8.初めてのおつかい
「すみません。買い取りお願いします」
買い取りブースの人に声を掛けたら、強面のマッチョが出てきた。
「おう、さっさと出せや」
何この人!? カツアゲされてるYO!
ちょっぴり涙目になりながら、鞄の中から戦利品を出していった。
ワーウルフ(エリアボス)の毛皮×1
ウルフの毛皮×17
スライムの核×48
黄色の魔石/極小×2
青色の魔石/小×1
並べてみると初めてにしては、まずまずの成果と言えるだろう。
「嬢ちゃんが、一人で狩ったのかい?」
「はい、そうです。幾らになりますか?」
ムムムッと顔を顰めるおっさんに、またやらかしたかと内心焦る。
「若いのに凄いな。でも、あまり無茶はするなよ。命あっての物種だぜ」
「はい、肝に銘じます」
自称神にモンスターを嗾けられているとは言えないので、苦笑いを浮かべておっさんの言葉を聞き流した。
「ワーウルフは、ウルフの上位種だから銀貨6枚だ。ウルフの毛皮は、金貨3枚と銀貨4枚、スライムの核は銅貨4枚と青銅貨8枚、黄色い魔石は銀貨2枚、青い魔石は金貨1枚だ。合計で金貨5枚、銀貨2枚、銅貨4枚、青銅貨8枚になる。手数料が二割になるから金貨4枚、銀貨1枚、銅貨9枚、青銅貨8枚になる。春先だとウルフの毛皮の買い取り額が下がるから気を付けろよ」
「分かりました。ありがとう御座います」
こちらの世界は秋から冬の間になるのか。日本は猛暑がやっと終わり、これから秋になっていく時期だ。やはり時差があるのかもしれない。一度、妹に相談してみよう。
「ワーウルフ討伐があったから、事後だが達成にしておいてやる。ギルドカードを出しな」
ギルドカードを渡し、支払われたお金を数え巾着袋に入れる。
「ほら、失くすなよ」
返却されたギルドカードに次のランクアップまでのポイントが表示されていた。
5645PTか。FからEへ昇格するのは難しくないみたいだし、安全な方法でギルドポイントを上げていこう。
「ありがとう御座いました」
お礼を言って冒険者ギルドを後にした。
ギルドを出たあたりから、何やら不穏な気配が。後ろから付いてくる人がいる。
ギルドに併設されていた酒場らしきところで屯ってた人だ。
これもお約束イベントなのか。新人でいきなり金貨4枚以上を一人で稼ぐんだから、目を付けられても仕方がない。
受付嬢は、ギルド内での諍いはご法度と言っていたからギルドから出た瞬間、それは適用されないということなんだろう。
正直、私の攻撃手段は物理が基本。万能包丁で急所をグサリだから、下手したら相手を殺しかねない。
相手のレベルによっては、私の身も危うくなる。面倒臭いなぁ。
仕方がない。隠密スキルで撒こう。私は隠密を発動し、人混みの中を潜り抜けるように走った。
そして、また迷子になった。リアルで土下座姿で地面を叩くことになろうとは思わなかった。
二度目の迷子になったレンです<ミャハッ☆彡>
脳内でやってみてキモかった。鳥肌が立ったわ。
迷子になってしまったのは仕方がない。もう一つの目的地である商業ギルドを探そう。
どこかに聞けそうなところはっと……。
雑貨屋があった。ちょっと覗いてみよう。
「お邪魔しまーす」
ドアを開けるとチリンとドア鈴が鳴った。お洒落だ。
中を見ると木製品の日用雑貨が綺麗に陳列している。木製の木皿を見ると銅貨6枚と、私からすると高い。100円ショップで買える代物だ。
何か他に良いものは無いかと店内をウロウロしていたら、声を掛けられた。
「見かけない顔ね。 この町に来たばかりの人かしら?」
眼鏡をかけた不愛想な美女に、小さく頭を下げる。
「ええ、出稼ぎで家を出たんです。何かお土産に買って帰ろうと思うのですが、お勧めの品ってありますか?」
「そうね。相手にもよるけど、万人受けするなら木彫りの身代わり人形ね。一度だけどんな災厄を引き受けてくれる呪い人形よ」
異世界版こけしに可愛くないと思いつつ、効果はあるのかと鑑定してみたら、美女の言った通りの効果があった。
鑑定結果は、以下の通りだ。
身代わり人形:一度だけ災厄を引き受ける。即死しないが、体力は30%ほどで生還できる。
「お幾らになりますか?」
「金貨1枚」
「高っ!」
即死防止と考えれば安いんだろうけど、駆け出し冒険者には手痛い金額であることには間違いない。
でも、保険を掛けるだけの価値はある。
「それ3つ下さい」
「金貨3枚よ」
カウンターに金貨3枚置くと、身代わり人形を3つ置かれた。鑑定し本物だと確認する。
「ポーションは置いてないんですか?」
「それは、薬師ギルドで卸しているわ」
「ありがとう御座います。薬師ギルドと商業ギルドの場所を教えて貰っても良いですか?」
アイテムボックスを通じて鞄からノートとペンを取り出すと、眼鏡がギラッと光ったように見えた。
「それは何かしら?」
「紙と携帯用のペンです」
「見せて貰っても構わない?」
「ど、どうぞ」
食い入るように紙とボールペンを見る店員に引き気味の私。
「こんな良質な紙を見るのは初めてだわ! それにこの携帯用のペン! 書き心地も滑らかでインクに付ける必要もないなんて、どういう仕組みなのかしら?」
何か凄い人に捕まったぞ。日本製のボールペンは北極でもスラスラ書ける優れもの。
メーカーじゃないから作り方なんて分からないし。どう誤魔化そう。
「私の知人が技術者でして、その試作品を使わせて貰っているんです。構造は私にもさっぱりなんですよねー」
あははは、と愛想笑いで誤魔化した。
「そうなの……。それなら、売ってもらうことは出来ないかしら?」
「今は、それしか持ってないので売るのはちょっと……」
売るにしても別の町になるだろう。もっとも売るかどうかは、市場調査が済んでからの話にはなるが。
売れないと分かった眼鏡美女は、残念だと大きなため息を吐いた。
「売ってもらえないなら仕方がないわ。貴女、場所が分からないなら地図を買っていかない? この町の地図のスクロールを読み込めば、道に迷うことはないわよ。今ならおまけして銀貨2枚でどう!?」
地図は欲しいがスクロールって何? 私の頭に?マークが乱舞する。
「地図を購入するのは良いんですが、初歩的な質問ですみません。スクロールを読み込むってどういう事ですか?」
挙手しながら質問すると、美女は目を丸くして驚いていた。
「魔法を取得する時に必要な情報が記された紙をスクロールと読んでいて、それを読むことで身体の中に入ってくるの。スクロールは一度使うと燃えて消える仕組みになっているわ」
なるほど、使いまわし防止ってことか。町だけでなく世界の地図もあれば、索敵と併用すれば凄く便利かもしれない。
「世界地図はありますか?」
「大まかなのなら冒険者ギルドで売ってるわよ。国内の地図の大まかな奴なら置いてあるけど、金貨1枚になるわ」
意外と高い。綿密な地図があれば、他国に攻め入りやすいし、逆もそうだろう。
基本的に地図は隠匿されることの方が多い。
「では、国内の大まかな地図も下さい」
金貨1枚と銀貨2枚を払って、地図のスクロールを購入した。
早速その場で二つとも読み、体の中に地図がインストールされる。
「ありがとう御座いました」
「何か珍しものがあったら是非うちで売ってね。買い取るわ」
笑顔で送り出してくれた美女に、頭を下げて店を後にした。