第7話 2度目の1学期
中学2年生になったおれ。
担任は変わるも男子はほぼ同じ。むしろ前よりおれ好みの奴らがいた。女子は大半が変わり、あの子もいない。悲しさを感じながらも勉学に励むいい機会だと思っていた。あの桜の舞う中での出会いももう1年なのか。と、センチメンタルな気分になりながら2階の教室から外を眺めていた。この時に正式に卓球部の廃部が決まった。2,3年生は最後まで面倒を見るということで、既に入部していたおれ達は新しい部活を探さずに済んだ。
「なぁー、奥野くん!城之内別れたらしい!」
聞き慣れた松岡の声。今年も同じクラスになった松岡、山寺、城之内がやってくる。古城とは別のクラスみたいだ。
「城之内がよー。大道さんと付き合った理由が下心しかないってのがばれたんだよ!」
今度は山寺が言う。
「君たちみたいな非リアが偉そうな口を叩くな」
城之内がいつもより大きく声を上げる。
は!?嘘だろ!でも男はそんなもんだろと思った。ともあれ私生活では平凡な日常を今後は手に入れようと頑張ろうとしていた。
「なぁ、奥野っち!お前んちパソコンあるだろ!
一度は耳にしただろう!モンスタークロス!あれやろうぜ!」山寺から誘われた。人気でやってみたかったオンラインRPG、秒速でやると返答した。当時マイパソコンを手に入れていたのは学年の男子の1割、女子の5割だった。ゲームをメインで運が良ければ同級生の女子と知り合いたいなと思って誘った。
●当時のオンラインRPGはゲーム内のフレンドから、フレンドのフレンドをフレンド申請をすることができた。山寺と最初にフレンドになった私は山寺のフレンド内にいる同中の子を全員申請した。が、返ってきたのは6人だけだった。女子たちは私の存在を知らなかったからである。そして、知っていた人達はあの陰キャと関わりたくなかったからである。今思い返すと、あの時のフレンドのメンバーを1人1人探ると誰が誰と交友をしていたのか一発で知ることができたのである。
そしてだれがハブられているかもだ。
順調にクエストを達成していく毎日。
そんな時、珍しくおれのゲーム上の家に新規の来訪者が来た。
「ねぇ、今からうちの部屋来れる?」
チャットでそうおれに問いかける。
女子だった。どんなやつだろうとユーザー情報を調べると直ぐにわかった。大道だ!
城之内の元彼女である。
あの時の尾行事件にキレてんのかと思った。仕方ない謝罪ならしよう。そう思って彼女の部屋へ行くことを了承した。
「ねぇ、今からする質問に対して絶対答えると約束してくれる?」
ほら来た!あの時の謝罪ね!了解ですよ!
「あぁ!大丈夫だ!問題ない。」
そうおれが答える。
次の瞬間、この部屋には他のユーザーは入室することができません。と部屋の設定が変更された。
なるほど!これで邪魔者を寄せ付けないのか。考えるなあ!すぐに「ごめんなさい!」を表示できるようにエンターキーに指を当てる。
「じゃあ、質問しますね。」
さぁ来い!!
「好きな人いますか?」
「ごめんなさい!」ほぼ同タイミングだった。
え、あ、え?予想の斜め上の質問ですね。
「いや、ごめんなさいやなくて、もう一度、好きな人いますか?」
おれは興奮して頭がおかしくなった。好きな人?
好きな人といえばあの子?でもそんなの答えれない。パニックになるおれ。
「内緒で・・・」と答える。
「内緒ってことはいるんでしょ?ねぇ約束守るって約束したよね。答えるまで帰さん。」
いよいよ、やばくなってきた。
うおおおおおおおおお!!!
おれはこの時パソコンのコンセントを抜いた。
この時からおれはどんな魔法より強い
パーフェクト・ヘブンズゲート(強制シャットダウン)を取得することに成功した。
それからはおれは大道さんによく捕まるのだがそのたびにパーフェクト・ヘブンズゲートを発動した。そしてそれからおれは学校で会うたびに時には半ギレ、ある時は満面の笑みでビンタしていい?と聞かれるようになる。その度にリアルパーフェクト・ヘブンズゲート(大道からの逃亡)を発動した。そして、そんな月日が流れて6月の体育祭。記録係として仕事に励む。そこには大道もいた。オンラインでは別れた後も城之内と遊んでいるらしいが、優しいのか,苦労をしているなぁと思っただけだった。「ねぇ、オンラインの奥っちのキャラクターのおっさん何なの?」同じ記録係の大道が聞く。
「ん、ほらあの探検アニメの戦う食堂のおっさんを真似たんよ。かっこいいやろ?」
「全然かっこよくねぇーし。」と笑いながら言い返された。
この日からおれのオンラインでのキャラクターはおれを基準とした眼鏡の少年となった。
おれが現実とネットの両方でパーフェクト・ヘブンズゲートを使いこなす中、この頃のおれの趣味は1位と2位が変動していた。
前まで1位だった育成モンスターゲームより2位のご長寿探検アニメがマイブームになっていた。
元々集めていたフィギュアはどんどん増えていき、グッズも収納しきれないようになった。
そんなグッズを自分の家の庭に飾ることがはまった。コレクションの一部を見せびらかしたい気持ちが一杯だったのだろう。ともかくおれの探検アニメ愛はひくほどに強くなっていった。
おれは高校に入ったらイラストの勉強を美術部員としてしてみたい気持ちになっていた。
黒板は、おれにとって最高の落書き場所だった。
おれはよく朝や休憩時間に探検アニメのキャラクターを描いていった。松岡と山寺もその作品の信者だったの落書きをしながらふざける
「いや、今週の救出劇最高やわ」
「あの必殺技タイタンショットやばいやろ」
そんな感じでもはや学年のヘッポコトリオ認定にされた3人で遊んでいた。ある日、その空間の中に入ってくる少女が現れた。
結城だ。
結城は同じクラスになったが一切喋ったことがなかった。大道といい、おれがどんな風に言われているのか知らないがよく輪に入ろうとするなとしか思わなかった。きっと体育や名前のことを知らないのだろうと思った。
「うちも探検アニメずっと好きなんよ。うちも隣で書いていい?」
第一印象は変人だと思った。こんなおれのところに来るんやでと。この頃になると1年の頃のやられっぷりは2年も同様なので女子たちは醜いから近寄らないが主流になっていた。また、放課後や遊びや体育の授業では、自分の能力をわざとおれ並みに下げて遊んだりするゲームが流行った。バスケでおれだけシュートを決めたら6点のように奥野特別ルールをその遊びの中で取り入れたり、「今日は奥野くんルール使わないんですか?」と、誰かが体育の教師に聞くようになった。
おれは何してんねん!とツッコミを入れたり笑うことができれば良かったが、あまりにもその光景を見ることが怖くて避けることしかしていなかった。それに屈辱でしかなかった。
そんなこんなで4人となった黒板落書き隊。
結城は絵が上手かった。そんな結城がおれと同じアニメのキャラクターの絵を描くものだらから当然比べられる。少し向こうでそんな比較の話が聞こえてくる。
「うちはこのマスコットが好きでさぁ。ほれ!」
「うわっ、天才的に上手い。」
と俺たちが褒める。
「そんなお世辞いらんったい。」
そうですたい。と褒めるのをやめる。
「結局、宝はなんだろうね?」
「どうやろ?うちはそれよりこの剣士が好き!」
「奥野っち!それよりおれ奥野っち描いたよ!」
山寺がおれに似た育成モンスターを描く。
周りは笑う。
「ははは、奥野くんだ!奥野くんだ!」
高笑いする松岡。
無視して描きながら、2人で淡々と語る探検アニメ愛。
するとどんどん喋ったことのない女子達が混ざってくる。興奮する松岡と山寺。もちろんおれも。
「うちは、これ得意よー」
「白いチョーク渡せやー!松岡ー。」
女子が混ざると簡単なもので男子たちも混ざり始める。「おいどけや!堀北さん!おれ豚の絵が上手いで!」「みんなで誰が担任を上手くかけるか挑戦しようやー。」おれはいつのまにか黒板に書く場所を失っていた。それからしばらくは朝は落書きに混じり、クラスの中心的男子や女子たちが来るまでは参加し、その後はひっそりと消えていった。いよいよすることがなくなったのである。
この世は弱肉強食の世界。本当にそうだ。
そんなある日、結城はおれに言ってくる。
「奥野くん。奥野くんはなんで絵を描かなくなったの?」
ひょっとするとこいつは同じ仲間がいなくなったので寂しいのではと思った。それとも自分のアピールの場を失ったからではと思った。
「いやぁ、飽きてしまってさぁ。」
我ながら強がりの大きい言い訳である。
「じゃあさ。うちにそのアニメのキャラとサイングッズあるからあげるよ。レギュラーメンバーのやつ全員あるし、どれがいい?」
嘘だろ!と思った。こんな幸せなことがあるもんか。ただ、もしおれが逆の立場になると絶対に嫌だ。ここは念には念を入れることにした。
「本当にいいの?大丈夫?遠慮なくもらうよ?」
「いいよ!今度持ってきてあげるわ〜」
おれのアニメやゲームの本拠地はだいたい中古屋なのだが、どうやら結城の本拠地はゲーセンらしい。この結城一族がゲーセンの探検アニメ景品を総なめしているそうだ。常連達には探検ファミリーと呼ばれているらしい。
「いつかうちんちのグッズ全部見してあげるよ」
と言われた。けどこれは恐らくおれのグッズより豪華で凄いのだろう。まぁ仕方がないと思い、
「わかった!いつでも大丈夫」と答える。
しかし、これはファンの奴らからすると絶対に欲しいグッズ。
「オイラも欲しいなぁ!」
と、城之内をはじめに結城の前には人が集まっていった。
翌日。
何故か不機嫌な結城。
「はい、あげるからキャッチしてー。」
宝であるはずのサイン入りグッズが飛んでくる。
グッズは小さいので投げやすい。
速いスピードで飛んでくる。
キャッチすることができずに落としたり顔面キャッチをしたりした。
「あ、わざわざありがとうね。落としたけど。」
こうしておれはサイン入りグッズを2つ手に入れることに成功した。
あ、あのグッズなのか。と、ぞろぞろ集まる。
その後こっちを見ずに誰とも話さない結城。
よく意味がわからないおれ。
夏休み前の期末試験。相変わらずおれはこの異性2人と、パーフェクト・ヘブンズゲートとアニメの話で盛り上がっていた。
そんな時、試験の始まる前の数分間。
「奥野くんー。前約束したグッズ見せるね。」
結城は拘束違反の携帯を持ってきて、写メを見してくれた。そこには結城の部屋と、大量のグッズがあった。
「え、あ、うんすごいね!」
戸惑うおれ。
「3,2,1・・・。じゃあ!もう終わりだから!」
一度した約束を守らないといけない主義なのかなと思った。どんなに嫌であれ、約束は守る。グッズといい、携帯といい、危険を冒してまで来たのだ。そもそもおれにここまでしなくとも。
本当によくわからなかった。その後だった。クラスの白崎と中村に「調子乗んなよ。」と言われた。何のことかよくわからなかった。
そのあと、試験が終わり、修学旅行の説明があるので給食を挟む。
今回は仲のいい友達と食べていいことになる。
こんなイベントはうちの中学だと滅多にない。
みんなクラスを飛び出して好きな人同士で食べる。部活仲間、カップル、幼馴染と。
おれは松岡と山寺、城之内と食べる。
その近くで結城も女子グループと机を並べて食べる。
「なぁ、修学旅行どこでもいいならどこ行きたい?」
城之内が聞く。
「おれは東京のディズニーかなぁ。」
おれと松岡が同時に答える。
「はぁ、もう飽きた。」
山寺が答える。こいつは親が海外で活動しているから金持ちだ。おれらが行きたいと思うところは全部行っている。そしてはじまる山寺放浪記。
聞き流しながら牛乳を飲むと視線を感じる。
振り返るとその先に、結城がいた。
結城はおれを見ながら自分の胸を揉んでいた。
13歳、こんな衝撃あるものか。
箸を落としてしまい、拾いながら元の体勢に戻る。
見間違いであってくれ。でもそうじゃなかっても欲しい。以降、おれは結城を怖くて自分から話せなくなった。
その翌日、城之内から内緒の相談をされる。
「ごめんな、古城のときみたいに。」
「ん、ああ。あれも懐かしいな。」
「今回はおれ、3人目の好きな人ができました!」
はぁ、こいつはもう誰でもいいのかな。
「そっか。え、今回は誰?」と、聞く。
「その前に約束して欲しい!告白の手伝いをしてくれ!」
「まぁ、いいけど。」
友達の頼みだ仕方ない。
「で、お相手は!」
城之内は嬉し恥ずかしそうに答える。
「結城さん!」
書きたいところの半分しかいかなかった。