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水槽の月~我思うとも、我在らず~  作者: 相対冷夏
人魔大戦編
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三十八話「軍行」

少しばかり爽やかげに御簾の向こうの山から太陽が顔を出さんとする。


「さて、頃合いだ。行きましょう、天照命。」


皇は体を起こした後にいつもより厚手で糊付きの良い堅めの服を着て、何処かに控えている太陽神に向かって声を掛けた。


「ああ、そういえば今日だったわね。いつ頃にか吞乃ちゃんと久方振りに合えると思うと小躍りしてしまいそうだわ。」


確かに視界にあったはずだが認識することの出来ないどこかから二十代になるかならないかの長髪の女性がそう言いながら現れた。


「向こうはこんな形でのご対面は望んでないと思いますよ。しかしかく言う私も吞乃様の本来の力にまみゆことが出来る事を高く望んでおりますが。」


剣と銅鏡を懐に仕舞込み、紐の通った勾玉を首にかけながら皇と天照大御神は問答を続ける。


「――さて、私の支度が終わりましたので、そろそろ外に出ますよ。またしばらく何処かに隠れておいてください。」

「え~。もう終わり?もう少しだけ良いじゃない。私が貴方と楽しくお話しできる機会が限られている事知っている癖に。天岩戸に隠れてしまおうかしら?」


年端のいかない少女かの如く太陽神が駄々をこねる。


「天岩戸に引きこもられたら誰もが等しく困るので止めてください。そんな事いっても言ってもこれ以上彼らを待たせるのも面倒事につながりますから……」


そんな様に皇が太陽神を宥める事数刻、日が出切った頃にようやく話がまとまり皇は宮を出て都の中へと繰り出した。笠を深く被り道行く民衆たちに自らが皇であると悟られぬように細心の注意を払いながら、少しばかり遠回りだが人通りの少ない細い道を行き南の朱雀門へと向かう。都の道は格子上に敷設されているため少ないと言っても幾つかの人目は避けようがないが、それでも皇であることを誰にも悟られぬまま朱雀門の外へと出ることが出来た。朱雀門の開けた所にわらわらと甲冑を見に纏った武士どもがそこに在った。朱雀門の梯子を昇り物見のために作られた場所から十数万の武士を見渡す。


「皆の衆!この度は上様が我々と共に彼の討つべき魔どもを討たんとする!さらに、今この場でお前らを鼓舞して下さるそうだ!心して聞くがよい!」


武士をまとめ上げているであろう者が隣でそう叫んだ。したらば、だ。先ほどまでですら緊張していた空気がより張り詰めた。どことなく息苦しさで命を手放してしまいそうなほどに。そのような場になったところで皇にお鉢が回された。


「さて、お前らの心の内を曝け出してやる前に一つ伝達だ、今回の軍行には魔法学者の端居霞子を含む幾人かの魔法部隊を投入する。が、しかしだ。彼ら彼女らはあくまでも飲料水などの補給に徹してもらう故に前線には出てこない。伝達は以上だ。」


そう言った後、皇は大きく息を整えて――


「さて、一つ聞こう。お前たちよ、何故魔が憎い?」


静かに、しかして力強く、皇は問うた。何人もその問いには答えない。その理由を皇は知っている。


「分からないのだろう。何故憎いのかが。」


そうである。実のところ人間と魔族は真っ当な戦闘行為以外での一般民衆の殺害や略奪を双方ともに行っていない。しかしそれでも、奴らは人間にとって不倶戴天の敵なのである。


「そこに理由などなく!ただ魔族であり!双方に仇なしあう関係であるがゆえに!天照に大御神にその命を賜りこの國に生まれ落ちたその時から!魔を憎み、また魔に憎まれる存在であったのだろう!」


先ほどよりも大きく力強く、されど貴族よりたっとき皇族として上品に。


「故に我らは!魔を討ち!魔に討たれ!幾分にも廻った血肉の輪廻を!ここで我ら生をもって終わらさんとするために!この度我らは北へと向かい!力を振るうのだろう!」


「この八尺瓊勾玉の慈悲と!草薙の剣の剛力と!八咫鏡の叡智に誓って!我らの手で、屠れ!魔を!その肉を以って我々は今この上に広がる天をいただくのだ!」


皇は三種の神器を取り出して、そう叫んだ――

おひさです、学校がテストだの補修だので忙しかったのです。

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