188.解放軍始動
「妹、リオンのこと呼び捨てはあかんやろう」
レナが殿を務めながら、ロッソ山を登りながらボソッと疑問を呟いた。
ロッソ山の魔物の間引きは、契約したワイバーンに任せている。
餌が無くなるといけないので、スキル威圧で寄せ付けていない。
アベルが同行している時点で、寄ってこないだろうが。
「これから軍主になって、制覇したら一国の主になるからな。呼び捨てはあかんやろう」
「前々から思っていましたが、王子を呼び捨てにする人なんていませんよ」
ハァと溜息を吐くゲルドに、
「どういう経緯でハルモニアに来たか知らんが、亡命したんなら身分はないものやろう」
と留美生が突っ込んだ。
「留美生のいう通りやな。殿下で統一しとくか」
「様付けで呼んでも良いんだぜ」
ニヤニヤとリオンが、私を見ている。
「リオンサマ~、殿を務めて敵をいなしてきて~」
ご要望に応えて様付けで呼んでやったら、両腕をさすっている。
「止めろ。キモイ」
「自分から様付けで呼んでも良いって言ったやん。希望が叶ったやろう?」
どうせこうなることは分かっていただろうに。
読みが甘い。
この様付けネタは、後々留美生に使われるんだろうな。
「殿は冗談として、殿下で統一しておくか。それなら体裁も取れるやろう」
「公式の場で呼び捨ては止めて下さいね!」
ゲルドに物凄く信用がないんだが、そんなヘマはしない。
「せんわ。まあ、リオンリオンと呼んでたらボロが出るから殿下呼びに直すわ。というわけで、殿下これから本当の戦場に向かって墓場に片足突っ込みながら勝ちを取りに行くで」
「軍の名前はどうします?」
「軍名ねぇ……。殿下、何か思いつくのあるか?」
「解放軍で良いんじゃないか?」
あー、ゲームでも既存の軍名をそのまま使うくらいだしな。
確かに現状の国を解放する意味では、解放軍はありか。
「よし、じゃあ解放軍始動やな。まずは、ワウルの情報を整理し仲間になってくれる同志を集めつつ、グウェン城を手に入れる。グウェン城攻略は殿下が率先して動いてや。一個小隊分で制圧せい」
「それは無理なんじゃ……」
「湖と付近の魔物はサクッとレベル上げも兼ねて軍事演習で一掃する予定やから。その後、根城にする城の制圧は当事者本人の力を示さんと納得せんやろう。それとも、殿下をお飾りにするつもりか?」
私は、ぶっちゃけそれでも良いけどな。
そうした場合、解放軍で制圧出来ても国造りには失敗する可能性がある。
「強化合宿なら丁度良いかもしれませんね。どれくらいのレベルの魔物が出てくるのか楽しみです」
レナが無邪気に答えている。
大分見ない内に強くなったもんなぁ。
「非戦闘員もせめて敵をいなすくらいには強くなって貰わないといけませんね。軽く揉みますか?」
「ニックの言い分は最もですね」
まだ見ぬ新兵候補と仲間候補に、心の中で謝った。
私の仲間は、いつの間に戦闘狂になってしまったようだ。
「そんな無駄口叩いてんと、サクサク歩いて今日中には帝国入りすんで!」
「内戦一歩手前ってことは、食料も少ないんとちゃう?」
現地で食料調達がどこまで出来るか不透明だ。
この辺りもワウルの情報収集力に期待だ。
私達は無駄口を叩きながらロッソ山を登り、日が暮れる頃に頂上についた。
流石に夜の山を歩くのは危険と判断し、元地竜が住んでいた巣にテントを広げて一泊したのだった。
翌日、ロッソ山を越えて帝国と共和国の国境線にあるアウトプット町に着いた。




