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水槽の月~我思うとも、我在らず~  作者: 相対冷夏
人魔大戦編
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四十三話「糸の上の戦」


「アラクネはまだ下に降りる為の糸をはれてなそうだ!上の本体は儂がやる!下の傀儡の処理は任せた!」


団三郎が薬師に向かってそう叫んだ。それに対して了解を示すように頷く。少し見まわしただけでもそこら中に虚ろな目をしたナモミハギがこちらを補足し、その冷たい息を吐きつけている。


(さてどうすればいいんだ?この数を一人で捌き切れるのだろうか。)


彼は漠然とした不安を抱いた。この期に及んで漸く見世物でも訓練でもない一人での初めての戦いが始まろうとしているのだ。今のここには吞乃は居ない、自らが未来への道を切り開かなければならないのだ。


「――ッ!」


しかし彼がゆっくりと思慮に耽っている間にナモミハギ達は樹を昇り上の蜘蛛女と団三郎との戦いに加勢しようとしているではないか。自分と自分自身を擁する吞乃の面子に泥を塗ることになる事を直感的に理解した彼は自らの体から氷槍を作り出しそれを今木を登らんとする奴らに投げつける。投げられた氷槍は木を数本貫き、メキメキと音を立てさせ打ち倒した。


「うぉっ!……あんまり時間を掛け過ぎると下に落ちてしまいそうだな。上に登られるか下に落ちるかの板挟みか……まあ上等。やってやろうじゃないか。」


木の上の団三郎は未だ火の消えていない煙管を手に持ち臨戦態勢に入る。


「あまり短期決戦は得意ではないが、まあ仕方あるまい。」


そう言って団三郎は二本の歯を持つ下駄で自らが足場とする枝を強く踏み、その体躯を発条の様に弾き距離を詰め熱を帯びた煙管を振りかぶる。当然か細い煙管を用いたその攻撃は蜘蛛のその堅牢な最前の足にはじかれ団三郎のその体は空中へと投げ出された。宙を舞う団三郎は煙管を握るその右手を翻すと、そこに在ったはずの煙管は存在を隠しその手中には鋭い針が多く手挟まれている。アラクネは露骨に嫌な顔をした。


「この程度の技でそんな顔されたんじゃあ参ったな。」


嫌らしい笑みを浮かべながら団三郎はその手に挟んだ幾つもの針を女へと投げ付ける。その手に挟まれていた筈の針の数とは明らかに勘定が合わない程の多さであり、正に針の雨と言うに相応しい。アラクネは蜘蛛の前二本の足を交差させ、身を守らんとする。幾つかの刹那が過ぎ去るその時、アラクネのその体に刺さる針は片手で数えられるほどであった。他にあるのは軽石がぶつかるような安い痛みだけ。


「貰ったッ!」


斜め上から降り注ぐ筈だった針から身を護るための体制はとても大きな隙を晒した。当然そんなものを見逃す訳もなく、団三郎はその袴の懐から短刀を取り出し、交差した足の片方の根元に突き立ててそのまま力任せに、力の限りを用いて切り落としてやった。


「やはり硬いな。鬼の力があれば豆腐を切るようにできるのだろうが生憎私はそんなモノ持ち合わせていないのでね。少々強引に行かせてもらう。」


短刀の血を払いながら団三郎は述べる。腕を雑に切り落とされ、苦痛に歪むアラクネは残ったもう一方の足で貫かんと突撃を仕掛ける。団三郎の命を穿つために伸びた硬く鋭い足を短刀の上を滑らせて、最低限の動きで流してやる。


「残念、その足が身を護るための動きをしていれば、もう少し長く続いていただろうに。」


硬い足から短刀を離し、刹那に距離を詰め、その凶刃が女の喉を掻っ切った。蜘蛛の上の女はもがきにもがいて、やがてその動きは静まり、力なく二つで一つの灯は消え去った。


(やはり上の女が命を持っていたか、蜘蛛の足を切り落とした時に女しか反応しなかったことに気付かなければ危なかったな。)


下にいるナモミハギ達は支配の糸が切れたことで地面に倒れ伏した。


「さて、戦はまだ始まったばかりだ。もう少し遠巻きに様子をみるぞ。」


木から飛び降りて団三郎は云う。

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