87.廃屋病院を購入しました
●×不動産へ行くかと言うと、保養所兼工場を建てられる場所を探していた。
結構大所帯になってきたし、保養所が欲しい!
というのは建前で、食い扶持や建物の維持費などを考えると大きなお金が動く仕事が必要になる。
売れるものと言えば、留美生の服や宝飾のデザイン画だろう。
外注すると高くなるので、手頃な値段で誰でも可愛くお洒落を楽しみたいがコンセプトになると難しい。
なので、サクッと新ブランドの部門を立ち上げることにした。
多少交通の便は悪くても、手頃かつ結構な広さのある場所を求めて●×不動産へと赴くことにしたのだ。
●×不動産のドアを潜ると、丁度担当してくれていた渡氏が、パアァツと明るい顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、山田さん!」
「こんにちは、渡さん。新部門の工場を探しているんですよ。良い場所ないですかね?」
「そうなんですね。ささ、こちらへどうぞ」
下にも置かぬ扱いで対応してくれる渡に、何か気持ち悪いと思ってしまった。
一体何が、彼をこうまで変えてしまったんだ?
「渡さん、何だかご機嫌ですね」
「そう見えますか? 例の物件を売った後から、営業の成績が上がりまして。プライベート共に充実しているんです」
思わず、リア充爆発しろ! と心の中で毒吐いた。
「そうなんですか。羨ましいですね~」
「顔引きつってますよ」
ホホホッと返した言葉に、ボソッとアンナが突っ込みを入れる。
そこは、スルーしてくれよ!
「化粧品以外に何か扱うんですか?」
「ええ、服飾・装飾関係の部門を新たに事業展開するので工場を建てようかと考えているんですよ」
「それでは、それなりの広さが必要になりますね……」
手を顎に当てて考える渡に、
「ああ、先に行っとくけど場所は千葉で東京都とディゼニーの間を車で約30分のところ希望でお願いします」
と無茶ぶりを振ってみた。
その言葉に、渡の顔が大きく引きつっている。
優良物件を探そうとしてくれるのは有難いが、私としては訳あり物件の方が安く買い叩けて有難い。
「工場に出来そうな場所を調べてみますので、少しお待ち下さい」
パソコンをカタカタと打ちながら画面と格闘している渡を見ながら、アンナと2人で出された緑茶を頂く。
茶菓子が出たら最高なのだが、そこまでのサービスは期待していない。
数分後、プリントアウトされた用紙をテーブルの上に並べられた。
一通り目を通すと、近くに温泉がある場所があった。
「この物件良いんじゃない?」
1枚の物件をアンナに見せてみたら、彼女も頷いている。
「最初に言っておきますが、それ曰く付き物件ですからね」
「うん、写真見て分かった。病院の廃屋だよね? この写真撮った人大丈夫? 凄く嫌な感じするんやけど」
ドロドロとした怨念を感じる。プリントアウトした画像ですら、そう思わせるのだから現地に足を踏み入れたら、常人ならまず死ぬ案件だ。
「山田さんって、そういう筋に詳しいんですか? この間も曰く付き物件買われて何ともないみたいですし」
期待が籠った目で私を見つめる渡に、一刀両断した。
「いや、全然」
ガクッと肩を落とす渡に、ポンポンと肩を叩いた。
「それで、この物件買いたいんやけど」
「それは構いませんが、今から行きますか?」
「いや、行かんで良いで。というか、行ったら確実に渡さん死ぬで」
私やアンナは加護もあるし私の神聖魔法でどうとでもなるが、同行者の渡は多分耐えられずに命を落とすか廃人になるレベルだ。
「敷地面積も結構でかいし、廃病院になったのもつい最近のようやから建物自体は使えるかもしれん。耐震に問題なければ内装だけで良さそうやな。近くに温泉もあるみたいやし、源泉を引き込めば施設内で温泉使いたい放題や。親方に現地の職人さん紹介して貰うか……」
「そうですね。その辺りは、今のビルの内装が終わってから依頼してみてはどうですか? 特に急ぐ必要もありませんし」
「それで金額なんやけど……って、渡さん大丈夫か?」
唖然としている渡の目の前を手でフラフラして見せるが反応がない。
「渡さーん、大丈夫か?」
「……ハッ!! 済みません。意識が飛んでました」
素直で宜しい。生気が戻った目をしている。商談中に意識を飛ばすのは止めて欲しいものだ。
「それで予算なんやけど、流石に1億はぼったくりやで。曰く付きでガチでヤバイ物件なんやから、精々出せて2000万やな。築年数も23年やし。古くはないけど、新しくもないしな。後、相手さんこの物件早々に手放したいんとちゃう? 色々不幸続きやろう」
場所的には田舎も田舎だから交通の便も悪い。
車がないと移動出来ないので、娯楽施設も少ない。
だが、車があればディゼニーにも東京にも行けるので立地としては悪くないと思う。
駅から徒歩30分なら車で10分くらいの場所だ。
「しかし、2000万円だと幾ら何でも暴利ですよ」
「いや、別に他にも候補あるし買わんでもええねんで。ただ、この物件扱っているなら早いところ売るか手を引いた方がええで。今は好調かもしれんけど、要らん厄災被ると思うわ」
前回、4割近く値引きして貰っているから忠告だけはしておいた。
渡の顔がドンドン青ざめている。
別に脅しているわけではないのだが、この建物を売り出した人に降りかかっている災いが相当なんだと思わせた。
「少しお待ちを。電話で交渉してみます」
携帯を片手に奥に引っ込み、2杯目のお茶を飲み干してお手洗いから戻ってきた頃に、渡も席に戻ってきた。
「先方に相談しましたが、やはり2000万円は無理との事です」
「ふぅ~ん、それなら仕方ないな。別の物件探すわ」
あっさり引き下がった私に、渡が神妙な顔で言った。
「あ、あの……ここだけの話なんですが、売却人が自分と身内に起こる怪異現象を何とかしてくれたら言い値で売ると仰っているんです」
「話にならんわ。そういう輩は、解消された瞬間に話を覆す。それに、その怪異現象の根本は売却人の業やからな。売れば多少マシになるやろうけど、血脈に付き纏うで。それくらい恨みつらみが籠っとるもん。新薬投与と言いつつ、人体実験してるでそいつ」
コピー用紙から怨嗟の声が凄いもの。
普通なら気分が悪くなるレベルなんだが、平然とこの物件を扱っている渡はある意味鈍感なのか凄い人物なのかどちらかだと思う。
「……もう一度、交渉してみます」
今度は目の前で電話を掛けていた。交渉の結果、何故か私が電話に出なければならなくなった。解せぬ。
「もしもし、山田です」
「あんたが、山田さんか!! 買う前に何とかしてくれ」
後ろで聞こえる死ね死ねのハーモニー。音割れしてて聞き取り辛い。
「いや、無理っすわ。だって、貴方の自業自得ですもん。2000万円で売ってくれた後なら、今の状態から大分マシになると思いますけど。怨嗟の声が凄いですね。相当な恨み買ってますよ? 貴方が死んだら、子供さん、その次は孫、後親類にも害が及びますよ」
「そんなのは脅しだ!!」
「じゃあ、TVとかにも出ている有名霊能力者に浄霊を頼めば良いんじゃないですか?」
「ぐっ……」
多分頼んだ後なんだろうね。グゥの根も出なかったのか無言になった。
「別にお宅の物件じゃなくても、こっちは良いんで」
と言って渡に携帯を返した。
「今後、●×不動産ではお宅の物件は取り扱わないので他の不動産会社にお願いして下さい」
と畳みかけている。
ナイスだ渡! GJをあげたい。
そりゃあ、自分に災いが降りかかるのは嫌だもんな。
その言葉が決定打になり、2500万円で土地付きで曰く付き廃屋病院を手に入れる事に成功した。
その後は、勿論留美生に浄化してもらうに決まっているではないか。
こうして、第三の拠点となる工場兼保養所を格安でゲット出来たのだった。




