36.妹の昇級試験
自作ポーションやアクセサリーを売ってきて、お財布が少しほっこりしています。
売上は、金貨22枚・銀貨1枚・銅貨が7枚でした。
虫よけの薬だけが残ったよ。アクセサリー類が高値で売れたのが嬉しかったが、この世界ではピアスという概念がないみたいだ。
イヤリングはあるのにね!
そこで、ピアッサーの登場。私自身ピアスをしているので、イヤリングのように耳が痛くなる心配もない。
ピアッサーと売り物のポーションを使って実演でピアス穴を空け、コットンにポーションを湿らせ耳元をぬぐうとピアス穴が残ったまま傷が塞がった。
ピアッサーのピアスは消毒液を漬けてから再使用しました。本当は、こんなことやっちゃあいけないんだけどね。
ピアスの方が可愛くて安いので人気が出た。これでピアスする人が増えると良いな。
ホクホク顔で留美生と合流し、宿に戻ってこれからの方針を決めることにした。
唐突に留美生が真面なことを言った!
「私のランクがFだから花令のランクとは釣り合わないんだよねぇ」
「そりゃーね、一緒のパーティを組めるかも不明だし、困ったな」
Fランクだと1つ上のEランクの仕事だ。仮に私とパーティーを組めたとしても、DかEランクになると思う。
「ランクアップの為に、暫くここを拠点にして活動する? モンスターも始まりの町よりも強いし」
「う~ん、モンスター討伐にも制限が掛かりそうだし。高ランクモンスターを狩って、素材でアイテム作りたいんだよね。Cランクからダンジョンにも入れるんでしょう?」
「そうだけど……」
そうなると、やっぱりギルドが設けているランクが邪魔をする。二人でどうするかーと話し合っていたら、念話が飛んできた。
<昇級試験受けたらえーやん>
いつの間にか鞄から脱走していた赤白ちゃんが気軽に言ってくる。
<紹介状もないのに受けれんよ>
と返したら、
<始まりの町のギルドのおっさんが留美生の存在を忘れとったで押し通せば良えんや。街通しのやり取りやったら時間掛かるしバレへんって>
<バレないょー>
と、紅白ちゃんとサクラまでが同調した!!
誰だよ、こんなフリーダムな子に育てたやつは!
やっちゃえーとばかりに弾けるのは留美生の影響に違いない!
許すまじ。
混沌とした中、私は閃いた。
「正攻法で行けば良いじゃない。こっちはダリエラさんを知ってるし、ギルドの失態もあるんだから、私がアンタを昇級試験に受けさせるわよ」
ギルドの失態を逆手にとって留美生の昇級試験を受けさせれば良い。
レオンハルトと因縁があるみたいだし、それを交渉材料にして持ち掛けてみるのもありかもしれない。
蛇ちゃんズとサクラが、鬼畜だ、鬼だと色々言っているが無視だ。
利用できるものは全て利用するのが世の常というものだ。
「じゃあ、サクっと冒険者ギルドに行こうよ!」
微妙な時間ではあるが、用事は早めにすましたい! という留美生の主張に対し、
「明日でも良くない?」
と消極的な私。だって面倒なんだもの。
「化粧して服もバッチリなんだよ。それを明日もするの? てか出来るの?」
出来ませんね! スーツ着て化粧している時は、本当に商談を成功させたい時か、仕事モードの時だけだ。
ズボラ癖を出ないとは言い切れない!
「折角化粧してるんだからサッサと済ませちゃうよ!」
留美生に無理矢理連行される形で宿を出たのだった。
私を先頭に冒険者ギルドへ突撃した。入った瞬間、受付がピリピリした空気になった。
あっちゃー、警戒されてるな。
でも、気にしない。トラブルが向こうからやってきたのを振り払っただけだもん。
ワタシ悪クナイ!
「すみません、ダリエラさんはいますか? 昇級試験の事でお話しがあるんですが」
私は、真面目そうな受付嬢を選びギルドカードを提示してギルマスを呼びつけた。
ダリエラは直ぐにやってきた。仕事が早くて助かるよ。
「レンさん、何か不手際でもあったかしら?」
ゆったりとした動きで問いかける彼女の眼は、明らかにを警戒していた。
そうだろうね。弱み握っちゃっている立場だし、警戒されても仕方がない。
でもね、私もその出来た人間じゃないから利用出来るものは利用させてもらう主義なんだよ。
「ダリエラさん側には不手際は無いですよ。私の方の不手際です。私の妹も一緒に昇級試験受けてなかったので受けさせに来ました」
ほほほほと、笑みを浮かべながら留美生の昇級試験を示唆した。
「あら? 昇級試験の紹介はレンさんだけでしたわ」
そうだろうね。レオンハルトは、私しか知らないんだもの。
ダリエラの言葉に平然とした顔で、
「本当なら此処よりしっかりと仕事してる始まりの町まで戻っても良いかなって思ったんですけど、戻るにしてもまた此処で昇級試験ってなるので直接来たんです。え? もしかして紹介状が無いだけで門前払いって無いですよね? あ、でもあの屑門番や人殺しOKな馬鹿職員に職務怠慢職員が湧いて出るから遠慮してます?」
と猛毒を吐いてやった。ダリエラ、思いっきり顔が引きつって不細工になっているよ。
更にごり押しで、耳元でレオンハルトには私が受けた仕打ちについては黙っておくと耳打ちした。
「大丈夫です。妹さんの昇級試験を受けれるように手配しますので少しお待ち下さい」
素晴らしい掌返しに思わず拍手したくなった。流石、小悪党な連中を雇う頭をやっているだけある。
ダニエラが席を外して10分ぐらいで戻ってきた。
「用意が出来ました。レンさんは此処でお待ち下さい。えっと……」
「留美生です。宜しくお願いします。」
と、留美生が会釈し挨拶をした。
「留美生さん、此方こそ宜しくお願いします。今から案内しますので、ついてきて下さい」
ダリエラに連れられ、試験会場に行った妹を見送り手持無沙汰になった私は、ギルド内をうろつく事にした。
昇級試験で速攻片がつくとは思えなかったからね。
どんなクエストがあるのかボードを見ようとすると、モーゼのように人が割れた。
おおぅ! どんな評判が立ってこうなったのか気になるんだが。
私、相当問題児扱いされてないか?
否、要注意人物扱いだな……これは。
ゼノ・シヴァ? 火竜と掛かれている。ランクはBランクから受けられるみたいだ。
もし、留美生が無事昇級したらゼノ・シヴァを狩るのも良い。
火竜と言われるくらいだから良い素材が取れるかもしれない。
怪鳥クルヤックルってのも良いな。肉は食用らしく高級食材と書かれている。これはCランクだから、私1人でもいけるか。
ギルドボードを独占しながら物色していたら、爆発音の後に劈くような悲鳴が聞こえた。
「ギャーーーーーーアァァアアアアアアアアアアアア」
地下から聞こえるってどんだけ大きな声で悲鳴を上げたんだ。
肺活量が凄いね! 思わず関心しちゃったわ。
地下で爆発があったからか、建物が揺れた。
地震に慣れちゃっている私からすれば、どうってことのない揺れなのだが、セブールの人にはそうでなかったようでパニックになっている。
仕方がないなぁ。ズボッとショルダーバッグに手を突っ込みアイテムボックスからマイクを取出した。
「落ち着いて下さい。地下の鍛錬所で爆発があって少し揺れただけです。建物が崩れることはありません」
「あれだけ揺れたんだぞ!」
「大・丈・夫・ですっ! ここは、冒険者ギルドでしょう。鍛錬所も十分強固に作られているはずです。そうですよね?」
受付嬢に水を向けると、コクコクと頭を縦に振っている。
「ほら、そこの受付のお姉さんも同意してます! あの程度で潰れるような軟な作りになってないんですから。もっとどんと構えて下さい。心配なら外に出たらどうですか?」
地震大国出身の私からしたら、あの程度の揺れなんて屁でもない。
昼寝していたら寝ている自信があるわ。
ギルド内は、徐々に落ち着きを取り戻し始めた。
爆発と悲鳴の原因を作った張本人が、地下から戻ってきた。
「レン勝ったよ!! 完全S勝利♪」
勢いよく飛びついてきた留美生をサッと避けた。悲しそうな目をしても無駄だ。
「何か爆発音が聞こえたんだけど……」
諸悪の根源をにらみつけると、
「え? だって私の武器だもん。火炎瓶とか使うし、ちょっと壁が吹っ飛んだぐらいだよ」
と爆弾発言をかました。
「大丈夫じゃないわよ! 建物壊すなんて弁済請求されたらどうすんの! 馬鹿!!」
バチコーンと留美生の脳天を思いっきりしばいた。痛い、と呻いているが知らん。
「大丈夫だよ。試験官が気絶か死亡じゃないと試験終了にならないのも確認した上でダリエラさんから全力でして良いって言われたんだから!!」
えっへんと薄い胸を張っている留美生に、私は眩暈と頭痛がした。大きな溜息が零れ落ちる。
「ダニエラさん、呼んでください」
私はダニエラに事の経緯をはなしている間、留美生は無事Cランクに昇格したのだった。




