29.商業ギルドで登録だ
魔法具で内線しているみたい。
これって、始まりの町の時と同じ状況じゃないか?
本当、悪運様だね!
階段から降りてきた妖艶な美女に、私は釘付けになった。
いやぁ、眼福ですな。程よくついた筋肉と大きなバストが健康的でイイ!
チラ見せを分かっているのか、鎖骨・腕と足首しか出てないのに女の私でもグッと来た。
滾るわ! 留美生が、ここに居たら絶対小説の登場人物にしているよ。
「ギリオンを気絶させた子って、貴女かしら?」
「はい」
「私は、ダリエラ。ここのギルドマスターよ。貴女が倒したギリオンは、アレでも一応元Cランクなんだけどね」
この世界の冒険者ギルドのランクの基準って甘過ぎじゃないか!?
確かに剣豪のギフト持ってたけど、初手で私がかわせるくらいだし。しかも、カウンターまで打ち込んで昏倒させたんだけど。
「気絶か死亡かでないと試験終了出来ないと言われたので、昏倒させました。一応、heelかけてあります」
「ありがとう。時々、昇級試験で死亡者が出ることがあったのよ。それぞれの武器を使って実力を測るから、殺さないのが絶対条件なの。だから手加減というスキルを持っている者じゃないと、試験管にはなれないんだけど。まさか、公平な立場でないといけない試験管が殺人を犯していたなんて当ギルドの失態だわ」
はぁ、と悩ましい顔で溜息を吐くダリエラにご愁傷様と心の中で呟いておく。
「純粋な強さも大事ですけれど、精神面や適性・人間性を見るのも大切だと思います」
だから、あんなのでもギルド職員になれたんだろうと暗に示唆してみたら、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
図星だったらしい。
「貴女は、Cランク昇格を受理します。ギリオンには、この後色々と聞きたいことがあるから席を離れるわ。受付でギルドカードを提示をすれば、ランクの変更が出来るから」
ダリエラは言いたいことだけ言うと、地下へと続く階段を下りて行った。
後日、ギルド追放をされたギリオンの闇討ちを食らう事になるとは予想もしなかった。 さて、気を取り直して受付嬢にギルドカードを提出すると手際よく魔法具を弄って、ほんの数秒で返却された。
ギルドカードを見るとCランクと表示されている。
「Cランク昇格おめでとう御座います。登録して間もないのに、こんなに早く昇格されたのは勇者様以来の快挙ですよ!」
「勇者?」
「はい、古の盟約で魔王が現れた時に勇者召喚がされます。勇者様は、一際成長が早いのでギルドに登録されると、直ぐにランクと実力が不釣り合いになるので昇級というシステムが導入されたんです。普通1ランク上げるのに1年くらいかかります。F~Dまでは上がりやすいんですけど、C以上はランクポイント以外に実力試験がありますから、ポイントが足りていても実力試験で落ちることは多々あります。その点レンさんは、実力も申し分ない人材です。是非とも、ガンガンクエストを受けて下さいね」
どこのブラック企業やねん! 働きたくないでござる!!
地球では、私はニートだからね。住民税や資産税払わないとけないし、生活費をサイエスで稼がなければならない。
Fから一気にCランクに上がったけど、何か弊害とかないよね?
「Cランクになったことで、何か変わったりすることはありますか?」
「そうですね。指名依頼を受けたり、護衛や高難度のクエストを受けられます。後、ダンジョンも入れるようになりますね。ただ、有事の際は招集が掛かるので無視すると罰則はありませんが、仕事の紹介が難しくなります」
うわぁ、面倒臭い。ダンジョンに入れるのは良いけど、護衛や指名依頼とかはお断りしたい案件だ。
「例えば、招集が掛かっても移動距離が長く物理的に駆けつけられない場合も、ペナルティになりますか?」
「ギルド内で情報を共有しているので、誰がどの町に滞在し何のクエストを受けているのかまで分かります。ですので、駆けつけるのが難しいと判断される冒険者の方には招集はかかりません」
なるほど、クラウド上にデータを蓄積させて、離れた場所でもPC等の端末からネットを介してアクセスでき情報を閲覧出来るようなものか。
一般的ではないけれど、もしこの技術が一般に普及すれば留美生の創作活動の幅が広くなりそうだ。
あいつは、鍛冶スキルや細工スキルを持っているからスキルのレベルが上がったら作るかもしれない。
この事は、留美生自身が気付くまで黙っていよう。
「ありがとう御座います。日々精進したいと思います」
カードを鞄を通じてアイテムボックスに仕舞い、お礼を言って冒険者ギルドを後にした。
次に向かうところは、商業ギルドです! 念願の塩・胡椒・砂糖の販売だよ!! 後、留美生に強制されて作るようになった化粧水と乳液・美容液。石鹸も家にあったストックを全部持ってきたよ。
包装紙は外して、無地の巾着に入れてある。
セブールに来た本当の目的は、商業ギルドで商品を卸すことだ。
魔物討伐だけでもお金は入るけど(ボス戦多し)、やっぱり商売して真っ当なお金を手に入れたい!
地図を見ると、冒険者ギルドの近くにありました。どうやら、ここセブールでは各ギルドが同じ地区に集められているようだ。これは有難い。
商業ギルドを訪ねると、これまた立派な作りをしていた。商人用の商談の配慮があるのか、受付カウンターとは別に個室がいくつも見える。
まずは、受付をしないと。
「すみません。商業ギルドに登録しに来ました。レンと申します」
「登録ですね。レン様ありがとう御座います。Fランク~Sランクまでありますが、どのランクで登録されますか?」
「どう違うのか教えて下さい」
「かしこまりました。では説明を行いますので、あちらのお席へどうぞ」
カウンター前にある長いテーブルを案内された。
この長いテーブルは、私みたいな初心者に向けて設けられた席なのか。
これは長くなりそうだ。
鞄に手を入れてアイテムボックスから手帳とペンをを取り出す。
メモは社会人の基本なり!
「私は、ここの受付をしているアンナと申します。不躾ですが、それは何ですか?」
「手帳です。この中に紙が挟まれてまして、メモを取るのに役立つんですよ。こちらは、ボールペンと言いましてインク壺に付けなくてもインクが出てくるペンです」
Gacciの本革手帳。アカットのボールペン(付録)で御座います、とは言えません。
「少し見せて頂いても?」
手帳とボールペンを渡すと、細部まで見てじっくり眺めた後、返してきた。
「素晴らしい代物ですね! 他にもあるのでしょうか?」
「あります。お日にち頂ければ似たものをご用意することは可能です」
流石にスーパーブランドのGacciという訳にはいかない。
ボールペンも付録だから、普通の100円ショップで売っているものになるが。
「それで、ランクの話なのですが……」
「んんっ、失礼しました。ランクですが、Fランクは露店・委託販売。Eランクは移動式店舗。Dランクは小さな店舗。Cランクは中規模な店舗。Bランクは大きな店舗。Aランクは国内に複数支店を持っている店舗。Sランクは皇室御用達の店となります」
お姉さん、完全に手帳に心奪われていたね。まあ、分かるけど。シンプルだけど、お洒落なGマークと機能性が備わった手帳だもの。ボールペンも本体はゴールドカラーでペン先にはピンクのキュービックジルコニアがついている。
ペンの見た目は高級感あるけど、実際の値段は780円の雑誌付録。フリーマーケットだと、もっと安くで手に入るけどね!
「Sランクは、皇室御用達になれば店舗の大きさとか関係なくなれるのですか?」
「はい、そうなります。その時は、店舗を構えて頂く必要がありますが」
うわっ、面倒臭い。皇室御用達にだけはなりたくないな。
「各ランクによって収める税も変わってきます。Fランクは銀貨7枚。Eランクは金貨1枚。Dランクは金貨3枚。Cランクは金貨5枚。Bランクは金貨10枚。Aランクは金貨30枚。Sランクは金貨50枚になります。」
Bランクから一気にお金が跳ね上がったYO!
B~Aは分かるけど、Sで無理矢理店持たされて皇室御用達にされた上に金貨50枚も納めないといけないなんて嫌すぎる!!
なるべく目立たず無難なものを売りさばこう。
カリカリと言われたことをメモに取る。勿論日本語でだ。
「レン様は、どのランクをご希望されますか?」
「Fランクでお願いします」
「では、銀貨7枚お願いします」
「畏まりました。少しお待ち下さい」
銀貨7枚を持って、受付カウンターに戻ったお姉さん。ギルドカードを作ってくれているんだろうなぁ。
数分ほどで戻ってきた彼女の手には、銅板のギルドカードがあった。
「ランクが上がるにつれてギルドカードの色も変わります。当ギルドへようこそ」
冒険者ギルドより丁寧だわ。流石、商売人が集まるだけはある。
「早速なんですが、売りたいものがあるのですが」
「どのような物ですか?」
「塩と胡椒、砂糖です」
鞄に手を入れてアイテムボックスから瓶に詰め替えた砂糖・塩・胡椒を出していく。
1瓶ずつテーブルに並べていく。
「手に取っても宜しいですか?」
マジマジと瓶を手に取って眺めている。恐らく鑑定しているんだろう。
「すみません。こちらに来てもらえますか?」
瓶を回収して、アンナさんの後ろに付いて行く。
通されたのは、センスの良いシンプルな応接室だった。




