3.いきなりボス戦ですか!?
包丁片手に出発とは殺人鬼の様だと思い直し、一旦マジックボックスに包丁をしまった。
取り敢えず、旅人風らしい装いに着替えなおした。女を捨てているという突っ込みは受付ません!
誰も居ないのだから良いのだ。
コスプレの衣装を取っておいて良かったと、この時ばかりは思う。
若干ゴシックロリータ系になってしまったが仕方がない。
35歳でゴスロリ……元の世界で出歩く勇気は無いわぁ。ステータスでも確認しよう。
「ステータスオープン」
---------STATUS---------
名前:未設定(山田花令)
種族:人族/異世界人
レベル:1
年齢:35歳
体力:10
魔力:8
筋力:3
防御:3(+1)
知能:5
速度:2(+1)
運 :300
■装備
薔薇柄刺繍のケープ・フリルワンピース・革のブーツ・合成革のバッグ
■スキル:契約(赤白・紅白)
■ギフト
全言語能力最適化
アイテムボックス
鑑定
経験値倍化
■称号:なし
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命
-------------------------------
……なんか項目が増えている。町に付いたら一般的な服に変更しよう。
しかし、何故名前の欄が『未設定』になっているのだろう。弄れるということか?
名前のところをタップすると見慣れたキーボードが現れた。レンと打ち込むと名前がレンに設定された。
さて、一面見渡す限りの草原に人一人居ない。町に行くには、どの方角へ向かえば良いのか皆目見当もつかない。
世界のあらゆる言語を取得しているなら、その辺の動物の言葉が分かるのではないだろうか?
ものは試しとばかりに、木に居た見た目がリスっぽい奴に声を掛けた。
「ねぇ、君美味しい木の実を上げるから町がある場所を教えてくれない?」
『美味しい木の実? 本当にくれるの?』
木の実に食いついたリスもどきは、木から降りて私の三歩前で止まり体を上下に動かしている。
もふりたい欲求に一瞬かられたが我慢我慢と邪念を払い、非常食用に購入していたミックスナッツの封を切り、リスもどきの目の前に置いてみた。
小さな手でそれを掴み恐る恐る口に運ぶ姿が萌えた! 一口二口と食べるにつれ食べる速度が速くなっている。
異世界でもミックスナッツは美味しいらしい。塩分過多にならないかなぁ、と余計な心配もしてみる。
『美味しい。もっと頂戴!』
「町の場所を教えてくれたら上げる」
『この草原を南に進むと道に出るから、その道を辿れば町に着くよ』
「そう、ありがとう」
私は持っていたミックスナッツの袋を逆さにし、リスもどきの体の1/3くらいのナッツの山を作り、示された方角を歩き出した。
暫く歩いていたが、いくら歩いても道が見えない。
一時間くらい歩いたくらいで足が痛くなったので音を上げた。
「だぁぁあっ! いくら歩いても道が見つからないなんて。どれだけ歩けば良いのよっ。歩きたくないでござる」
早々に異世界ライフが挫折しそうだ。楽して移動できる手段はないだろうか?
そんな事を考えていた私に名案が浮かんだ。
「原付を使えば良いじゃん!」
自転車でも良いが漕ぐのが面倒臭い。ゴールド免許のペーパードライバーでも誰も居ない草原なら事故を起こすこともないだろう。
アイテムボックスから原付を出し、
「いざ出発!」
の掛け声とともに急発進する原付。最初はヒヤッとしたが、乗っていると徐々にコツがつかめてくる。
スピード規制もないのでMAXまで上げようかと思ったが、障害物に当たった時の衝撃が怖いので時速は50キロとゆっくりした速度で収まった。
20分くらい走っていると道らしいものが見えた。なるほど、これがリスもどきが言っていた道か。
そのまま南下すると城壁らしきものが見えた。あれが町なんだろう。
流石に原付で行くのは悪目立ちするので、徒歩で行くことにした。
入関税とかあったら困る。こちらは、無一文だし。
あの球体が言っていた某MMORPGを模範した世界ならモンスターを倒せばお金が少なからずドロップされるはず。
索敵のスキルがあれば敵を見つけられるんだろうが、地道に歩いて探すしかない。
変なところでゲームだ。
歩く事数分で居た。明らかに初心者向けじゃないモンスターが!
ゴールデンリトリバーを1.5倍にしたくらいの大きさの狼が、私を餌と認識しロックオンしている。
「おいおい、マジですか。いきなりボス戦? ここは、定石にスライムとかじゃないの?」
コマンドがあれば逃げるを選択しただろうが、絶対逃げられない奴だ。
頭の中で対ゴキブリ用殺虫剤と万能包丁を思い浮かべた。声に出す余裕なんてないもの。
右手に万能包丁、左手に殺虫剤。ナイス私の妄想力!
絶対このシチュエーションも自称神様とやらのお膳立てに違いない。
「グルルルルッ」
「こんな糞ゲーで死ねるかぁああっ!」
腰を上げ前かがみに今にも飛び掛からんとする狼の顔面目掛けて殺虫剤を噴射する。
「ギャンッ!!」
対ゴキブリ用殺虫剤マイナス85℃の威力を思い知れ! 目を手で覆い蹲る狼の首を目掛けて万能包丁を思いっきり振り下ろした。
肉をすり潰して斬る感触に、調理用の肉を切っているんだと自分に言い聞かせる。
一撃で仕留めないとこちらの身も危ういのだから必死だ。
振り抜いた後は、動脈が切れたのだろう大量の血を頭から浴びた。首を斬られたくらいで即死するわけもない。チマチマ攻撃して時間稼ぎをし、相手が死ぬのを待つ戦法だ。
狼は殺虫剤を警戒しているのか、大きなうなり声を上げて威嚇している。
殺虫剤を仕舞い漂白剤に変えて狼の首元を目掛けてぶっかけた。
「ギャァァァアアォォオオゥ!!!」
傷にしみて痛いだろうに。最早戦闘どころではなく、狼は痛みにゴロゴロ地面を転がり泡を吹いて倒れた。
鑑定すると気絶となっている。今がチャンスとばかりに、私は万能包丁で狼の首を切り落とした。
すると、狼の身体は消え毛皮・赤い石・お金が落ちていた。
お金を拾って数えてみると金貨が30枚。価値が分からないので大金かどうか判断出来ない。
「一度、家に帰って出直すか」
全身血まみれで町に入るのは嫌だ。出発から5時間もしない内に自宅へ出戻ることになった。