斗はその体制のまま、身体を捻ってバックエルボーを落とした。 肘に体重を乗せたその一撃は、まぐれではあるものの、隠田の右目を潰す事となった。


 …


 時は少し遡る。壊斗が馬を操縦するエメルの後ろに乗って移動している時の事。

「……エメル。ここで下ろしてくれ。こっからは俺一人で行く」

「え、どうして?」

「隠田を見つけた。アイツも馬に乗っている。どうやったかは分からない。けど、あの鉄壁を掻い潜って逃げ出したんだ。それに、あれはうちの馬だ。誰かから奪ったに違いない……ふざけやがって」

「で、でも……カイト一人じゃ!!」

「……あの総動員で、隠田を取り逃がすなんておかしい。きっと何かがあったハズだ。行ってくれ。手遅れになる前に」


 …


 壊斗はその後も無我夢中で攻撃を続けた。壊斗は自分でも今何をしているのか、訳が分からなくなる程必死だった。

 隠田は歯を食いしばり目をがん開き、片腕を犠牲にして壊斗の攻撃に耐え続けた。攻撃を受ける際、腕に抗力を集中させる事で、身体の損傷を防ぐ。腕で防ぎ切れない時には被撃部位を予測し、器用に抗力を移動させる。隠田はこの一時(いっとき)に全神経を注いだ。

 攻撃を受けているその間も、衝撃で身体がどんどんと地面へめり込んでゆく。腕とは別に、抗力を全身に薄く纏うことで何とか堪えていた。


 壊斗はラストスパートをかけるように足で隠田の二の腕付近を挟み込み、手元の自由を奪い、首元に手を掛ける。

 ───まずい、捻り切られるッ!!

 抗力を首に全集中させたものの、それすら凌駕する力量に、二度目の死を感じていた。


 攻撃を受け続け穴が広がるに連れ、そこが浸水し、既に耳まで浸かった状態となっていた。あと少しで水位が顔まで上がり、溺れかねない状況に陥ったその時、刀は何故か川の流れに逆らい、手元へ流れ着いた。抗力で攻撃を防ぎつつ刀に手を伸ばし、抗力を刃に移して一振。

 壊斗は咄嗟に身体を仰け反らせ、距離を取ったが一手遅れた。身体のどこかしらを斬られたが、どこかまでは自分自身でも分からなかった。


 距離を取った事で、隠田の姿がよく見える。右目と鼻からは血が流れ出し、頬骨も砕け、歯は何本もへし折られた。口の中に溜まった血と共に、歯の欠片を吐き出した。

「この、糞餓鬼が……顔ばかり狙いやがって」

 折れた歯が口内に突き刺さり、腫れ上がっており、少し滑舌が悪く感じる。


「はぁ……はぁ……」

 無我夢中に攻撃をしたせいで浪費した体力を回復させるため、呼吸を整えた。

「……お前、その首どうした? 血が垂れ流れてるぞ」

 壊斗はその言葉に、一瞬目線を自身の首に移す。すると、頸動脈が傷付けられており、血が滴り落ちていた。

 ───こいつ、頸動脈を……!?

 すぐさま圧迫するように首を押さえた。そして早急に目線を隠田の元に戻す。だが、既に手遅れだった。

 呼吸を整え、深く屈み、柄に手を掛けている。壊斗が脈を抑えるまでに、その所作を済ませ、壊斗の元へ移動し、壊斗が目線を上げたと同時に攻撃を繰り出していた。

 隠田の繰り出した攻撃は、一瞬にして幾度もの斬撃を起こし、全身を斬り裂く大技だった。

 常人ならバラバラになっていてもおかしくない攻撃にも関わらず、何とか持ち堪え、骨に到達する前に留めた。だが文字通り傷は深く、耐え難い痛みが襲ってくる。全身の力が抜けた壊斗は、すぐに地面へ倒れた。身体から流れ出す血が川を赤く染める。

「……だいぶ、足止め食らっちまったな……」


「聞こえてっか知らねぇが、伝えといてやる。仮に意識を取り戻したところで、二度と自力で立ち上がることは不可能。身体の稼働に必要な筋を斬ったからな。それにお前は、うつ伏せに倒れた。そのまま呼吸も出来ず死ぬ」

 刀の血を拭いながら淡々と告げる。

「……ったく、手こずらせやがって。俺も何処かで、身体を休め───」


 辺りを見渡した隠田は、笑うことしか出来なかった。押し寄せてくる敵の大群を前にしては。

「クソ……俺に身体を休められる時間は、欠片も無いのか」

 片腕は完全に死んでおり、力が入らない。馬に乗って応戦するにしても、綱を持つと、手が塞がり刀を持つことが出来ず、馬に乗ったとて事は有利には働かない。この先に逃げようにも海が広がっており、そこに追い込まれれば助かる可能性も無い。今の隠田には、立ち向かう選択肢しか無かった。

 少しでも敵戦力を減らす為、馬の首を落とした。隠田がこの状況を打破する作戦は一つ。エメルを狙うのみだった。それだけを胸に秘め、待ち構えた。敵が向かってくるのをただ。

ちなみに生きたまま焼かれることが、数ある死に方の中で一番痛いそうです。

叢雲が復活し、敵を斬り倒していくシーン(こちらからしたら味方)では、目やその周りが黒い影で覆われる演出を加えたいと考えています。こうした少し凝った描写は、小説で表現することがほぼほぼ不可能なのが辛いですね。

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