三十四話「そうならば」
銭湯の前でタチガミと薬師が暇を持て余しているところに吞乃が合流した。
「思いの外長風呂でしたね。何かありましたか?」
タチガミが単純な疑問を投げかける。
「ん?ああ。それなんだがな、中々面白い話が転がり込んで来たんでつい話し込んでしまってねえ。」
「ほう?具体的にはどのようなものでしょうか?」
「先ず皇は本気だ。きっと神器も持ち出して来るだろう。それ即ち魔族だけでなく皇を相手する奴をこっちから捻出しなければならないというわけだ。」
タチガミが顎に手を当て珍しく真剣に考え事をしている。
「それは中々厳しいですね……。河童たちはともかくこちら側に相手できる方が居ませんからね。それこそ適当に何かしらの戦力が見つかれば話は早いんですが……。」
「それが一番の問題だな、私等と団三郎だけじゃあちっとばかし厳しいか。ただ時間はまだある程度はある、考えうることは東の妖怪に頼むか、西に戻るかだが……。西の神妖まで頼みに行くのは厳しいか?しかし東の奴らは何処にいるのかよくわからんのが多いからなぁ……。」
そうして三柱が暫く頭を悩ませていると小柄な女の鴉天狗が話しかけてきた。
「あの……お取込み中申し訳ございませんが、吞乃様でしょうか……?」
どことなく情けなく弱々しい彼女の声はしかししっかりと三柱の耳に届いた。
「そうだがなんだ?今は少し忙しいんだ。余りに重要性の低い用事なら容赦しないぞ。」
「吞乃様気が立ちすぎですよ。」
少し苛立ち気味の吞乃にタチガミが冷静に釘を刺す。
「すみません忙しい時に時間を頂いてしまって。それで要件と言うのは一つは河童たちと付き合っていく上での挨拶回りともう一つは先ほどお三方が話されいていた内容に関わる事です……。」
やはり弱々しく、そして情けないその喋り口であるが、その中でも彼女はしっかりと言の葉を紡ぐ。
「……お前が役小角の寄越した天狗か。もう少し生きが良いのが来ると思っていたがまあいい。さっきは怪訝そうに扱ってしまって申し訳なかった。謝るよ。」
「いえ……大丈夫です……吞乃様は何も悪くありません……」
本来彼女よりも格上の吞乃に頭を下げられたことにより少し挙動不審になりながらも無礼の無いように言葉を選ぶ。
「さて、それで私達の話していた事――即ちどこそこから神妖を連れてくるという話だがそれとお前が何の関係があるんだ?」
「ええ、それなんですけど、我々がその気になって空を飛べば、一日でここから京どころか吉備の辺りまで行けるんですよ。なので狐や鬼の方々などを数日でここに連れてくることが可能です。」
その言葉を聞いて三柱は目を見合わせた。正に渡りに船ではないかと。
「天狗よ。その仕事頼めるか?」
「ええ勿論です。」
その言葉には最初の弱々しさは失われており、代わりに自信に満ち溢れていた。