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水槽の月~我思うとも、我在らず~  作者: 相対冷夏
都編
20/49

十七話「到天京」


吞乃が羅城門での手続きを終えるとその尊大な門は難儀そうにその重量を感じる重苦しい動きで開いた。


「ようこそ、ここは学問と(まつりごと)の都、そして天に通づる場所、到天京とうてんきょうだ。」


開門と同時に吞乃が高らかに告げる。


「この後は都の皇にまみえた後に指揮系統をたどって玉藻前を殺した者を探します。ただこちらやその者の対応次第では交戦する可能性があるのでそれだけは心得ておいて下さい。交戦状態になった場合私が表沙汰にならないように対策するのでそこは気にしなくてもいいです。」


また吞乃の高らかな宣告とは違い冷静な耳打ちでタチガミは薬師に忠告する。


「分かった。」

「それじゃあ行くとしようかね。」

「そうですね。」


三柱は都の中に足を踏み入れた。都は基本的に宮廷の役人の屋敷か、そこに仕える庶民の集合住宅しかなく、機織りなどの生産を行う家は羅城門の中にはないそうだ。


「娯楽施設とかは無いのか?」

「無いさね。言ったろう?ここは学問と政の都だって。ここにいる奴らにとって学問こそが最大の娯楽なのさ、役人に仕える物好きな庶民だったり役人そのものだって例外じゃない。」

(進学高校の上位層が集まってるような場所なのか。そりゃこの時代の下手な娯楽よりも学問の方が楽しめるわな。)

「楽しみたいなら江戸の方に行く人が多いですね。あそこは目ざとい商人が前線の兵士たち相手に商売するために集まってそこにさらに人が集まることでできた街なので物品や娯楽が多いですね。」

「そうなのか…知識人の街はちょっと肌に合わないかな…」

「まあそんな長い事居る訳じゃないからそう気にするなってこった。」


形こそ大きいものの華やかさが足りない家々の並ぶ街を歩く三柱は、ついに宮廷到着することとなった。


「おお、これが宮廷ってヤツか。思ってた以上に大きいな。」

「まあ、こんなに大きかったら管理が本当に面倒なんだがな。それじゃいくぞ。」


そう言って吞乃は堀の方へと進んでいった。


「ちょっと待ってくれ。正面入り口はこっちだろ?」


それを聞いて吞乃は少し間を置いたあと、ため息をつきながらこう言った。


「冷静に考えろ、私達の立場で正面から挨拶する訳にもいかないだろうに。私等が秘匿される事の必要性を忘れちゃいないか?」

「…そうだった。」

「私等は堀の水から中に入るからタチガミはいつもの奴に入れてもらえ。」

「分かりました。」

「全く、気付かないうちに顔がでかくなっていくねえ。」


呆れながら吞乃は言った。


「門番に扮した役人というあまりに都合の良い存在が居たのでつい、ですね。」

「つい、じゃないんだよ。まあいいさ。薬師、行くよ。」

「了解。」


水と一体化し堀の中を進んでいくと皇のおわせる部屋のすぐそこにある鹿威しに出た。吞乃が扉の前に居る役人に一瞥し、部屋に入ると、広い部屋の大分奥にある御簾の向こうから幼い声が聞こえた。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞお座り下さい。」

「それじゃあ座らせてもらうよ。」

「では俺も。」


畳に座った二人に対して畏れを交えた声で皇は問う


「今日はどういったご用件でこちらに?」

「そう畏れる必要も無いさ、いや?少しばかり血生臭いから恐れた方が良いのか?まあいいさ。それでその質問の答えだが。玉藻前を殺した奴を探しに来た、そして殺しにも来た。」


その答えを聞いて皇は息を呑んだ、そしてしばらくたって口を開く


「…そうですか。色々言いたいですが、まず最初に。玉藻前が死んだんですか…?」

「そうだ、私達がアイツを抑えた瞬間に弓で心臓を射抜かれた。事切れた後に私が首を切ったが、その場においてある。」

「そうですか…分かりました。では、玉藻前を殺した者を探すことに関しては私達に任せて下さい。なんとしてでも探し出すので。」

「助かるよ。細かい話はタチガミが来てからしようか。」

「?そこにおられる方がタチガミ様では無いのですか?」

「いや、こいつは新入りの薬師童子だ。」


皇は少しばかり凍り付いたように動かなかった。どうも驚きが止まらないらしい。


「…ええーッ!新入り!?」


年相応の驚きの声が部屋に響いた。

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