56.人間をティムしました
朝帰りの留美生と契約カルテットを捕まえて、風魔法で防音結界を張って〆上げた。
「やめっ、止めて……。気持ち悪い。吐きそう……」
「吐くならビニール袋の中で吐け。さて、昨日は酒盛り楽しかったでしょう。私は、すっごく硬いベッドで寝てたんだけど。言い訳があるなら聞いてあげる」
ギリギリと胸倉を掴んで上に持ち上げる。留美生も成人女性。体重は48kgと重いはずなのに、こうして片手で持ち上げることが出来るほど私は強くなったらしい。
「ギブギブっ!! しし死ぬ。死ぬ」
「死ね」
「ごめんなさい。済みません!! もう勝手に物を売り払ったりしません!」
絶叫するように謝る留美生に、フンッと鼻を鳴らし解放した。
ドサッと床に落ちゲホゲホ言っているが知らね。
「で、昨日の念話について説明して貰いたいんやけど」
「あー……、実は王都から来たAランカーの人らに絡まれてん。いや、ほんまやで! 契約カルテットが作った肉球斧を売って欲しいって言われてお前の許可が要るって断ったんやけど、しつこくて」
「それで、今日の昼に商談することに至ったと」
「はい」
「その斧見せてみ?」
留美生は、拡張空間ホームから可愛らしい肉球の斧を出して私に渡した。
鑑定してみると性能がヤバかった。
以下が、鑑定結果である。
爺婆でも使える肉球の斧:攻撃力+25000/会心率+50%/麻痺・毒付与
「何このふざけたチートアイテムは」
「ですよね~。いやぁ、私が製作している時に契約カルテットが勝手に作っててさ。ほら、ゴブ襲撃の時に武器で蛇ちゃんズコンビが投擲したの。私の火炎瓶と地雷でゴブを全滅させたから、武器も壊れたと思っていたんだけど無傷でした。そのAランクパーティーの人が届けてくれたんだよ」
もう、どこから突っ込んだら良いか分からない。
私と留美生以外は、全員幸運値高いものね。
そんな奴らが集まって作った武器が、チートアイテムになってしまうのは100歩譲って分かったとしても、あのデザインとふざけた名前はないだろう。
私もネーミングセンスがある方じゃないけどさ。
酷くね?
もう、何も言えんよ……。
「ドロップアイテム半分渡す約束はなし。1/5に減らす! 魔石も使わせない」
「それだけは、堪忍してーや! そんなんしたら作りたいもんも作れんくなるやん」
「お前が、契約カルテットの手綱をちゃんと握ってないのが悪い。それとも、化粧品セット(普)(良)(極)の入れ物をそれぞれ1000セットずつ作るか? どっちが良い?」
「……1000セットでお願いします」
「良し。じゃあ、この話はこれでお終い。それで、他には何に話したの?」
「女性陣には、化粧品とかポーチとか売った。パーティリーダーのおっさんに、装備売りつけた」
こいつ、凝りてねぇ。というか、もしかして酔っぱらって売ったとか? 留美生ならありえる。
「代金は貰ったんだよね?」
いくらで売ったかは知らんが、ちゃんと代金回収しているのか確認したら、やべって顔になっていた。
「はい、アウトォォオ! お前、10000セットな!! 嫌なら素材カット&魔石使用禁止だから。契約カルテットは、酒・菓子禁止。私が用意するものしか食べちゃダメ。食べたら地球で居残りさせる」
そう断言したら、ガーンッとショックを受けた顔をしている。
サクラは涙を流しながら高速ブルブルしてるし、楽白は丸まって動かない。
念話でギャーギャー騒ぐ蛇ちゃんズ2匹は放置だ。
「異論は受付へんで! 誰がご主人様か分かってないみたいやから、これを機にしっかり再認識しような」
疑問形な言い回しだが、確定しています。
目を離すと何しでかすか分からない問題児共に、一度ガツンと言わねばならないと心に決めたのだ。
幾ら愛らしかろうが、可愛かろうが、愛しかろうが、今回の暴走の前では無に帰す。鬼となります!
「それでAランクのメンバーと昼食を取りながらの商談だって言ってるけどさ。待ち合わせ場所はどこよ?」
「昼に冒険者ギルドホール前で待ち合わせしてる」
代金の回収もあるし、行かないとダメだろうなぁ。面倒臭い。面倒臭いと言えば、もう一つあった。
「お前が帰って来なかったから言えなかったんやけど、商業ギルドのアンナさん。あんた、覚えとるか?」
「金髪ナイスバディの美人さんやろ? うちと花令を間違えてた人やで。何度も突っ込み入れたから、よう覚えとる」
アンナさーん! 親でも間違えるくらい瓜二つだけどさ。髪型とかで見分けられるでしょう。私は、留美生みたいにショートカットじゃない。
ロングの私とショートの留美生で、一度一緒に会っているのに何で間違えるのかな!!
「……その、アンナさんが商業ギルドに辞表出して私らに付いて行きたい言うてんねん。アンナさんの仕事ぶりは信用してるけど、信頼はしてへん。メリットは、コネクションが多い事と仕事が正確で誠実なところ。デメリットは、私らの事情がバレる事。どうしても一緒に行動するとなると、異世界人だって事は隠しきれん。留美生はどうする?」
「私みたいに契約したら良いんちゃう? 初見やけど、あの人は私らのこと他言せんと思うで? 仮に他言しても誰もそんなぶっ飛んだ話信じへんよ」
と、軽く言われた。ああ、うん……お前は楽天的で良いね。
米神をグリグリ押しながら、アンナについての方針を決めた。留美生が、そこまで言うなら信頼しても良いかもしれない。
あいつは、ああ見えて警戒心が強くて人間不信なところがある。私も人の事言えないけれど。
その留美生が信頼に値すると言うのなら、姉として信じ応えるべきだろう。
「分かった。アンナさんは、魔法で制約を誓って貰うことでパーティーに加える。恐らく、もうこの宿のどこかにいると思うから、ひと先ず会って自宅に来て貰おう」
「りょ」
私は防音魔法を消し、1階の受付でアンナの泊っている部屋を聞いた。
留美生を引きつれてアンナの部屋を訪ねると、待っていましたとばかりの歓待を受けた。
「アンナさん、お早う御座います」
「レン様、ルミナ様、お早う御座います。昨日のお返事でしょうか?」
「はい。ルミナもアンナさんなら良いと返事を貰いました」
「本当ですか!! ありがとう御座います」
パァッと顔が明るくなる。
「ただし、条件があります。宣誓魔法で制約し誓って頂かないとお連れすることは出来ません」
「え……」
「私達の秘密を口外されては困るんです。何故、最上級と言っても良いほどの胡椒などを期日に納品出来るのか。先日売り払った武器の製作者は誰かなど、様々な機密情報があります。私一人で行動するはずでしたが、成り行きで妹も行動を共にしています。制約の内容は『私達に関するあらゆる情報を漏らさない。裏切らない。絶対服従』です。アンナさんの殺生与奪をかけられるなら、パーティーに加えます」
私の言葉に絶句と言った方が良いのだろうか。
唖然としている。殺生与奪まで条件に付け加えられたら、普通なら是と答えないだろう。
本気で私達と共に過ごすなら、それくらいの覚悟は必要である。
少しの沈黙ののちに、彼女の答えが決まったようだ。
「分かりました。その条件で良いです」
「では、宣誓魔法を。天照大御神よ、我、山田花令はアンナを正式に仲間として迎えることを此処に誓います。彼女を迎えるに辺り3つの制約を天照大御神の名の元に制約します。1つ、アンナが山田花令・山田留美生に関するあらゆる情報を漏らさないこと。1つ、いかなる状況であっても私達を裏切らないこと。1つ、アンナの殺生与奪は山田花令が持ち、アンナが天照大御神の意に背いた場合はその命をもってして償うこととする」
私と留美生、アンナを丸ごと飲み込むくらいの大きな魔法陣が床一面に現れる。英語ではなく、漢字とカタカナ、平仮名が入り混じった陣だ。
宣誓したのが日本の神様だから、こうなったのだろうか?
その光は収束し私と留美生には背中に太陽を思わせる跡が残った。
アンナは左胸を押さえていたので、恐らく丁度心臓の辺りに宣誓魔法の証が刻まれたのだと思う。
「これで、アンナさんは私達の仲間になりました! 早速アンナさんを契約します」
「私をですか!?」
普通は驚きますよね! やっぱり、妹の思考は普通じゃなかったのか。
「はい、そうしないと色々都合が悪いんですよ。この後、留美生の尻ぬぐいをしに冒険者ギルドに行く予定なので詳細は後で説明します。殺生与奪を握ってますので、契約を拒否することは出来ませんよ」
アンナに触れると<契約しますか?>の表示が出たので、YESを選択し無事契約が成功しました。
「では、アンナさんのステータスオープン」
これも恒例行事です、というのは嘘です。
念話など必須スキルを取得してもらう必要があるのでステータスを丸裸にしました。
「これは?」
「自分で見るのは初めてですか? ギルドカードよりも、より詳細な情報が確認できる魔法です」
そんな魔法はありません。
異世界人だからなのか、自分のステータスや他人のステータスを勝手に見ることが出来る。
アンナの様子からすると、ステータスは魔法具を使って見るもののようだ。
アンナのステータスは、一言でいうと低かった。しかし、スキルの豊富さや素養はあるようだ。
---------STATUS---------
名前:アンナ
種族:人族[サイエス人]
レベル:3
年齢:22歳
体力:5
魔力:151
筋力:7
防御:8
知能:375
速度:1
幸運:412
■装備:白のシャツ・黒のロングスカート・レッドボアの革靴
■スキル:値切り53・交渉23・魔力操作1・生活魔法5・魔力操作1・風魔法2(中級)・並列思考1
■ギフト
[鑑定10]
■ギフト:拡張空間ホーム共有化
■称号:レンの従魔(制約魔法試行中)
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命
■pt統合
所持金:金貨21枚、銀貨8枚、銅貨13枚、青銅貨9枚
商業ギルド貯金:金貨1180枚・銀貨1枚・銅貨6枚・青銅貨6枚
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「知力が凄いね。アンナさん、頭が良いんや」
アンナのステータスをアホ面を晒しながら眺める留美生に、かなり残念な女だわと思った。
「レベル3で中級の風魔法が使えるなら、風魔法を伸ばした方が良いかもしれんね。このパーティー脳筋ばっかりだし、アンナさんがブレーンになってくれると助かるわ」
並列思考、私も欲しかった。取得出来るだけのポイントはあるが、アンナが持っているなら取得する必要もない。
ちゃんと拡張空間ホームの共有化も出来ているし、加護も付与されている。
加護については、自宅に戻って説明した方が良いだろう。
「取り敢えず念話1を取得してもらうね。私の従魔にも慣れて貰わないといけないし。後、隠密と隠蔽も取得して貰う」
私は、自分のステータスを開いて統合ptから必要なポイントをアンナにスライドし念話1・隠蔽8・隠密8を取得させた。
<これで良し。アンナさん、皆聞こえてる? 軽く自己紹介から始めようか>
<わいは、赤白や! 好物は酒!! 旨いの飲ませてや>
<うちは、紅白や。宜しゅうな! 旨いもんが好きや。マウスは食べ飽きた。違うもん食いたい>
<サクラなの~。甘いのが好きー>
楽白だけは、まだ赤ちゃんなので念話が出来ないので謎の踊りでアンナを歓迎していた。
「アンナです。宜しくお願いします」
ちゃんと念話が通じたみたいで何よりだ。
「アンナさんの歓迎会は後でするとして、花令そろそろ行かんと時間に遅れんで」
留美生に指摘され、時計を見ると11時43分だった。
宿からギルドまで大体15分程度だから、ギリギリ間に合うかといった感じだ。
「うわっ、ほんまや。アンナさん、これから留美生が昨日売ったアクセサリーの代金を貰いに行くんで一緒に来てくれますか?」
「あ、はい分かりました」
「色々戸惑っていると思いますが、商人は時間厳守! 詳細は、この面倒臭い商談が終わってから、時間を掛けて説明します」
赤白ちゃんと紅白ちゃんをショルダーバッグに入れ、サクラと楽白は留美生のフードに入れて宿を後にした。




