四十話「魔会議」
「さて、あの男が動かしている兵は如何ほどの物なんだ?」
我々の眼には明らかに西洋的に映る円卓を幾つかの異形が囲んでいた。そう、ここは魔族の場所。そしてここは最前線の最重要拠点であり、人間と魔族との戦いの火蓋が切って落とされて以降落とされたことのない難攻不落の城、――その名も『出水』である。この出水と呼ばれる城は高地からなる圧倒的な地の利にあり、この度の人間側の軍行によってここが落とされればその文明発展力の低さが祟りここより他に大きな拠点の無い魔族はまず間違いなく負ける。それほどまでの地点なのだ。今宵はこの場にて人間を迎え撃つべく有力な魔族が十人前後で卓を囲んでいた。
「少なくとも三十万、恐らく五十万は下らい程度の頭数かと。」
人に化けた彼の使いであろう蝙蝠は無表情に淡々と情報だけを伝えた。
「……信じ難いな。」
組んだ両手の甲に顎を載せ、一番位が高い者が座るであろう椅子に掛けている細身で大柄な黒髪の男がそうつぶやいた。それと同時に彼から見て少し右手側の寅のような男が声を荒げる。
「そんなはずが無いでしょう!もとより女子供含めた人間自体が江戸と京を合わせて三十万行くかどうかだぞ!そこから軍隊として使える人間を持ってくると考えればそんな数字が生まれる道理が無い!」
寅男のその発言の後、卓に着いた魔族は各々会話をはじめた。どうやら事の真偽を推し量りあっているようだ。
「少し、静かにしてくれないか。」
そう言って最高位に座す男が右手を挙げる。したらどうであろう、先ほどまであれだけ私語を発してた魔族たちは黙り、彼の方へと意識をやった。
「さて、恐らく先の数字は本当だろう、どうやって頭数を錬成したかは分からないがこれの数字が嘘だと考える事は難しい。では私達はどうするべきであろう。当然ここをみすみす明け渡すことはあってはならないことだ。しかし、敵はどうにも強大。如何せん厳しい戦いを強いられるだろう。そこでだ、この度は私が戦場に出る総ての物を統べ、指揮する。」
その場にいる者皆に問うように、しかしすべて肯定する形で彼はそう言った。
「少しお待ちください!それは無謀が過ぎるのではありませんか?!いくら貴方様と言えどもこの場において貴方様以外でもっとも統率の上手い彼ですら扱えて一万弱ですよ?数十万に当たる魔族を統率できようものなら既に天は私達のもとにあるはずです!」
人間のような体の背中から蜘蛛のような足の生えた男が反駁する。
「しかし敵は五十万を超えるんだ、数千単位の小隊の集まりで退けられるとでも?もうできるかどうかの話は終わっている、やるしかないのだよ。」
「それは……」
「分かったな。それでは皆に質問だ。この中に数十万の魔族を御せる自信のあるものは居るか?」
そこにいたすべての魔族は下を向き、服従を示した。
「――それでは私にすべてを任せてもらう。」
そう言って男は一足先に卓から席を外した。