76.神託がありました
新幹線で名古屋に向かっている途中で、神託1を30まで上げた。
勝手にスキルポイント使ったけど、これもあのビルを購入するために必要な事だと事後承諾させよう。
名古屋で電車を乗り換えて伊勢神宮に着いたのは、15時を回った頃だった。
外宮を回り、内宮を回る頃には逢魔が時と云われる時間帯だった。
皇大神宮に着いた瞬間、目の前が真っ白になった。
どこもかしこも白い。
サイエスに行くことになった諸悪の根源と似た空間だが、白い空間はとても暖かい。
嫌な感じはしなかった。
「わたくしの声は聞こえますか?」
神々しいまでの光の玉から、鈴の音を転がしたような声が聞こえてきた。
「は、はい」
思わず背筋がピンッとなる。
「そなたの事は見ておりました。最近、我が子らが消える現象が多発しておったのです。原因が掴めず、そなたのお陰で原因が掴めました」
あの糞神、相当の人数を召喚していたのか!
ニュースになってないだけで、相当やらかしたんだな。
私が口を利くのはかなり不敬かもしれないが、
「発言をお許し頂けますか?」
と聞いてみた。
「許しましょう」
「ありがとう御座います。須佐之男命様、櫛稲田姫命様の加護をありがとう御座います。私契約した者にも同様の加護をお与え下さったこと平に感謝致します」
「わたくしの加護はあまりにも大きいのでな。そなたが祀っていた者の加護を与えるようにしたのだ」
「日を改めて須佐之男命様、櫛稲田姫命様に直接お礼を申し上げに参ります」
「そうするがよい」
神棚ではお礼を言ったが、八坂神社まで足を運んでお礼を言ってないので、これは早急に行かなくてはならないな。
「はい、早急に伺わせて頂きます。後、諸悪の根源をこの手で葬りたいと考えております。ただ、この世界とサイエスの世界での生活基盤を整える必要が御座います。そこで、元は姫嶋神社の分社が祀られていた跡地のビルを購入することをお許し頂きたい。阿迦留姫命様とその神使である蛇様も、ビルの屋上に丁重にお祀り致します」
「……人の営みには疎いが、それが必要というのであれば是。許す。阿迦留姫命には、わたくしから良くするようにと申しつけておこう」
「ありがとう御座います」
許可が得れてホッとする。
「ただ、阿迦留姫命の神使も急に住処を壊されたのじゃ。怒りは収まらぬやもしれぬ」
「お怒りはごもっともです。その怒りは、私だけに向けて頂けませんでしょうか?」
「そなたにか? 何も関係ないのに何故だ?」
「壊された社の上に建つビルに居を構える家長として、私だけに怒りの矛先を向けて頂ければ、これ以上神使様を悪しく言うものは現れません」
自ら評判を落としては元もこうもない。
サイエスに誤召喚された事で、色々と思う事もあった。
神の使いが蛇であることも、親近感があるのだ。
家族に蛇がおるしね。
この先結婚することもないし、子孫を残すこともないだろう。
「恨みを肩代わりするその心意気や良し。あい、分かった。その願い聞き届けようぞ。蛇の恨みは粘質ぞ。大丈夫か?」
「大丈夫ですとは言えませんが、話し合いが出来るのであればお酒を飲みかわせるまで改善できるよう努めたいと存じます」
私の言葉に、天照大御神はクスクスと鈴の音が鳴るような声で笑う。
「ほんに面白い。やってみるがよい。心を通わせられれば、それは何れそなたの力になろうぞ」
「精進します」
「いかんな。これ以上留めるとそなたに影響が出る。そなたの決意しかと受け止めた。これを渡そう。それを祀るがよい。旨い酒と共にな」
手のひらサイズの翡翠の勾玉がポトリと手の中に落ちてきた。
その瞬間、グラッと意識が飛びかけて慌てて踏ん張ると皇大神宮があった。
「…レ……ン……レン様、大丈夫ですか? いきなりボーッとなされたので心配しました」
ハッと手の中を見ると、拳よりも一回り小さい翡翠の勾玉があった。
あそこは神域で、神託の力で呼ばれたのか。
「大丈夫。神託が下りただけだから」
「それは、アマテラス様のことですか?」
「天照大御神様だよ。ビルの事も許可を貰ったからね。後は、購入して豪華なお社をビルの屋上に建てる。それと同時に、みんなで八坂神社へ行って加護のお礼をしにいかないとね」
やる事はいっぱいだと笑えば、
「色々非常識な人だと思いましたけど、神託を貰える人がレン様だとなんか納得してしまいました」
とちょっと失礼な事を言われた。
拡張空間ホームに勾玉を仕舞い、皇大神宮に一礼してその場を後にした。
自宅に戻ると、買い物から戻った留美生がゲッソリとした顔をしていた。
アンナの時も一通り揃えるのに結構な金額を使ったから、2人分となると時間もお金も要しただろう。
「お疲れ気味やね」
「ワウルは店員さんに丸投げで良かったんやけど、イザベラがなぁ……」
「何かあったん?」
「ごっつうセンスが悪いねん。色んな意味で残念過ぎて、軌道修正しようにも、ガンとしてこれが良いって聞かんくて。趣味悪い服や痛パソコン、痛スマホになった」
と見せられた(イザベラにとっての)戦利品を見せられ、ウッと言葉に詰まった。
ハーフタレント並みに可愛いのに、アニオタ系の趣味で固められていた。
「室内なら良いんちゃう? 外出用は別に買うか、あんたが作れ」
「そうする」
ゲッソリとした顔で私の提案に、即答する辺り相当懲りたんだなと思った。
留美生と話していたら、丁度スマートフォンに着信が入った。
電話に出ると、今日会った不動産の人からだった。
「はい、山田です」
『●×不動産の渡です。例のビルの件なんですが、3000万円でOKが出ました』
「じゃあ、明日伺いますので書類の用意お願いします。現金用意しておきます」
『分かりました。でも、本当に良いんですか?』
「大丈夫です。宜しくお願いしますね」
『分かりました。では、明日宜しくお願いします』
「はい」
ピッと電話を終えると、留美生が何の電話かと聞いてきたので、曰く付きのビルを購入したと言ったら罵られた。
「馬鹿ちゃうん! 何でそんなん買うん」
「安いし、立地も良いし、交通の便も良かったから。それに、伊勢まで行って天照大御神様から勾玉貰ったから何とかなるやろう」
拡張空間ホームから取り出して翡翠の勾玉を見せると、留美生の態度が一変した。
「何これ、むっちゃ神々しいんやけど」
「そりゃ、神様から直接貰ったもんやからな。八坂神社に皆で行って貰った加護のお礼して、姫嶋神社に行って非礼と神社再建の報告をしに行くから、明日から忙しくなんで」
「神社の再建ってどこにすんの?」
「ビルの屋上。挨拶が済んだら宮大工に依頼や。それまでは、簡易のお社を最上階に設置してお祀りするから。あんた、神官のスキルあるやろう。スキルポイント振るからレベル上げて神主さんの代わりが出来るようにしときや」
「何ちゅう無茶ぶり!!」
「何のためにスキルがあると思うねん。使えるもんは使え。本住まいに移る際は、ちゃんと姫嶋神社から神主さん呼んで移すから安心し」
「全然安心出来ひんわぁー!」
と絶叫されたが無視した。
それから何やかんやあって、無事に社も建ちビルへお引越しする事になった。




