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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第八十二話「報告」

「はぁ……はぁ……着いた……か」

 城戸宅から東雲城近辺までぶっ通しで走り続けた壊斗は、円香をお姫様抱っこしながらしゃがみこみ、息を切らす。

 呼吸を整え、東雲城の門までへ向かう道中、芹沢との通話を思い出した。


 …


「そうだった……か。大変だったな、壊斗」

「いや……俺なんか、全然……」

 ジャーバル行きの飛行機便を待つ間、仮眠を取っているエメルの横で、抗争での出来事を電話で芹沢に報告していた。

「それで、ここからが一番話したかったことなんです。一つ尋ねたいことがあるんですけど……」

 何だ、言ってみろ。と返す芹沢に、壊斗は話しを続けた。

「東雲城に近すぎず遠すぎず、敵にも見つからず、安全に過ごせる場所って……ご存知ないですか?」

 しばしの沈黙の後、芹沢が口を開く。

「……東雲城に何か用か? こっちに戻ってくるつもりか?」

 壊斗はそこで、言葉を絞り出すように、実は……と詳しい説明を行った。

「そうか、直前まで円香に回復を掛け続け、綺麗な状態のまま届けたいと。そして、一人で円香を届け、その間のエメルを安全を確保する為か。……分かった。良い方法を教えてやる」

 ほんとですか!? と喜ぶ壊斗を差し置いて、間髪入れずに言葉を吐く。

「東雲城には行くな。壊斗」

 思った返事と違い、度肝を抜かれた。

「お前の気持ちも分かる。けれど、こればかりは反対せざるを得ないな」

 壊斗は悔しそうに唾を飲み込む。

「理由を、お願いしてもいいですか」

「……まず大前提に、お前は高確率で殺される。エメルの安全も確証は出来ない。前に『能力が衰えつつある』って相談してきたことがあったな。その時にも言ったが、それはつまり、もう前のような無茶は出来ないって事だ」

 それは、定期的に取っていた連絡での事。以前のような扱いにくさは減り、その分、以前の半分にも満たない力に衰えてしまった。それを相談した時の事だった。

「それに、まだお前には言っていなかったことだが、厳密に言えばあれはジャーバルには含まれない。東雲城のある"才賀国"(さいがのくに)と"王衆国"(おうしゅうのくに)の二つの地方は、ジャーバルから認められていないからだ。この地方には独自の法が存在し、こちらの常識は通用しない。お前たちが才賀国から生きて帰ってこられた事が奇跡なほどだ」

「…… つまり?」

「分からないのか。いや、分かってはいるんだろうな。ただそれを認めてしまいたくないだけで。……何度も言うぞ。もう二度と、あの地に足を踏み入るべきでは無い。ましてや、大名の娘さんの訃報なんて、以ての外だ。円香の訃報を報告し、ご遺体を届けたいって気持ちは痛いほど分かるが、賛同は出来ない」

 続けるように芹沢は、俺には助けることは出来ない……と呟く。

 沈黙が流れる。その間に言葉をまとめた壊斗は、鼻で深呼吸をした後、口を開く。

「……すみません。ご忠告ありがとうございます。芹沢さんの意図も十分(じゅうぶん)分かっているつもりです」

 壊斗は息を飲み、でも……と話を続けた。

「芹沢さんの忠告とはいえ、それだけは受け入れられません」

 沈黙する芹沢に、言葉を続ける。

「分かってるんです。芹沢さんの発言が正しいって。でも、娘さんを預けさせてもらった身として、不義理なままで、なぁなぁにしておくのは俺の気が済まないんです」

「だから、自ら殺されに行くっていうのか。大切な仲間も巻き込もうって?」

 それは嫌味なんかでは無く、言葉を選ぶ余裕もなく、必死に引き留めようとした結果だった。

「いえ、全く。俺だって志半(こころざしなか)ばで死にたくなんか無いですよ。仲間を巻き込むつもりも無い。でも、だからと言ってやるべき事をせずにただ生きていたいなんて……どの口が言ってんだって話じゃないですか」


「だから、俺は東雲城に行って、円香をお返しし、渡全てを報告して、その上で右月さんの判断に従おうと考えてます。モヤモヤを抱えたまま、生きていたいとは思えません」

 壊斗は聞こえるか聞こえないかの声で、一度失った命だしな。と呟く。


「───分かった。お前の覚悟、伝わったよ。お前の条件、飲んでやる」

 ここで、渋々了承してくれた芹沢は城戸を紹介した。

「城戸は腕っ節も良い。エメルを身を呈して守るよう伝えておく」

「ありがとうございます。芹沢さんには世話になってばかりですね……」

「俺が止めた所で、どうにかしてでも行くつもりなのは分かっていたからな」

 すみません。と最初に断りを入れ、壊斗が話を始めた。

「……あと一つだけ。俺の身に何が起こるか分からないので、仮に俺の戻りがあまりにも遅ければ、その人にエメルを皆の所へ送り届けるよう頼んで頂いても良いですか?」

「分かった。……ただ、俺も最後に言いたい事がある。これは情報屋としてでなく、一個人としての話だ。だから、聞き流してくれて構わない。……お前は俺の数少ない友人だ。これ以上友人を奪わないでくれ」

「嬉しいこと、言ってくれますね。はい。俺もタダでは死にません。やれる事はやろうと思ってます」


 …


「はぁ……結局、最期まで皆に迷惑掛けただけだったな……って、馬鹿か俺は。最初から死ぬつもりになってんじゃねぇよ。……生きて帰るんだよ」

 深呼吸し、門に近づく。

「何者だ。……ん、貴様、壊斗か!? 背負っているのは、円香姫!?」

 門番の懐かしい顔が見え、壊斗は当時を思い返す。長政だ。だか、浮かれてられない。当時と同じく今も、状況が良くない。という共通点がある。

「すみません。急ぎの用があります。右月さんの元まで案内してくれませんか?」

 壊斗は、決意に満ちた表情でそう口にした。


 …


「おぉ、壊斗か。久しいな! ワシの可愛い円香も一緒か!」

 久しぶりに見た右月は、以前よりもテンションが高かった。円香との再会に大いにはしゃいでいる様子だ。そんな姿を見た壊斗は、いたたまれない気持ちになり、冷や汗も止まらない。


「で、何用だ? 用も無しに、遥々ここまで顔を見せに来たという訳では無いのだろう?」

 ここまで来て、壊斗は土壇場で言葉を詰まらせた。上手く頭が回らず、用意していた言葉も全て飛んだ。正座をしたまま、ブルブルと震えたままだった。

「……それにしても、円香は眠ってしまったのか? 久しく会ってないからな。声を聞きたいのだが……」

「右月さんッ!!!」

 自分の弱さを押し殺すため、大声で右月の名を呼ぶ。周りの家来達もそれに驚く。

「ど、どうした……?」

「申し訳……ございませんッ!! 私は、娘さんの命をッ!! 守れませんでしたッ!!!」

 事前に用意していた言葉で無く、今思いつく本心をそのまま口にした。

 暫く沈黙が続く。壊斗は畳に汗を滴らせながら、恐る恐る顔を上げてみると、一番に右月の表情が目に入ってきた。それは、怒りや悲しみではない、言葉で言い表し難い表情をしていた。壊斗はその表情が一瞬で目に焼き付き、息が止まった。呼吸がままならず、目を見開いて畳に崩れ落ちる。

「……円香を、ワシの元へ……」

 宿老の笹森は、壊斗から円香を取り上げ、右月の元へ届けた。

 右月はなすがままに円香を抱き寄せた。以前のように嫌がる素振りを見せず、温かみは無く、ただ冷たい柔らかい感触が腕に残る。頭を撫でた。頬に触れた。どこに触れても、まるで生を感じない。円香の身体はこんなにも綺麗だと言うのに。

「……家中の者たちよ。全員ここから出ていけ。この部屋を、ワシと円香、そして此奴(こやつ)だけにせよ」

 家来達を部屋から追い出した右月は、そっと円香を床に寝かせ、胡座をかいたまま壊斗に向き合う。

「……何があったのか、説明せい」

 右月は、震える声でそう壊斗に命じた。


 …


「そうか……そんな事が……」

 右月は壊斗の拙い説明を受け、息を飲んだ。拙いながらも、壮絶な出来事の連発に、同情すら感じた。

「壊斗よ。……同情はする。だらが、例え何があろうとも、円香を死なせた事実は変わりようの無い。すまないが、ワシはそんなお前を許せるほど、広い心は持っておらん」


 右月は短刀を投げ付け、冷たい視線を向けた。

「腹を切れぃ」

 壊斗は震えながらそれを手に取る。

「お主は『殺してくれ』と言わんばかりの目をしておる。もう楽になりたいんだろう。だが、ワシは殺らん。自分の意思で成し遂げてみろ」

 壊斗は顔色がどんどん悪くなっていきながら鞘を抜いた。震えながら腹に短刀を突き立てる。患部からは微かに血が垂れる。

「!?」

 腹から滴る血に驚きに、右月が口を開こうとした瞬間。外が騒がしくなり、二人ともの意識がそっちに向いてしまった。

 そして、十数秒の沈黙が流れた(のち)に部屋の戸が空いた。そこには、家来達を薙ぎ倒しながら来たであろう城戸と、城戸の背中にしがみつくエメルの姿があった。


「───カイトッ!!」

「な……なんで来たッ!!!」

 壊斗の怒号に一瞬萎縮したが、直ぐに言い返す。

「同じだよッ!! 私もッ!!! カイトが私を守る為に置いていったように、私はカイトを守りたいから来たッ!!!」

 呼応するように、エメルはいつになく強い声で叫ぶ。壊斗は絶望し俯いた。

「終わりだ……」


「殿、申し訳ございませぬ。私共では、城戸を止めることが出来ませんでした」

 叢雲は膝を着いて謝罪する。

「何を言っておる。端から本気で止める気など無かっただろうに」

 右月はため息をついた後、気だるそうに言葉を続ける。

「久しいな、城戸」

「はい、殿」

「此奴を助ける為に、ワシを討ち取りに来たか?」

「いいえ。滅相もございません。私はただ、この少女を城に送り届けた迄」


 …


 事の経緯は、エメルが城戸家を飛び出した所から始まる。

「やはり、一人では行かせられないッ!!」

 城戸は獣のように突進し、エメルの後ろからとっ捕まえた。

「もう!! 分かってよッ!!!」

「どうしてもと言うのなら、俺も同行するッ! それなら良いだろう!?」

 驚いた表情をしたが、目をギュッと瞑り、決意に満ちた目に戻る。

「……分かった、行こう。カイトの所へ」


 …


「お願いがあります。私はどうなっても構いません……カイトだけは、助けてくださいッ!!」

「おま、何言って……」

 壊斗はわなわなと震えながらそう言った。

「……お前に何が出来るというのだ。言ってみろ」

「私は……」

「駄目だッ!! エメルッ!!!」

「叢雲、此奴の口を封じろ」

 叢雲は壊斗を押し倒し、手で口を封じた。

「───厶グッ!?」

「続けよ」

「……私は、どんな傷も癒す特別な力があります。見ていてください」

 エメルは壊斗が落とした短刀を拾い、自らの手の平に突き刺した。あまりの痛みに顔を歪める。

「何を……」

 この場にいる全員が、その光景を食い入るように見入った。短刀を引き抜くと、ポタポタと流れる血が徐々に減少していき、みるみるうちに深い刺傷が治っていく様を。

「この……力は、自分だけじゃなくて、他の人にも使えます。死んでしまった人を生き返らせる事は出来ませんが、致命傷程度なら、私が治してみせます。だから……カイトは助けてください。お願いします」

 唇に力を入れ、真剣な眼差しで右月を見る。

 壊斗は覆われた手を無理やり引き剥がす。

「この子は、覚えたての芸を披露しただけですッ! そんな奇跡のような力、あるはずがないッ!!」

 とてつもない力で押さえつけられながら、壊斗はそう吠えた。

「お主の能力(ちから)は……」

 壊斗に向けてそう言いかけた右月は、ひとまず壊斗を無視し、顎に手を当て口を開いた。


「お主の能力(ちから)は、遺体の腐敗を食い止めることも出来るのか?」

「……はい」

「この城まで相当な距離がある筈。だが、円香はまるで生きているようだ。……全て合点がいく」

「お主、エメル……と言ったか。この者の発言は誠だ。この者には、人の傷を癒す力がある」

 家来達の歓声が上がったところで、我慢の限界に至った壊斗は、叢雲を吹き飛ばす。

「辞めてください……お願いします」

 壊斗は涙を流しながら、虚ろな目で右月の元ゆっくりと歩く。

「動くな」

 叢雲は咄嗟に刀を抜き、壊斗の喉元に突き立てる。剣先と喉元の距離、僅か数ミリ。

「誰に物申している。立場をわきまえよ」

「……」

 壊斗は無言のまま突き進み、喉に当たった所で刃を掴む。

「止めよ。叢雲、刀を鞘に戻せ」

「……はッ」

 叢雲はスマートに刀を回しながら鞘に戻す。


「……少し時間を寄越せ。考える」

 右月がそう言って座り込み、黙りこくること十数分。この場に居るほとんどが待ちくたびれた頃、一息ついた後に口を開く。

「長年停戦状態だった、王衆国(おうしゅうのくに)……天文街(てんもんがい)との戦を決行する」

 その言葉を聞いた瞬間、家来達がざわめきだす。

「家臣は勿論の事、工崎壊斗、城戸一道、エメル。その他、農民の過半数を徴兵する。決行日は三、四日後を想定している」

 その言葉を聞いた家来達は、更にざわめく。だが、右月の膝を叩く音で、一瞬にして静まり返った。

「壊斗と城戸は、前線で大いに活躍してもらいたい。エメルは、負傷した兵の治癒を任せる。(ぬし)の能力については、後々(のちのち)話を聞かせてもらう。……これが条件だ。この条件を飲むというのならば……こちらも遺恨を飲み込んでやる」

 真剣な眼差しで二人を見た。部屋全体に緊張が走る。


「私は、飲みます。その条件」

「エメル……」

「カイトは、どうするの?」

 そう聞かれた壊斗は、震える唇を噛み締め、答えを出す。

「はい、分かりました。俺もその条件、飲まさせて頂きます。ですが、城戸さんまでは……」

「丁度良い。自ら言い出そうとしていたところだ。殿、宜しく御願い申し上げます」

「うむ。承知した。……ここからは時間との勝負じゃ。()の者は僧侶を呼び、通夜と葬儀の準備に取り掛かれ。準備が整い次第、武具の整備にあたれ。重臣たちはワシと来い。通夜の準備の間、戦略を練る」


 …


 その後、壊斗たちは通夜と葬儀の準備に勤しんだ。途中、少し話が聞きたいとエメルだけ呼び出された。不安でしか無かった壊斗は、戦評定に口出しをしない事を条件に、同席させてもらう事にした。

 四半時が過ぎた頃、開放された二人は再び準備に取り掛かり、その日のうちに円香の通夜が執り行われた。


 死装束に着替えさせられ、棺に納められた円香を見ると、壊斗とエメルは涙が止まらなくなった。それは、他の家来たちも同様、右月も涙を零した。ここで初めて、たった一人の愛娘の死を実感したからだ。

 そして一晩中共に過し、最後のお別れを告げた。


 翌日の朝、葬儀が行われた。円香の埋葬方法として土葬が採用され、大きな墓に埋められる事となった。

「……(みな)、気持ちを切り替えるぞ。三日後の朝には戦が始まる」



 そして日は流れ、時は三日後の午前零時を回り、決戦の日を迎えた。大名である右月は赤馬、騎馬兵として参戦する、叢雲含む重臣兼武将たちは白馬。そして家臣の殆どには黒馬が与えられ、その他農民等は歩兵としての参戦となった。幸いな事に壊斗にも一頭の黒馬が与えられ、エメルと共に乗馬する事となった。前日にした乗馬訓練が実り、馬との信頼関係を築き、何とか意のままに操る事が出来るようになった。

「殿、準備が整いました」

 その言葉を聞いた右月は、息を大きく吸い、肺を脹らます。

「我らが才賀国が負ける事は無いッ! 必ず勝利を掴むのだッ!! いざ、出陣せよッ!!!」

 右月の言葉は、兵達を奮い立たせた。我々は決して負ける事の無いと、確信して挑む。人生最後の戦を。

円香が死んだ後、東雲城に報告しに行くというエピソードは、2〜3年前から考えていました。しかし、その時は罪滅ぼしとして壊斗のみ天文街に向かうという構成だったので、大分変化しました。次回から、天文街編が始まります。乞うご期待。

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