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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第八十三話「開戦」

「皆の者、馬を止めよッ! ……ここからは慎重に馬を歩かせる。微細な音にも注意せよ」

 出発から数時間が経過した時、遠目から天文街が見えてきた地点で馬を止めさせ、右月はそう警告する。音で敵に気づかれぬよう、静かに攻め入る為の計画だった。

「遂に見えてきましたな。憎き敵地が」

 そう忠松が口を開き、多くの者が賛同し、頷いた。

「再確認だ。事前に何度も説明した通り、この戦の最善は、敵将である隠田京壱(おんだきょういち)への奇襲。城周辺に油を撒き、隠田城へ火を灯す。失敗すれば、すぐ次の作戦に移す。念頭に置いておけ!」

『───はッ!!』

 (みな)は一斉に声を上げ、決意に満ちた険しい表情で臨んだ。


 …


 そこから数十分が経ち、天文街の入口付近に到達した。互いに決めた不可侵の契を、遂には東雲軍も破り、天文街へと侵入したのだ。

「偵察通り、この時間じゃ見張りも少ないな」

「いざこの日を迎えると、偵察に使った数十ヶ月間は無駄じゃなかったな」

 偵察通りだと、東雲城からここまで約三時間程度経過している計算となる。時刻は、およそ午前三時前後だと言える。この時間が、特に見張りが減少する時刻であることは、ここ数十ヶ月間の偵察で分かっていたことだった。

「見張りはあの門番と、見張り台の者の二人のみか。ガサツな奴らだ。設備も拙いな」

 重臣の一人、田島晋太郎(たじましんたろう)が一人言を零す。

「殿、準備が整いました」

 作戦の第一関門、弓兵の中でも特に弓のセンスの高い二人を抜擢し、見張り人を射る役目を任せることにした。

健人(けんと)光紀(みつき)。あまり気負い過ぎるなよ」

 プレッシャーを和らげる為、殿直々に二人の肩に手を当て、気持ちを落ち着かせる。

「万が一失敗しても、他の策は考えてある。そうだろう?」

『……はッ!』


 二人は口を窄めて深呼吸し、弓を射りやすい位置を探り、定位置に着き弓を引く。

 緊張の瞬間、二本の矢は一斉に放たれた。

 静けさを掻き切る二本の矢。

 健人の矢は、見事見張り台の者を射る事に成功した。しかし、光紀の矢は門番の首元を掠めただけだった。

 見張り台の者は小さな呻き声を上げ、地面に倒れる。

「な、何奴───」

 音を察知した門番が刀を構えたその時。既にその近くまで移動していた叢雲は、音も立てずに門番を叩き切った。

「……第一関門は突破した。()こう」


 そこから少し歩き、城が目視出来る場所まで安全に進むことに成功した。

 廃れ、人の住んでいる気配を一切感じない町並み。風が吹くと、地面の土煙が舞う。

 作戦を実行する直前。皆、最終準備に取り掛かっている最中。

 風切り音と共に、叢雲の馬の首が落ちた。いち早くそれに気づいた叢雲が叫ぶ。

「───(みな)下がれッ!!!」

 そう叫んだ時、既に叢雲の左足が付け根から切断されていた。


「胴を切り離したと思ったが……腕が鈍ったか?」

「クッ……!!」

「……たまには、朝早く散歩してみるのも悪くないな」

「───京壱ッ!!!」

眉間に皺を寄せ叫ぶ。

「……久しいなぁ、光景(みつかげ)。待ちくたびれたぞ」

「奴が…… 隠田京壱(おんだきょういち)……ッ!!」


 …


『叢雲さん』

『おぉ、壊斗か』

 今から、約6時間前。午後九時。二人は渡り廊下でバッタリと出会った。

『さ───』

 言葉がハモった二人は、互いに顔を見合せた。壊斗は、お先にどうぞ。とハンドサインを出した。

『……先程の無礼、謝罪させてくれ。殿の手前、ああするしか無かったのでな』

『いえ、良いんです。叢雲さんが右月さんの為に動くのは当然の事。僕も、すみませんでした。自分の為だけに暴れ出したりして……』

『情に厚いのは()い事だ』

 そう叢雲は頷く。

『ところで、一つ聞きたいことがあるんですけど、お時間大丈夫ですか? すぐに終わる話ですけど』

『言ってみるでござるよ』

『天文街……について、どんなところか聞いておきたくて。ヤバいって話は前に聞いてたんですけど、詳しくは知らなくて。空気がピリついてて、他の人には聞きづらかったんです』

 叢雲は少し言葉を詰まらせた後、ゆっくりと口を開いた。

『元の国名は、王衆国(おうしゅうのくに)。俗称、"天文街"(てんもんがい)。一言で言えば、刀の腕がものを言わす国。……弱肉強食という言葉が一番近いだろう』

 周りを見渡すと、再び言葉を口にした。

『ここだけの話。拙者の出身は、王衆国なんだ。……閉鎖的な国でな。国から逃げ出そうものなら、惨たらしい目に遭わされる。拙者はそこで刀の腕を磨いて、何とか生き抜き、やっとの思いで脱国(だっこく)に成功した』

 叢雲は酷く辛そうに話を続ける。

『……そこには幼馴染が居てな。親友であり盟友の一人であったが、良い別れ方をしなかったんだ。……それが、今の王衆国の頂点。隠田京壱。あの野蛮な国で、剣技だけで大名の座に登り詰めた男だ』

『……じゃ、じゃあ叢雲さんは、かつての親友と……殺し合いになるかも知れないって事ですよね』

『あぁ、かもしれないじゃなく。確実にそうなるだろう。……だが心配するな。もう割り切っている』

 叢雲は覚悟が決まったように拳を握る。

『奴をこの手で斬る。それがせめてもの願いだ』

『……ありがとうございます』

『ああ、こちらこそ。懐かしい記憶が蘇ってきて、より決心が着いたよ』

 二人は、お互い見つめ合って頷いた。


 …


「一瞬足りとも油断するな。奴の抜刀術は、拙者を優に越えている」

 切断部分から血が吹き出し、額からは冷や汗をかきながらも、叢雲は冷静に仲間に忠告した。

「おいおい。俺に抜刀しか無いような口振りじゃねぇか───」

「舐め腐りやがって」

 隠田は再び刀を抜く。それに対応する為、叢雲は瞬時に抜刀し、刃で攻撃を受け止めた。

 隠田は刀を鞘に戻し、しゃがみ姿勢を取り、再び鍔に指を掛ける。

「第二陣形に移るッ!! 皆動けッ!!!」

「……煩わしい。まずは右月(そいつ)から───」

 偉そうに指示を出す右月に苛立ちを感じ、狙いを定める。

「片すとするか」

 隠田の狙いに気付いた壊斗は、距離的に叢雲が対応出来ない事を見越して右月の前に立ちはだかり、攻撃を防いだ。

 目にも止まらぬ速さの抜刀。とっさに腕でガードしたが、ブシッと音を立てて血飛沫が上がる。その痛みに耐えつつ、「今のうちにッ!!」とエメルに目配せを送る。

「浅い」

 隠田は感覚でそう悟り、即座に数歩退き、血を拭った刀身を鞘に収める。その過程の中、一つ不自然な光景が目に入る。

 ───切り落とした筈の光景の足が治っている。あの小娘の仕業か?

 隠田の目は、それを逃さなかった。緑髪の小娘が、光景の足に何らかの細工をしたであろう場面を。

 叢雲を回復し、すぐ奥へ逃げ隠れたエメルを目で追いかけた。


「……中々手強そうな連中を連れてきたな」

 ───なら、戦いに集中出来るよう……

「邪魔な虫けら共は、散らすか」

 柄に手を掛けたまま、背に掛けていた法螺貝を口に咥え、音を鳴らす。

「隠田京壱ッ!! 貴様はもう取り囲まれているッ!! 逃げる隙は無いッ!!!」

 叢雲の言う通り、既に隊形は変わっていた。隠田の周りを叢雲ら主力の者たちで固め、その小さな円を取り囲むように、内から足軽中心で構成した槍兵が隠田が逃げ出せぬよう槍先を向け、第二層を弓兵が槍兵の後ろから援護する。最も外側に槍を所持した騎馬兵を配置。外部からの攻撃、割り込みや加勢をされぬよう馬上から槍で追撃する。内から、外からの攻撃に対応出来る四段構えの構成。多少思惑通りにはいかなかったが、作戦に抜かりはなかった。


「雑魚で固めた陣形如きで、俺を閉じ込めたつもりか?」

「言ってろ。どうせてめぇは、俺たちから逃れることは出来ねぇよ」

 重臣の一人、日比谷優馬(ひびやゆうま)がそう吠える。

 隠田は(わっぱ)の煽りを気にも止めず、穴を探すよう辺りを見渡す。目線は逸れているはずなのに、全くの隙がない。両者ともに手出しが出来ない状況が続いた。


 この状況を打破するべく、先に動いたのは隠田京壱だった。四層を一気に掻い潜れるよう、兵の中に穴を見付け、駆け出そうとしたその時。

「行かすか馬鹿が」

 人一倍身体の大きい城戸が、踏み込んでそれを食い止めた。片腕を伸ばして受け止めた為、隠田の攻撃に耐え切れず、篭手が割れてしまった。だが、そんなもの必要ないと言わんばかりに割れた篭手を引き剥がす。


 ここで隠田は悟る。この陣形に、穴が無いことを。

「───報告しますッ!! 敵兵らがこちらへ向かって来ていますッ!! 刀を片手に持っている模様ッ!!」

 陣形の向こう側から、そう声がした。満を持して、向こう側から刀を持った者たちがワラワラと集まってきたのだ。それは法螺貝の音で叩き起された、天文街の野蛮人たちだった。


「外縁の者たちに告ぐッ!! このままの陣形を継続し、其奴らを迎え撃てッ!! 状況が変わり次第、報告せよッ!!」

 右月は、弓兵に向けてそう指示を飛ばす。

『はッ!!』

 騎馬兵の隙間から、矢を放つ弓兵。しかし、数が数。倒しても倒しても次々に向かってくる。徐々に距離が詰められてきている。

「殿ッ!! 押されつつありますッ!! このままではいずれ奴らにッ!!!」

 右月は目を強く閉じ、開くと同時にこう叫んだ。

「───これより、作戦三に移すッ!! 第三陣形だッ!! ()けッ!!!」

 その指示を受け取った、隠田を囲んでいた者たちの中から、壊斗と城戸がその場から離れ、味方を掻い潜って外に出た。そして、槍を持った騎馬兵と共に駆け出した。

「この状況で、俺に背を向けるか」

「相手は俺達がしてやるぞ。京壱ッ!!」

 叢雲らは、ニヤけ顔の隠田の前に立ちはだかる。


 …


 槍兵たちを掻い潜った壊斗は、馬を止めたまま自分の方を見つめてくるエメルに向かって叫ぶ。

「大丈夫だ! 俺のことは気にするな! 傷付いた仲間の事だけを考えればいい! 頼んだぞ!!」

「……うん、分かったッ!」

 その言葉を聞いたエメルは、覚悟の決まった表情に変わり、再び馬を走らせた。それに続いて、壊斗と城戸の二人も自らの足で地を駆ける。

「俺たちは、向かってくる敵をぶっ飛ばせば良いんすよね!?」

 まともな敬語を使う余裕の無い壊斗は、城戸にそう質問する。

「あぁ、騎馬兵の邪魔にならんようにな」

「基本は、騎馬兵のサポートだったな。……やってやるよッ!」

 刀の扱えない壊斗が、丸腰のまま刀を持った相手と対峙することに恐怖心が無い訳では無い。しかし、複雑な感情をぶつけるよう、雄叫びを上げながら敵を殴り倒しにいった。


 そこから、時間として十五分程が経過した。少しばかり敵の数が減り、余裕が出来始めた頃。息を整えながら、血に濡れた手を見つめる。自らの手で何人もの命を奪ったという事実が重く伸し掛り、過呼吸になり始めたが、自分の頬を殴って鼓舞した。

「ダメだ……弱気になってんじゃねぇ。俺ッ!」

 不意に視線を城戸の方へ移す。

「城戸さん、話には聞いてたけど、能力者でもないのに、半端ねぇな……」

 攻撃を避ける、捕まえる、壊す。避ける、捕まえる。壊す。生身のままただそれを繰り返す城戸を見ると、この人が味方でよかった。と痛感する。

「って……まだ来んのか。クソ……」

 倒しても倒しても向かってくる敵に、愚痴がこぼれる。

 両手で頬を数回叩き、気持ちを入れ替えた。

「よし。……やるしかねぇ。これが俺の贖罪なんだ」


 …


「……いつまでこんな状態を続ける気だ? 辛抱堪らんぞ」

 痺れを切らした隠田は、刀を抜く素振りを見せた。

「抜いてみろ。貴様の剣戟、全て防ぎきってやる」

 叢雲は、味方を一歩下がるよう合図し、隠田の目を見たまま逸らさず、刀を強く握る。

 次の瞬間、刀は抜かれ、一振が終わっていた。

 目にも止まらぬ抜刀を、一人で何とか防ぎきった。

「抜刀は見切っているぞ。京壱」

「そうか。なら、抜刀はもう使わん」


 諦めたかのようなその一言に、周囲は呆気にとられた。それと同時に、ゆっくりと抜かれた刀身の美しさに、皆、魅了された。ただそこに一人、空いた口が塞がらなくなっている者が居た。

 その者の目には、刀身を覆う朱色のオーラが映っていた。


「───貴様も覚えたかッ!!!」

 感情の昂りに左右され、叢雲の全身からオーラが解き放たれた。

「ほぉ……お前のは青いのか。光景よ」


「……殿、皆。もっと離れてください。巻き込みかねない……ッ!!」

 震えながら歯を噛み締め、そう忠告する叢雲。

「そんな顔をするな、光景よ。久々の手合わせだ。楽しもうッ!」

 叢雲は、今までにない程の雄叫びを上げ、攻撃を繰り出した。それに呼応するよう、反撃する隠田。

 二人の攻防は、常人には動きを捉えることさえ困難を極めた。


 皆は、二人に近づきさえすれば、一瞬で身体をバラバラにされてしまう。そう悟った。

「今のままじゃ、我々は手出しが出来ん……! かえって叢雲の邪魔になってしまうッ!!」

「まさか、ここまでとは……! 殿、次の手は……!?」

「いつなんどき攻撃が来るか分からん。ワシらに出来ることは、その時が来るまで、周囲を警戒しつつ、ただ辛抱強く武器を構えておくことだッ!!」

『ははッ!!』

 悔しそうに叫ぶ右月に、皆呼応する。

「弓兵達よッ!! 外の状況はッ!?」

「騎馬兵らの功績で、戦況が回復してきましたッ!!」

「そうか……ッ検討を祈っているぞ」


 …


 更に時間は経過し、若干疲弊してきた城戸が、一時的に前線から退いた頃。馬に乗ったエメルが駆け寄る。

「キドさん、回復します!」

「……ありがとう、体力が戻ったよ」

 エメルの能力(ちから)で、体力と細かい傷が癒える。

「良かったです! ……また来ます!」

 眉間に力を入れ、エメルは再び馬を走らせた。


「小さいのに、気の強い子だ。こんな血に(まみ)れた戦場を駆け巡らねばならんとは……」

 この世の残酷さに嫌気が差し、紛らわすように深呼吸をした。

「よし、行ったか。俺の戦方は……」

 振り向きざまに背後からの攻撃を避け、抱き着き、全身の骨を砕いた。

「子供には見せられん」

 その隙を突こうと斬りかかってきた男の頭を両手で掴むと、軽く捻り180度回転させた。戦いの最中、壊斗と先日交した会話を思い出していた。


 …


『怪力症?』

『あぁ。……ごく稀に発症する難病だそうだ。数年前、芹沢さんの紹介でな。観光に来た異国人の医者に、そう教えられた。力の調節が極めて難しく、小さい頃は苦労した』

 城戸は壊斗への挨拶がてらに、自身の病について説明をした。

『これは後から聞いた話だが、産まれてすぐ、差し出された母親の指をねじ切り、やっとの事四足で歩けるようになった頃には、父親の腕にしがみついた際、力加減も分からずに抱き潰してしまったらしい』

『へ、へぇ……それは、なんと言うか……ヤバいですね』

壊斗はあまりに物騒な話に苦笑いを浮かべるしか無かった。

『そんな事を立て続けに起こしていたらしい。それに加え、自らの怪力に耐え切れず、毎度のように身体の骨が砕ける始末だ。堪らず両親は俺を捨てた。それからは色々と苦労したな。話すと長くなるが……その期間に力の扱い方を会得したんだ。それで今は、自分の限界値を知った。自分で自分を壊す事も無くなった』

『それから大人になって、幼いながらの記憶を辿りに、俺を捨てた両親の元へ会いに行った時にゃ、驚かれたな。"力を抑えられるようになってる"ってな。まぁ、それっきり会ってはないが』

 城戸はフッと笑う。それに呼応するよう壊斗は愛想笑いをした。

『まぁ、よ。力が人より少しばかり強いってだけで、防御面で言えば、常人と大差ない。言ってしまえば、お前の劣化版ってところだな』

 城戸はそう壊斗に笑いかけた。

『そんな事は無いです。俺のこれは、特殊な能力で、俺自身の実力じゃありません。城戸さんは元々のポテンシャルが高いので、能力が覚醒したらもっと強くなりますよ』

『……気ぃ使わせたか? 悪かったな』

 そう言って笑うと、壊斗の頭を撫でた。頭を撫でられる。という懐かしい感覚に、照れくさくなりさっとしゃがんで躱した。


 …


「壊斗は……」

 城戸は壊斗の方へ目線を移すと、我を忘れたかのように暴れる姿が目に入ってきた。ただ、その姿を見るに、完全に理性を失っている訳では無いと伺える。

 心の中で応援し、城戸自身も前線に舞い戻った。


 一方その頃のエメルは、訓練した馬さばきで転がる死体を躱し、血の匂いに耐えながら駆け回っていた。

「負傷者が多い……ッ私だけじゃ───」

 ハッとしたエメルは、そんな考えに至った自分の頬を叩き、喝を入れる。

「弱気になっちゃダメ! 皆を助けらるのは、私しかいないんだからッ!」

 自身を鼓舞し、戦いの中心である右月達の元へ駆けた。


「叢雲さんが押されつつあるぞ……!」

「俺たちも加勢するか!?」

「まだだ……来るぞ」

 馬の音が近づいてくる。

「叢雲ッ! 下がれッ!!」

「……せっかく楽しくなってきたところに、水を差すんじゃ───」

 苛立った様子で振り返る隠田に刀を向ける。

「雑魚が……しゃしゃり出やがって」

 苛立ちをぶつけるよう、隠田はクシャクシャと髪を掻き上げる。

「ワシが相手だッ!!」

「助太刀しますッ!!」

「この腐れ外道ッ!! 舐めた口利きよってッ!!」

 右月に引き続き、田島、長政が助太刀する。

「お前らが俺の相手? ビビっちまって手足も出せなかった奴らがか?」

「我々も相手をしてやるッ!!」

 そう叫ぶ残りの重臣たちが刀を突き出し、槍兵も少し距離を詰め、槍を向ける。その隙に叢雲は捌け、エメルの元へ向かう。

「はぁ……はぁ」

「ムラクモさんッ! 今、回復させま───」

「施しは結構。……少し休めば十分」

「で、でも……!」

「拙者たちは大人数でけしかけた。が、今の奴はたった一人。拙者まで体力や傷を回復させるなど、卑怯が過ぎる」

 それは、叢雲の大義だった。他の誰も侵すことの出来ない、拘りのようなもの。

「何かあれば発煙筒を炊く。それまで、他の者たちを頼む」

「……分かりました。無理はしないでください」

「心得た」

 馬を走らせたエメルを見届け、叢雲は柄にもなく地面にへたり込み、呼吸を整えた。

隠田京壱、元々の読み方は"おんでんきょういち"だったのですが、親しみやすさを込める為"おんだきょういち"に変更しました。

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