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第9話 夏のイベント全部に参加する作戦 後編

間違えてアップしました。編集して更新していきます。

中学2年生の夏、出待ちのあるはずのない卓球部の解散場所にあの子がいた。

おかしい。あの子がおれたちを待つわけがない。陰キャたちの集まりだぞ。

おれは、帰り道を歩き始める。すると、あの子はここまでの移動手段であっただろう自転車を押しながらついてくる。

「あの、今日はお疲れさまでした。」

黙れ。1回戦で負けるのはテンプレすぎてみんな知っているはずだろう。

「あ、うん。」

聞こえるか聞こえないかわからない程度の声で答える。

「あの、サッカー部の人たちはまだ帰ってきていませんか?」

そういうことか。サッカー部の愛する彼氏、白崎の帰りを待っていたのか。

ただ、今日の試合があった部活は卓球部とサッカー部と陸上部。

いくら夏で日が長いとしたとしても、今は19時過ぎ。

女子個人戦で優勝者が出たうちの部活が最後に帰ってきたに違いない。

うちの学校の部活の集合場所は全部活一緒で、中学校の近くのスーパー。

もし、あの子がずっと待っていたとしてもどこかで帰ってきたに違いない。

ということは、本当に帰ってきていないのだろう。

決勝戦に残り、優勝して、歓喜の雄たけびを上げて、余韻に浸って、帰りが遅くなっているのだろう。

「さぁ、もう帰ってきたんじゃないの。」

思ったことと反対のことを口にする。

「そうなんですかね。」

あの子はそう答える。

実に約1年ぶりの会話。嬉しいのが8割、怒りと悲しみが2割。

歩くおれのスピードに合わせて自転車を漕ぐあの子。

おいおい着いてくるのか・・。

そうすると、すぐに分かれ道に辿り着く。

右の道でも、左の道でも帰ることができる。

が、左の道は白崎の家がある。絶対に面倒だ。

「あ、じゃあ、おれは右の道が近いんで。お疲れ様でしたー。」

さっさと帰る。あの子はしばらくこちらを見ていたが、自転車を走らせておれとは違う左の道を行く。

結局、サッカー部が帰ってきていたのかいないのかはわからない。

こうして、おれの夏休みははじまった。


7月末、花火大会があった。

おれと城之内は「夏のイベントに全部参加する大作戦」を決行する。

しかし、花火大会は人が多く、会場まで来ることができなかった。

近くの海で見渡す花火、おれは花火大会でも学校でも末端者なのか。

「あの花火はおれと結城さんを祝っているようだ。」

「なわけあるか。」

恋をすると自惚れる城之内の扱いはなんとなく理解できた。

少しからかってやるか。

「城之内、もし結城さんが浴衣姿で来たらどうする?」

そうすると城之内が興奮し始める。

「そんなん絶対にかわいいに決まっているだろう。うひょおおおおおおお!!」

叫びながらおれをたたき始める城之内。うざい。

「奥っち!奥っちにも好きな人ができたら応援してあげるよ!!!」

うわー。とどめを刺してきたぞ、こいつ。

この言葉がおれにとってどんなに痛い言葉か。

「いやー、気分いいからクレープ買いに行こうぜ。あそこまでなら行けるからさ。」

城之内がおれに誘ってくる。おれもクレープは好きだ。悪くない。

2人で出店されているクレープ屋を探す。クレープ屋は何店もあるが、花火大会会場は人が多くて入れない。運よく外れにあるクレープ屋を見つけたおれと城之内は妥協というより、そこでしか買うことが出来なさそうなので並ぶ。

すると目の前にあの子と大道がいた。2人とも浴衣姿だった。

というか、この2人は仲が良かったのか。

おれと城之内、あの子と大道。2組は互いにキョロキョロ見たり見ぬふりをする。

あの子は青とアサガオの浴衣、大道は赤と花火の浴衣。完璧だ。

同級生の浴衣姿とか完璧すぎる。こんなのは人生で6回もないだろう。

おれと城之内を真似てかクレープの列に並ぶ2人。

だが、今回は関係がない。

「にしても、さすがこの町最大のイベント、人が多いなー。」

城之内が沈黙を破る。

「そうだな、今のうちに結城に会った時の予習でもしておく?」

暇だし、時間を有効に使える。おれにしては名案だ。

「いやぁん、恥ずかしいよぉ。」

まじか、こいつ。こんなことをしていたら何もはじまらない。

「じゃあ、間接的にやってみるのはどうだ。直接に告白するのが恥ずかしいのだから、できないんだ。」

おれは、自分だったらという考えで話していく。

「うちの地元の野球チームいるだろ?あそこの歴代最強打者は奇しくも結城さんだ。知ってるだろ。」

「ああ、おれのじいちゃんも大好きで神様のように見ている。」

「んで、そこでおれは新たなる作戦を行う。おれが城之内に野球チームで一番好きな人は誰?と聞く。

ここで、おれは野球チームという言葉だけは小声で言う。」

「う、うん。」

我ながら土曜のお笑い劇場みたいな対策を思いつく。

「その後、お前は大きな声で結城さんと答える。勘違いされたり、ドン引きされたとしても、は?野球の話なんですけどですませれるだろ?」

齢14歳。なんとか思いついた対策だった。口にすればするほど馬鹿らしくなる。

こんな馬鹿みたいな作戦に乗ってくれる奴なんて猿しかいないだろう。

「お前は天才か!!」

いた。

「今回の夏のイベントの作戦といい、奥野っちは天才だよ!本当に君はおれにとって心の友だよ!」

城之内がおれに抱き着いてくる。気持ち悪い・・・。

「はい、お兄ちゃんたち、愛を確かめ合うのはここまででクレープの注文を聞きたいな。」

いつの間にかクレープの長蛇の最前列にいた。恥ずかしかった。

おれはアイスバナナチョコ、城之内はストロベリーチョコを頼んだ。

お金を払って、引き上げるときに大道とすれ違う。

「バーーーーカ。」

話を聞かれていたのだろうか。小悪魔みたいな笑い方で言われた。

それとも、元彼氏を独占したおれに対しての恨みなのだろうか。

にしても、今回の城之内はおかしい。いつもなら古城の恋を応援するように冷静なはずだ。

恋というものはそこまで素晴らしいものなのだろう。

しかし、この作戦は夏休みは愚か、決行する日が来るのだろうか。


花火大会も後半へ。第二部の準備が始まる。

流石に花火や結城どうこうじゃなく帰りたくなってきた。

必死に結城を探す城之内、もう見つからないよと言おうとした時、結城がいた。

見たことのない女の子3人と一緒にかき氷を食べていた。

親戚か姉妹なのだろうか。にしても本当にかわいい。

震える城之内。この時のおれは早く帰りたい気持ちで一杯だった。

「おし、城之内行くぞ。」

「え、え、え、お、おん。」

焦る城之内。当たり前だが緊張しているのが伝わる。

「野球チームで一番好きな人は?」

やけくそになったおれは大きな声で話す。

だが、おれよりやけくそになったやつが隣にいた。

「ゆーーーーーーきさーーーんでーーーす!!!」

何もそこまで・・と思った。

すると、聞こえたのか、というか聞こえないはずがない結城さんがこちらを見て顔を真っ赤にする。

本当に面白いように顔の色が変わっていった。

「城之内、これはワンチャンあるぞ。」

城之内も顔を真っ赤にして、手で顔を離す。例え軽蔑されても野球選手の話といえばいい。

恥ずかしいのでその場を早歩きで去ろうとするおれと城之内。

「あの・・!!うちと行こう!!」

結城がおれたちを追っかけてきた。

城之内は人生で一番幸せそうな顔をする。

「いやぁ、本当に奥野っちのおかげだわ!!」

この後、城之内と結城は2人で花火大会を楽しむことになった。

興奮してキャーキャーと騒ぎながら見送る結城の連れ3人。

おれは1人で第二部を見ることなく自宅へと歩いて行った。


何だろう。心の友といった男をほったらかしにするのか。

元々、結城と話をしたこともなかったくせに。

おれが結城と落書きし始めなかったら仲良くなれなかったんだぞ。

おれは女の子と仲良くしてはいけないのか。

おれの役目は誰かにかっこいいと思わせるための引き立て役だ。

ヒーローや主人公ではなく、そいつらにやられていく名もない雑魚キャラのようだ。

おれの人生はそんな感じで行くんだろう。

おれのことをあいつらのように好きといってくれるような人はいるはずがないんだろう。

そんなことを思いながら、夜空の1番星を見ながら帰っていった。


上を向いて歩こう。涙がこぼれないように。


こうして、おれの夏休みを掛けた作戦は8月が来る前に終わったのだった。


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