57.Aランクパーティに粘着質されました
12時少し前になんとか冒険者ギルドのホールに到着した。
本当にギリギリだ。留美生、もっと早く言ってくれよ。
「それで、そのAランクのパーティーの名前は?」
「忘れたww」
草生やすなボケ! 名前は憶えてなくても、顔くらい覚えているだろうと思って聞いたが忘れたと返された。
「お前興味のない事は直ぐ忘れるもんな。うん、分かってたけどさ。これは無くね? 代金回収出来なかったら化粧品セットのボトル10万個製作な」
「ギェェ、殺生な! 嫌や、そんなしたら私の遊ぶ時間がなくなるやん」
「馬車馬のように働け」
嫌や嫌やと駄々をこねる留美生を白い目で見ていたら、見知らぬおっさんと数人の女に声を掛けられた。
「ルミナ! 来てくれたんだな」
「留美生はこれ。私は姉のレンです」
駄々っ子になっている留美生の背中をゲシッと蹴りを入れ挨拶をすると、目を丸くされた。
「見分けがつかないくらい似ているわね」
そりゃ一卵性双生児だもの。実親ですら間違うくらいだもの、似ていて当たり前。
「早速だが、昨日ルミナにも言ったんだが……」
いきなり話を始めるとは、何なんだこいつ。
かなり嫌なんですけど。
顔を顰めるが、相手は全然気付いていない。
私の様子が険悪なのに気付いたおっさんパーティーの1人が、捲し立てているおっさんを止めた。
「ガルガ、レンが引いているわよ」
いや、お前に呼び捨てされたくねーわ。
「私は、チームバルドの魔導士リリアナよ。この男は、バルドのギルマスのガルガ。ジョブは戦士ね」
ふーん、と白い目で見ていたら焦ったのかベラベラと昨日の事を話し始める。
聞き耳を立てていた周りがざわつき始めた。
うわっ、本当こういうタイプ嫌いなんだけど。
場所をわきまえて喋ってくれよ。
「あの、場所を変えませんか? 昼食しながらお話を伺うことになったと留美生から聞いてますので」
営業スマイルでさっさと出るぞと連中を冒険者ギルドの外へと追い出した。
チームバルドの構成は、魔導士リリアナ・戦士バルド・剣士フィーア・聖魔導士のテレサの四人だ。
壁役はバルドが兼任しているらしい。だから盾と片手剣なのか。
パーティー構成としては、後衛に偏りがあるのでアタッカーが後1人居れば安定したパーティーになるだろう。
留美生に目を付けたのは当たりだが、パーティーに引き込むことは出来ない。
何といっても私に契約されているからね。
契約を解除すれば、サイエスに来ることすら出来なくなる。
リリアナお勧めのレストランに入り、私は即座に個室を頼んだ。
「個室だなんて、高いじゃない。普通の場所でも良いよ」
「いえ、個人的な商談なら他の方の目がない方が良いです。食事・個室の代金は私が持ちますのでお気になさらず」
ただでさえチートアイテムを見られているのだ。これ以上、他の連中に聞かれたくもない。
「いや、奢って貰うのは気が引ける」
「では、食事代のみお支払いお願いします」
そう言うと、何か期待を裏切られたような目で見られた。
いや、自分から言ったんだから払えよ。
個室に通され、部屋がギュウギュウになった。通された個室自体大きくないからかもしれない。
取敢えずランチセットを人数分+契約カルテットの分を頼み、配膳されたところで商談スタートを切った。
「ルミナから聞いていると思うが、斧を買い取りたい」
「その前に、昨晩のポーチや化粧品、アクセサリーの代金をお支払いお願いします。支払われる前に留美生は酔い潰れたと伺ってます。まずは、お支払いをお願いします」
留美生に聞いた内容を書き起こし、請求書を渡した。
「総額金貨98枚ってボッタクリだろう!!」
「内訳書かれていますよね? お読みになりました? 化粧品1セットで金貨14枚、それを3セット購入されています。後、様々なアクセサリーや装備も購入されてます。本来なら売出す予定などなかったのをこの馬鹿が勝手に売ったので、素材代と手間賃だけ請求させて頂きました。正規の値段で良ければ、もっと高くなりますよ? アンナさん、これらを見てどう思われますか?」
「そうですね。もっと高くても宜しいかと思います。特に留美生様の作品は、デザイン性も良く付与魔法も掛けられているので倍の値段になるでしょう。それに、エリーゼ様が認められた方ですわ。1点もので希少性も高いとなると破格ですわね」
「エリーゼ様って、あのファレル領主の正妻様じゃないか!」
領主の正妻が、フラフラと街を歩くなんて危機感が足りなくないんじゃないの?
持病の片頭痛が起きて痛いわぁ。
騒ぐな、魔導士女。お前のキンキン声が五月蠅くて仕方がない。
「だそうですよ。どうします? 正規の値段で買いますか?」
畳みかけるように言うと、首を横に振り金貨98枚を支払ってくれた。毎度あり。
「それで、本題なんだが」
「ああ、武器は売りませんよ。留美生も貴方のパーティーに入れることは出来ませんし、私も加わることはしません」
本題を言われる前に先制口撃をした。
先に釘を刺されるとは思わなかったようで、おっさんは言葉に詰まっている。
「あれだけの性能なんです! そこを何とか譲って頂けませんか?」
「届けて下さったのは感謝しますが、無理です。武器を売るつもりはありません。大体、あれは私が契約した者たちの武器なので売るつもりはないんです」
契約カルテットが、勝手に作って蛇ちゃんズが投擲したものなんだけどね。
いわゆる使い捨て武器です。それでもチート過ぎるのは間違いないので、今後は要回収が必要になる。
投擲するなら回収用にピアノ線でも括りつけておこうかな。
「蛇やスライムが使いこなせるわけないだろう!」
「いや、使いこなしてますよ。使いこなさなくても売りませんし。私は商人ですけど、武器商人ではないんです。万が一、作った武器で人を傷つけるなんて想像しただけでも吐き気がします。だからお引き取り下さい」
お帰りはあちらですよ、と個室の入口を指すとグッと言葉に詰まって大人しくなった。
しかし、席は立とうとしない。
ウザイなぁ。
面倒になったので、席を立とうとしたらリリアナが口を開いた。
「武器は売らなくても良いから、私らのギルドに入らない? ルミナが1人でゴブリンの集落を壊滅させるくらい強いなら、お姉さんの貴女も相当な手練れでしょう。うちらのパーティー、アタッカーが少ないから入ってくれると助かる」
図々しい女だな。本当に迷惑! 大体、何でよく知りもしない私を前衛のアタッカーとして認識しているわけ? 意味が分からない。それに、勝手にメンバーに組み込もうとしているのがもっと分からない。馬鹿に付き合った時間を返して欲しいわ。
特大の溜息を吐いた私の肩を留美生が、トントンと叩いて言った。
「心の声全部駄々洩れだから」
「良いんじゃない? 別に隠す気ないし。本音を聞けて良かったでしょう。と言う訳で、お断ります。これから別の用事がありますので、失礼します。留美生、アンナさん行きましょう」
契約カルテットをさっさと回収して、唖然としているチームバルドを放置し自分たちの分だけ支払って宿に戻ってきた。
宛がわれた部屋に入り、内鍵を施錠したのち、自宅を出す。
突如現れた宙に浮くドアに唖然とするアンナさんの手を掴み、私たちは地球への帰還をしたのだった。




