31.トラブルの種がやってきた
宿屋に戻る途中、憲兵が慌ただしく門の方へ集まっている。
何事だと野次馬根性で行ったのが悪かった。
「良いから、ここを通してよ! 中に姉がいるの!!」
「ダメだ! 身分証がない上にお金がないなら通すことは出来ない」
「姉がお金持ってるって言ってるでしょう!!」
Oh! 妹よ関所破りかよ。
というか、何故お前がここに居るんだ。
色々と聞きたい事が多すぎて頭がパニックだっわ。
取り敢えず、今するべきことは留美生の保護だ。
「すみません。その子、私の妹なんです。冒険者ギルドに登録する為に来たんですが、途中ではぐれてしまって。ご迷惑お掛けしました」
と、金貨1枚を憲兵に握らせる。
「それで、妹の入所を許可頂きたいのですがお幾らになりますか?」
「滞在税銀貨5枚、入所税銀貨8枚だ」
「分かりました。金貨1枚と銀貨3枚です。滞在の仮発行書をお願いします」
「おい、そこの女。こっちに手を置け」
「留美生、その板に手を置いて。犯罪歴の有無を確認されるだけだから」
私に言われた通り、留美生は魔道具の上に手を翳した。
犯罪歴の有無を確認し終えた後、仮発行書を渡される。
「1週間以内にギルドカード持ってくれば銀貨8枚は返却されますよね?」
「……そうだ」
こいつ、ネコババしようとしてたのか。ちゃんと働けよ。血税で食ってるんだから!
不服そうな留美生を引き摺って、冒険者ギルドへ足を運ぶことになった。
本当色々と言いたいことをグッと堪えた私は偉い。
「色々と聞きたいこともあるんだけど、まずは冒険者ギルドで登録してお金返して貰いに行くよ」
「了解」
私の提案に不満はないようだ。大人しく私の後ろを付いてくる。物珍しいのか、キョロキョロと辺りを見ながら歩くのは止めてくれ。
逸れて騒ぎを起こされても面倒だ。
歩く事20分ほどで、冒険者ギルドに到着した。昇級試験受け終えたばっかりなのに、何でまた来なけりゃならないんだろう……。
比較的すいているカウンターを探していたら、受付嬢ではなくおっさんが座っているところが空いていた。
「すみません。この子の冒険者登録お願いします」
「これに必要事項を記入しろ」
放り投げられた紙とペン。うわぁ、仕事しない系に当たっちゃったよ。
隣で怒りに震える妹を宥めすかして、私が代筆して記入していく。
記入し終わった紙を渡せば、何も書かれてないギルドカードと針を渡された。
「留美生、指に針を指して血をギルドカードに着けて」
「分かった」
ブスッと針を刺し血を付けて、ギルドカードをおっさんの顔めがけて投げつけていた。
ギャーッ!! 何喧嘩売ってんの? 揉め事起こさないでくれよ。
「何すんだ!」
「え? やられた事をやり返しただけですけど~。さっき、私に向かって紙とペンを投げつけたじゃないですかぁ。嫌だなぁ~、忘れたんですかあ? ボケるには早いと思いますぅ」
「ふざけるな!! お前みたいな生意気な奴は登録出来なくしてやるぞ」
うわぉ、馬鹿発言頂きました。何ていうかギリオンって糞試験官と同じ臭いがするよ。
「は? 登録しに来た人に紙やペンを投げつけるのが、このギルドの作法なんでしょう? 私は、単純に作法に乗っ取っただけですけどぉ」
小馬鹿にし過ぎだよ、妹よ。怒りは分かるが、登録出来なきゃ冒険者で食っていけないよ。
「登録しに来た人を脅すなんて話になりません! すみませんが、このおっさんチェンジで!」
鞄に手を突っ込みアイテムボックスからメガホンを取出して大声で言ってやった。
マイクほどではないが、メガホンでも声は良く響く。
そこに居た冒険者と受付嬢が一斉におっさんの方を見る。
部が悪くなったのか、モゴモゴと言い訳をしていて見苦しい。
「留美生、ここで登録するの止めたら? レオンハルトさんの紹介で来たけど、登録に来た人を脅すような職員しかいないギルドなんて早々に潰れるわよ。私が登録した始まりの町なら、やる気がない受付嬢は居ても追い返す馬鹿は居なかったわ」
嫌味交じりに言ってやったら、騒ぎを聞いて駆け付けたダリエラが立っていた。
「あ、ダリエラさん。さっきぶりです。ここのギルド員って糞ばっかりですね。試験官といい、このおっさんといい。冒険者から2割も徴収しといて、試験官の人殺し黙認や新人登録を気に入らないと二度と登録させないとか、本当糞過ぎて仕事しなさいよ。腐った膿を出さないと潰れますよ?」
というか、潰しますよ? 時間をかけてじわじわと。
ニッコリと毒スマイルを浮かべる私に、ダニエラは深々と頭を下げた。
「申し訳ない。ギルド職員の怠慢は、私の落ち度だ。今後、このような事が無いように指導する。どうか気を静めては貰えないだろうか」
「構いませんよ。でも、レオンハルトさんには、報告しておきますね」
と返せば、苦虫を噛み潰したような顔になった。何やらレオンハルトと因縁があるみたいだ。
暇がある時に調べてみようっと。
「それで、妹はギルドに登録出来るんですか? この人、ギルドに登録出来なくなるようにしてやるとか言ってましたけど」
チラッとおっさんを見ると、青ざめた顔でガタガタ震えている。
ダリエラさんの顔も般若になっている。美人が怒るとブスに見えるね!
「登録しますので、大丈夫です」
「じゃあ、早く登録して下さい。この後、寄るところがあるんです」
おっさんに投げつけて床に落ちていたギルドカードをダリエラに手渡した。
それを持って、カウンターの中に入って作業をしている。
ギルドマスターも受付の仕事出来るんだ。雑務出来ない人だと下に着く人が困るもんね。
「登録できました」
Fランクと書かれた留美生のギルドカードを受取り、留美生に名前・職業・ギルドランクだけ表示するように伝え、その場で変更させた。
「次、訪れる時にはマシな人に対応してもらいたいです」
とだけ言い残して、冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出た足で入所のところへ行って銀貨8枚を回収し、留美生を宿へ連れて行った。
「すみません。二人部屋で素泊まり1ヶ月お願い出来ますか?」
「いらっしゃい! 前払いになるけど大丈夫かい?」
「お幾らですか?」
「1人金貨18枚と銀貨6枚だ」
「金貨37枚・銀貨2枚ですね」
始まりの町より銀貨1枚高い。まあ、ファレル領の主要都市だから高くても仕方がないか。
「計算が早いね。商人さんかい?」
「冒険者も兼任してますけど。金貨37枚と銀貨2枚です。出かける際は、フロントに鍵を預ければ良いですか?」
「ああ、それで構わないよ。もし、食事がしたくなったら併設している酒場で料理を出しているから、別料金になるが食べることもできるよ」
何とも商売上手!
「その時はお世話になります」
とだけ返し、鍵を受け取って宛てがわれた部屋へと入った。




