オシロイバナ
今年もオシロイバナの時期がやってきた。
梅雨の晴れ間、散歩に出かけた私の目に映るのは、濃いピンク色のオシロイバナ。
今から秋ごろまで次々に咲いて綺麗なんだよね。
今は濃いピンクの花しか咲いてないけど、白いのや黄色いの、色のミックスしたのもそのうち咲いてくるはず。
何気に黄色はレアだと思ってるんだけど、どうなんだろう。
遊歩道を彩るオシロイバナに、思い出を馳せる。
スズメ蛾がよく蜜を吸いにやってきて、虫嫌いな友達が泣いてたのを思い出す。
あいつは地味に動きが派手だから、虫が苦手な子は怖がるんだよね。
現に息子も小さい頃は泣いて逃げ出していた。
私が子供のころ、よく遊んだ花。
黒いぷくぷくに丸くなった種を友達と競って集めたりしたもんだ。
その日のうちに使わないと種が一回り縮んじゃうんだよね。
種を割って、白い粉を出して。
集めて顔に塗って遊んだなあ。
集めても集めても全然粉がたまらなくて、意地になってさあ。
学校の花壇中の種を取って、みんなで粉を集めて。
集めた粉を、一番おしゃれさんの女の子がまとめて奪っちゃってさ。
全部顔に塗って先生に怒られて大変だったんだよね。
かぶれたりとかはしなかったけど、顔に塗るの禁止令が出たんだった。
あの子は確か、化粧品屋にお勤めするようになったんだよね。
何だ、因縁めいたものを感じるなあ。
そういえば、オシロイバナの黒い種をたまにしてゴムパチンコやってた男子もいたな。
あいつは確か…パチンコ店勤務だったはず。
ちょっとまてよ、オシロイバナで落下傘遊びしてた男子がいたぞ。
あいつは確か…スカイダイビングのインストラクターやってるはずだ!
オシロイバナ、何気にすごい!
もしかして予言とかそういう系の何かがあるのでは?!
…ただ種を集めて、中身を取り出して、集めたものを使うことなかった私は?
いやまて、落下傘もやったし、パチンコもやったんですけど。
花びらでマニキュア遊びもしたし、押し花でしおりもつくったわ!
ああ、ないない、ただの気のせいだわ。
私、ただ、オシロイバナを遊び尽くしただけの人。
年をとるとすぐこれだよ。
こじつけたがりの思い出したがり。
子供の頃とは違う、大人になった私。
ただ漠然とオシロイバナをきれいだと思い。
ただ漠然とオシロイバナの記憶を脳裏に浮かべる。
ただ漠然とオシロイバナをちぎって遊ぶことはしなくなって。
…久しぶりに遊んでみるか。
オシロイバナで落下傘を作って投げてみる。
…あんまりおもしろくないな。
オシロイバナの種を割って白い粉を取り出してみる。
…これを顔に塗る勇気はないな。
大人になるということは、つまらないないな。
つまらない遊びが楽しかったあの頃。
つまらない遊びを共に楽しんだ誰かがいた。
つまらない遊びに没頭する自分がいた。
つまらない遊びはしない。
つまらない遊びをするくらいなら。
なにもせずに過ごしたい。
つまらない遊びをする体力がない自分に愕然とした。
つまらない遊びをする余裕がない自分に愕然とした。
子供の頃の、潤沢な時間とあふれるパワーに改めて気がついた。
いやいや、私だって、まだ過去を振り返る余裕あるからね。
まだまだ、大丈夫。
オシロイバナをみて何か思い出せるうちは。
散歩の足を止めて一人でオシロイバナの前で考え込んでいた私は、向こう側からやってきた子供たちとすれ違った。
子供たちはオシロイバナには目もくれず、公園に向かった。
私は、オシロイバナから目を離して、散歩の続きを楽しむために歩き出した。