69.サイエスの飯は不味かった
商談が終わった後に、留美生が私に向かってお前らは鬼やと叫んでいた。
生産系なのにと嘆く妹よ、お前の行動を顧みろ。
一体どこを指して生産系だ。物理特化で出会うモンスターをボコボコにしているじゃないか。
自称生産系は放っておいて良しと判断し、ご飯を食べに行く事になった。
商談した後は、お腹が減るんだよね。頭を使っているからか?
「人気のお店とかでご飯食いたい。王都なんやからきっと美味しい物があるはずや!」
食べないとやってられないとばかりの留美生の言動に、アンナはそのリクエストでさえ意図も簡単にこなしてしまう。
「王都で人気のお店ですね。それでしたらカンテサンスは如何でしょう? 王都でも屈指の人気のお店になります。」
「アンナは食べたことあるん?」
「いえ、私はありません。私は王都ではククルの食堂を利用してますので、安くて美味しいお店ですよ。」
「アンナさんが美味しいって言ったお勧めのお店でご飯食べたいわぁ。」
彼女が美味しいというなら外れはないと思う。
最近、日本のご飯に慣れているから異世界料理を食べてその差を実感してくれれば、新しい商材のアイデアを出してくれるだろう。
最悪、味が微妙でも手持ちの調味料で味を変えることはできるだろうし。
セブールの宿の飯は不味かったからなぁ。出来れば、値段と同じくらいの美味しいものが出たら良いな。
「そやね、早速そこに行こか!」
そんな邪な事を考えながらアンナさんを急かして、お勧めのお店に行った。
レトロな雰囲気の中に上品さを醸し出すククル食堂!
老舗だけあって個室も用意しているとは、食堂の範囲超えてないか?
私は、迷わず個室を頼んだ。
料金は少し割高になるが、今後の事も話し合いもあるから人目も気にしなくて良いなら安い出費である。
後ろを歩く留美生の顔が曇っている。大方、ドワーフの洞窟を更にお預けにされるのではないかと危惧しているのだろう。
まあ、大方外れではないけどな!
アンナが適当に注文した後、留美生がテーブルにペットボトルのお茶を出した。
最近、お茶の飲み比べに嵌っているらしい。
三本はお茶、一本はミネラルウォーターである。
「お茶好きなん選んで良えで」
<契約カルテットはこっちな>
契約カルテットは問答無用でお皿にミネラルウォーターを注がれている。
私は可哀そうだとは思ったが、口を挟むと嫌がらせ飯になるので突っ込まないでおく。
<ふわぁ~やっと一息吐けるわぁ>
<せやせや、アンナと花令がタッグ組んだら怖いわぁ。あのおっさん涙目やで!>
<どこぞの追い剥ぎみたいでしたのぉ~>
「キシュッシャー」
契約カルテットよ、お前ら何気に酷い事を言うな。
最近、その毒舌に慣れた気がするわ。
四匹揃うと姦しさが増す。楽白だけは、未だに念話が通じないので進化しないと念話が使えないのかもしれない。
可愛いけど、テーブルの上で変なダンスは止めてくれ。
気が抜けるから(切実に!)。
<あんた等の飯は無いで。>
留美生の指摘に四匹はガーンッ肩を落とした。そんな絶望したような顔をしなくても良いんじゃね?
サクラと楽白に至っては、涙をボロボロと流している。
そんなに楽しみにしていたんか!!
逆に紅白と赤白は、果敢にも留美生に食ってかかっていた。
<そんな酷いわぁ! 鬼やで!!>
<せや! 折角お店に来たんやから何か食べさせてーな!>
ギャンギャンと猛抗議している。念話なのに、五月蠅い。念話切ろうかなぁと思ったが、勝手に切って留美生と契約カルテットの間で変な約束とかさせられたら困るので我慢だ。
<嫌や。あれだけ食い散らかしたんや。マウス食えるだけマシやと思え!>
今、留美生の考えている事が手に取るように分かるよ。
エコを目指して食事抜いたろか?と考えているだろう。
そこにアンナさんが、留美生に提案した。
「まぁまぁ、留美生様。王都に来たんですし、後に彼等にも沢山頑張って働いて貰う事になるのですから食事ぐらい大目にみましょう」
契約カルテットに助け船を出した。
多分、彼女的に契約カルテットに恩をうれば何かメリットがあるんだろうな。
アンナを挟んで留美生が睨んでくるが、私はソッと目を反らした。
留美生は、渋々アンナの言葉に従った。
突っ込んで聞いたらいけないと警報が鳴ったらしい。
その直感は強ち外れていないと思うぞ、妹よ。
「しゃーない、アンナさんが言うなら今日だけ飯食わしたる。明日からは乾パンとマウスやからな!!」
許したが、やっぱり留美生。
釘を刺すのは忘れない。
丁度良い所で食事が配膳されたので、取り皿に四匹分の料理を乗せ、皆の席に料理が行きわたったので頂きますをする。
「「「頂きます」」」
「キシャッシャー♪」
<<<頂きます(ですの~)>>>
食事の挨拶を合図に契約カルテットがガツガツと食事を開始した。
そんなに嫌だったんだね。マウスと乾パン生活。
私も分かるわ。
嫌がらせ飯が続いた日には、食欲が急激に落ちるもの。
「ん、特別美味しいってわけじゃないけどセブールの食堂よりは美味いな。でも味が薄いから調味料掛けるわ」
不味いとは言わないが、手放しで称賛出来るほどの旨さではない。
それは留美生も思ったみたいで、拡張空間ホームから調味料一式を出している。
各々好き勝手に調味料を足して食べている。
「この調味料一つで味がこんなに変わるなんて素敵ですわ! 絶対に商品化すれば売れますよ!」
いつもの平常運転なアンナに、留美生がドン引きしているよ。
商根逞しいのは平常運転というか、通常搭載されているんだけど、いい加減慣れろ。
「あぁーアンナ、それな留美生のお手製やねん。量産するんはちょっと難しいと思うんや?」
流石に調味料まで手を出すとキリがないのでストップを掛けてみたら、正論で反撃された。
「調理レシピを売れば良いんですよ。他にも留美生様が作ってくれた料理のレシピもお金になりますよ!」
うふふ、と綺麗に笑うアンナさんにヒィッと小さな悲鳴を上げる留美生を見て、私は小さな溜息を1つ吐いた。
言い出したら聞かないアンナを相手に立ち向かう勇気はない。
アンナがお金になると断言するなら、それに乗っかるのは悪くない。むしろ商機だ!
「いやぁ、それは無理があるんとちゃう? うちの手料理なんて底が知れてるって!」
「いえいえ、本当に美味しいですよ。此方は調味料も少ないですし、料理のレパートリーも多くありません。留美生様は小物をお作りになられますから、お皿など作って実演販売なども良いと思いますよ。ねぇ、レン様?」
「せやな。留美生、皿とか作り! その為にディゼニーランドとシーへ行ったんや! これは命令やで!!」
伝家の宝刀、姉が出来る『命令』である。
長子に生まれて良かったわ~。
双子で長子も糞もないが、何かにつけて長女だからと親戚・知人の冠婚葬祭に実費で無理矢理出席させられたのが懐かしいわ。
「そうですね、お皿とか実用品も作って頂けたらドワーフの洞窟での素材を多めに留美生様にお譲りするという条件はどうでしょう?」
留美生は、アンナの提案にうぬぬと考えいる。
現在、留美生は素材制限掛けているからね。
更に追い打ちをかけるアンナ。
「今、ストップしている素材を解放するのはどうでしょう、レン様? きっと良いアイディアの商品サンプルが出来ますよ?」
自由になる素材を与えれば好き勝手に色々作れるよ~とそそのかしてみれば、あっさりと陥落した。
ついでにリクエストもしておこう
「新作のサンプルかぁ、それなら素材使っても良えわ。うちポーチが欲しいねん。化粧ポーチな! アンナは何が欲しい?」
「私も化粧ポーチが欲しいですね。あ、それとレン様の腰に着けてる鞄も欲しいです。色々と便利そうですし!」
「やって、素材通常通り使っても良えから作ってな」
「宜しくお願いしますね。」
「それ、うちの負担大きない?」
「「ん?」」
ボソっと文句言っている留美生に、ニッコリとえみを浮かべたら沈黙した。
食堂を出た頃には、次の商品についてアンナと話し合っていて、留美生
1人が置いてきぼりになっていた。




