73.闇市オークション
闇市が開催されるマーキュリーホテルに来たぜ!
貴族御用達のお店だけあって、従業員の身なりはしっかりしている。
私たちが入ってきた瞬間、ざわついた。
スキルに鑑定があれば、服の性能が一発で分かる。
この闇市に合わせて作らせた和柄バッグの中に契約カルテットが入っている。
楽白だけは、ハーフアップにされた髪に隠れている。
着物風スーツドレスの性能だけで言えば、物防+10000・魔防+10000・cleaning付与・温度調整付与という代物だ。
汚れも付かないし、快適な温度が保たれ、且つ斬新で動きやすい服装だ。
私の初撃を受けても耐えられる防御特化の服である。
貯めこんでいた素材を大盤振る舞いしたぜ。
留美生のやつ、ここぞとばかりに高価な素材ばかり持っていくのは止めて欲しかった。
まあ、その甲斐もあって着物風スーツドレスが仕上がった。
契約カルテットも製作を手伝ったらしいので、留美生には内緒でお菓子を上げた。
蛇ちゃんズは、酒を所望してきたが臭いでばれるから却下したよ。
ワウルは執事設定にして、私たちは優雅に遅めの夕食を楽しんだ。
味は、アンナが紹介したところの方がまだ美味しかった。
日本で鍛えられた舌の前では、正直サイエスで作られた旨い料理も不味いか、食べられはなくないけど不味いか、味気ないが普通のどれかである。
私の溜め込んでいたアニキャラのキャラクターグッズの一つに懐中時計がある。
一番グジのラストワン賞やゲームセンターの景品だったりと様々である。
その懐中時計に電池を入れてサイエスの時間に合わせて、それぞれ持たせている。
キャラクターをモチーフにした絵が描かれているので、普段使いには丁度良い。
ゴツイ腕時計は、今日は拡張空間ホームに収納済である。
チャリッと懐中時計をポケットから出して時間を確認する。
利き手とは違う手ですることで魅力的に見えるらしいという俗説に基づいて実行してみた。
時間も開始時間から後10分を切っている。
移動するには丁度良い時間だろう。
呼び鈴を鳴らしボーイを呼び、何も言わずにスッと闇市の招待状を見せた。
ボーイはニコリと笑みを浮かべ、どうぞと案内をしてくれた。
ふむ、アンナの言われた通りにして良かったようだ。
アンナの生い立ちとか聞いてなかったけど、仕草などに気品があるのでそれなりのお嬢様と思う。
立ち入っていい話ではないし、特別聞く必要もない。
本人が話したくなった時、もしくは話さなくてはならない事態になった時に、聞ければ良いかな。
ワウルの生い立ちは別にいい。もう既に聞いた後だし、厄介事になった時は物理で排除すれば良いことだしね。
懐中時計をポケットにしまい、留美生とワウルには口を開くなと厳命した。
アンナには闇市が始まったら、私は鑑定に集中するので根切り・交渉は全て任せるとお願いしておいた。
留美生が欲しがったハイエルフの奴隷以外で良いのがあったら買う予定である。
各ギルドに貯めていたお金をを一旦全部引き出して持ってきたから、多分買えると思う。
それ以上の金額なら諦めろと留美生には釘をさしておいた。
地下へ入る前に渡された目元を覆う仮面を装着して、いざ出陣と開催される地下へと降りた。
オークション形式で競りに出された商品の番号に対し、提示金額を言っていく。
金貨50枚以上から始まり、後は最高額が出るまで競りが続く。
確かに物珍しいものがあったが、別段欲しいものはなく、私の出品したローブは白金貨10,000枚の値段が付けられた。
ローブを説明する時の司会の興奮が、異様なテンションでキモかった。
留美生が所望したハイエルフ(女)は、白金貨3000枚にまで競り上がった。
私は、留美生に諦めろと言ったら泣かれた。
正直言って、あのハイエルフ良いところが容姿以外にないんだよね。
魔力もちょっと人より多いくらいだし、こうも突出したところがないと、私たちのメンバーの中で一番スペックが低すぎる。
ハイエルフの次に出てきた奴隷に目が釘付けになった。
種族はハーフエルフだが、膨大な魔力を宿している。
ただ、見た目が人の印象に残らない顔をしている。
しかし、それがスキルの変装のなせる技だと見えている。
「金貨50枚」
カンと木槌を鳴らす司会者に、
「白金貨1枚」
と答えた。誰も買いたがらないのは目に見えていたが、体面もあるので白金貨1枚を出すことにした。
金貨60枚でも良かったんだけどね。それだと体裁が悪いからとアンナに前もって言われていたので、更に倍の額を出せば文句はないだろう。
「他にはありませんか?」
司会者の言葉にシーンとする場内。
「13番のお客様、こちらへ」
ステージの上に立ち、ハーフエルフの女の子と対面した。
奴隷譲渡の魔法をするらしい。
ダラダラと長い制約文章を読み上げ、Transferと言われた瞬間、私の小指とハーフエルフの女の子の首に幾何学模様の印が浮かび上がった。
私の場合はピンキーリングに見えなくもないが、ハーフエルフの子は完全に首輪である。
「主の意志に背いたり、逃亡しようとしたりする場合に、Shurと唱えれば首の紋章が締まります。また、一定の距離を離れた場合も同じです」
何ちゅう物騒なもんを掛けやがったんだ!!
「締まるのは、奴隷だけかしら?」
「はい」
私の指は締まらないのか。
ちょっと安心した。
「お支払いは、裏でお願いします」
「連れも一緒に良いかしら?」
「構いません」
アンナ達を呼びに戻り、お支払い場に通されて白金貨1枚を渡してハーフエルフの女の子を買った。
私が出品したローブは、手数料を抜いて白金貨9000枚を渡された。
鑑定でお金を抜いてないか確認して受け取ったら驚かれた。
「確認はされないのですか?」
「鑑定すれば枚数ぐらい分かるわ。きちんと白金貨9000枚と鑑定に出たから問題ないわ」
もし、偽貨幣だったりしたら困るので看破持ちの楽白にも鑑定を頼んでおいた。
楽白が髪を1回引っ張ったので問題なしの合図だ。因みに少なかったら2回、偽貨幣は3回、少ない上に偽貨幣だった場合は4回と前もって決めていた。
鞄を通じて拡張空間ホームに白金貨を収納する。
今日はもう遅いし、一旦宿に戻って自宅へ帰る!
そしてビールが飲みたいのだ!!
私たちは、裏口からホテルを出て隠密を発動させて宿へと走って帰った。
因みに、レベルの低いワウルは留美生が俵担ぎし、ハーフエルフの女の子は姫抱っこで私が担いで移動した。
『おっさんなんて担ぎたくないでござる。約束と違うやん』と、最後までブチブチ文句言っていたが、宿に付いて奴隷とおっさんも同じ部屋で宿を取る旨伝えたら、大部屋を一つ貸し切りにして貰った。1泊金貨3枚とは懐に痛いね!
取敢えず2泊でと頼み、私たちは自宅へと戻ったのだった。




