四十六話「蠢く岩石」
皇は見通しの良い本陣から細切れの肉塊となった騎馬第二部隊の死に様を見届け、そしてまた神通力で天照大御神に話しかける。
(――成程。岩の傀儡、確か向こうは『ごぉれむ』と、そう発音するんだったかな?まあそんな事はどうでもいいが、やはり危なかった。あのまま攻め続けていたらあそこにいた七割程は持っていかれていたな。まあ、どうせあの方々が良いようにやってくれるでしょう。いやはや、こちらは損失さえ減らせば他が後始末してくれて楽なもんですよ。)
皇は性格の悪い不気味な薄ら笑みを浮かべてそう伝える。
(本当に、今だけは吞乃ちゃんたちが助けてくれるからねぇ。絶対どこかしらで私等にもちょっかいかけてくるでしょうが……その時は何とかしなさいよ?)
何処か憂うような口調で話す天照大御神の言葉を聞いて、皇は「はっ」と鼻で笑い云う。
(そりゃ無理だ、この戦において私達が吞乃様について知っていることが少なすぎる、ただでさえあの人との知恵比べは大変だというのに知りえることに差があれば当然ながら勝てる訳が無い。あの人は傲慢で慢心しがちだがしっかりと最終手段は残しておくし、殆どのものがあの人の掌の上にあるもんだからあの人の自身が妥協さえすればいつだってそこそこの結果は手に入るんですよ。)
(そんなもんよね……)
皇は負けのその先を見据えているのだろうか。
――さて、蠢く岩達の塊の上に髪の長い赤髪の魔女が立っている。彼女は岩を操り、少しづつ小出しに送られてくる足止め用の兵を自分の足元にあるその岩の集合形を用いて易々と捻り潰し細切れの肉塊へと変えて行く。ゴーレムの周りに控える魔族たちも先ほどまでの雑魚とは違い、何段階も上の強さを持つ猛者どもが蠢いていて、このまま攻め切るという気概が受け取れる。
「にしても面倒な相手だね、何のために最初はゴーレムの存在を秘匿してたと思ってるのよ。まあ良いわ、時間を稼いでるだけじゃ向こうも勝てないでしょうしこのまま進んでいきましょう。」
赤髪の魔女は溜息を吐きながらそう呟き、またもや現れた肉の塊を赤色に整形しようと最も右端にある岩の塊を振り下ろした。が、その大岩は地面へと衝撃を伝える前に叩き割られた。
「なっ!?」
魔女は動揺を隠せずに声を上げる。人の力では到底砕くことの出来ない岩を砕かれたからだ、以上を感じ下に降りてみるとそこには赤色の皮膚と角を持ち右手には八尺ほどの金棒をたたえた人の形をした化け物が居た。
「ちょっと待ってくださいよお頭~!」
そう言いながら他に肌色の肌を持つ二つと赤と青の二つの計四つの異形がこちらへと向かってくる。
「ケッしょうもない、丁度じゃねえか。」
魔女は悪態をつく。
「何が丁度なんだ?」
お頭と呼ばれた異形が尋ねる。と、その瞬間、先ほどのような岩の集合が四つほど蠢きながらこちらに向かってくる。
「何が丁度だって?こちらの手持ちのゴーレムの数がだよ!」
「成程、一人一つで確かに丁度だ、一対五でやるには少し脆そうだったのから安心したよ、精々楽しませてくれよ!」
そう言って異形どもは各々の獲物を抜いた。
イメージ的には某伝説のイワロック




