四十五話「不自然」
天高くにてタチガミが八咫烏に近づいて行く中地表の戦況にも動きがあった。煌々とする光球の下で魔族どもは苦戦を強いられており、人型、非人型含め多くの異形が人に急所を穿たれ四肢であろう部位を切り取られ、その汚い紫や緑の血液をまき散らすその様は絶望的と言うに相応しい。このまま行くのであれば人の圧勝であろう。そんな中、『パァン!』と戦場全体に澄んだ破裂音が響く、その直後に、何と前線で殺戮を繰り返していた荒くれものどもの多くが後ろへ後ろへと退いて行った。
――「今度は騎馬第二隊だ、敵部隊の横っ腹をついてやれ。」
『はっ!仰せの通りに!』
現在前線にいる幾つかの部隊が退き始めたのを確認して皇は次の指示を出す。
(――珍しいわね、竹を使って指示を出すだなんて。余り広くには行われないことよ。)
天照大御神は神通力を使い皇に語り掛ける。
(……だろうな。一般には大将同士が力を使い一騎打ちする戦いが多く、そんな戦いには雑兵どもに指示を出す必要は基本的にない。だが、此度の大将は私で、その私は余りに幼く非力である、兵一つ一つの扱いで戦況は大きく変わる、その為の竹だ。竹を炙ると破裂して音を立てるからな、これを一度に大量に使えば聞こえなくもないだろう。遠くから指示するのは『退け』これ一つで十分だ。攻め時よりも引き際を誤る方が危険だからな。細かい指示は戻って来てからでいい。)
(よく言うわ、本気ならお抱えの前線指揮官でも立てて引き際や攻め時の見極めをやらせるでしょうに。まあ、それだけ今回『魔族について』はどうでもいいのね。)
得意げな声色で話す皇に若干呆れたように天照は返す。
(それで、どうしてここで兵を退かせたのかしら?)
(それは単純な事だ、魔族どもの動きが明らかに不自然だからだな。)
先ほどまでの得意げな様子は失せて、なんとも真剣な声色で答える。
(と言うと?)
(そうだな、現在こちらの圧倒的な優勢、つまり言い換えるとあちらにとっては絶望的な劣勢な訳だ。戦い続けて士気と戦力が落ち切ってしまう前に退いて体制を立て直したいはずだ、なのに逃げる者はいても部隊での撤退が指示されている様子は一切ない。んでもってこの優勢のまま戦況を放置する理性ががどこにいる、野生ですら何か手を打つだろう。なのにこの様子だ、恐らく何かが仕込まれているに違いない。)
(なるほどね。で、もし本当に敵が無能なら戦場の優位性を自分から捨てるだけになってしまいかねないけど、そこはどうなのかしら?)
(そのための第二騎馬隊だよ、奇襲を行う部隊の振りをしてもし相手の策が本当に無いのであれば数も先に比べて少なく時間もある程度たっているとはいえ先ほどまでとは言わないがある程度の有利が取れるだろうな。で、もし何か策があったとしても被害が少なくて済む、要するに斥候を送ったんだな。)
(なるほどね。)
――一方騎そのころ騎馬第二部隊の面々は皇が自分たちだけにに獲物を与えてると思い、自らがあげるであろう戦果に胸を膨らませ部隊の横っ腹に突撃する。その瞬間、突如として丈が十尺ほどの巨大な影が現れ、次に彼らはすりつぶされ、馬ともどもよもや塊とも言えない程細かい肉塊にされた。その影は岩の集合が蠢くことで形成されていた。
ごめん、書くだけ書いて投稿忘れとった。