27.地図が財政を圧迫させている
割り当てられた部屋に入り、内鍵をしてからサクラ達を出した。
「入所するのに一苦労だよ。ちょっと早いけど、ご飯にしようか」
アイテムボックスから留美生作お弁当、サクラ用のチョコレート、蛇ちゃんズのピンクマウス(解凍済)を出す。
<それやのうて、狩った獲物を食べたい~>
<いっつもそれだと飽きるやん? たまには豪勢なの食べたいんやもん>
こてんと可愛らしく首を傾げて舌をチロチロ出す姿に、一瞬萌え殺されそうになったが、正気を取り戻し両手でバッテンを作って拒否をした。
「可愛く言ってもダメです! 大体、魔物が食べれるか確認出来てないのに許すわけないでしょう。文句言うなら食べなくて良いんだよ」
解答済みのマウスをアイテムボックスにしまおうとしたら、焦ったのか腕に絡みついてストップをかけてくる。
食い意地が張ったのは誰に似たんだか……。
<あるじ~、ボクもそれ食べたぁ~い~>
触手をピンクマウスに伸ばしているサクラに、私はう~んと考えてSサイズのを1つだけ上げることにした。
「美味しくなかったら、無理に食べなくても良いからね」
<分かったぁ~>
ピンクマウスを覆うように体に取り込んでいく姿は、ぶっちゃけグロイ。
蛇ちゃんズは、いつものように時間をかけて丸のみしていた。
<これ、美味しいねぇ! 初めて食べた味がする>
<うちらは、食べなれとるしなぁ。魔物の肉食べさせてーや>
従魔たちの語らいに、どうかサクラが蛇ちゃんズのようなおっさんみたいにならないように心から願った。
食事も済み、食休みをしてから冒険者ギルドへ向かうことにした。
昇級試験を受けなきゃならないし、契約している従魔の登録も必要だろう。
始まりの町では、色々あったからそこまで気が回らなかったんだよね。
「みんな、鞄の中に入ってー。これから冒険者ギルドに行って昇級試験受けるからね。大人しくしてるんだよ」
留美生にメールを送っておくかと、メールボックスを開いたら1件の受信メールがあった。
読んでみると、帰る前に電話しろとの事。いつ帰れるかも分からないし、近況報告だけメールしておこう。
〔姉ちゃん、これから冒険者ギルドで昇級試験受けてくるね。蛇ちゃんズは、こっちにいるから安心して下さい。セブールへ行く途中、原付でHit and Wayを繰り返して順調にお金を稼いるよ!〕
返信はない。分かっていたけどね。こっちと向こうじゃ時差もあるし、スマートフォンを見ると一日半は経っていた。
留美生自身やることもあるだろうから、返事は気長に待つことにするか。
スマートフォンで地図が売っている雑貨屋を検索して場所を確認した後、サクラと蛇ちゃんズが入ったショルダーバッグを持って宿を出たのだった。
スマートフォンを片手に歩き回るのは何だか不審者のようだ。
目的の雑貨屋に着くと、即座に鞄を通じてスマートフォンをアイテムボックスに収納した。
「すみません。地図を買いたいんですけど」
「はいよ! 旅人さんかい?」
「冒険者です。セブールの地図と、このあたりの町や村の詳しい地図があれば欲しいのですがありますか?」
「小さいのに大変だねぇ。地図だね。ちょっとお待ち」
品の良いおばさんが、対応してくれた。でも、小さいは一言余計である。
カウンターの後ろの棚から地図を取出している。
ざっと見て十数枚はあるだろう。
「これが、ファレル領の大まかな地図。こっちが、それぞれの村や町の詳細な地図だ」
悪質な紙に書かれた地図を見て値段を確認すると、やっぱり大金だった。
「大まかな地図は金貨2枚、村や町の地図は全部で金貨12枚と銀貨7枚だ」
「全部買うので、少し安くなりませんか?」
金貨14枚以上出費を出したと知られたら、留美生に殺される。
「全部で金貨14枚」
「もう一声!」
「金貨13枚と銀貨5枚!」
「もう少し!」
「ああ、もう! 金貨13枚!! これ以上は無理だよ」
金貨1枚と銀貨7枚値切れた!!! やっぱり交渉してみて良かった。
金貨13枚をテーブルの上に置き、地図を片っ端から読み込む。どんどん私の中に吸収されて消えていく。
ものの10分足らずで、全ての地図は私の中にインストールされた。
「若いのに、こんな大金を持っているなんて凄いね。どこかのお嬢様かい?」
まあ身なりは良いし、シャツ一つとっても上質なのが分かるのだろう。
シマモリで380円で買ったカッターシャツですら、こっちでは高級品の部類になるんじゃなかろうか?
裁縫も手縫いではなくミシンだし、布地も滑らかだもの。
「まさか、商人も兼任してますから(用事が済んだら商業ギルドに登録しにいくけど)。それなりに身なりには気を付けてます」
「商人さんだったのかい! どうりで身なりが良いはずだ。商人さんなら、珍しい品など持ってきているんだろう。ここで売っていかないかい?」
「これから用事があるので、良ければ後日品を持ってお伺いします」
やんわりと断り、そそくさと店を出る。後日、どれを売るかは留美生と相談して決めよう。




