18.時差が判明しました!
鬼婆からやっと解放されて、もう夕方になってる。
もう一泊くらい宿を取っておけばよかった。
後悔しても仕方がないので、町の門へ行き冒険者ギルドのカードを提示した。
「この間の嬢ちゃんか。冒険者になったんだな」
「はい、その節はお世話になりました」
仮証明書を渡すと、銀貨5枚返してくれた。宿一泊分だもの。お金大切也。
「これから出かけるなら止めた方が良いぞ。夜になるとモンスターが活発になる」
ええ人やぁ……。出来るものならそうしたいが、そういうわけにはいかないのが世の常。
「急ぎの用が出来たので出発します。魔物除けの薬は持ってますし、ポーションもありますから大丈夫ですよ」
無問題と薄い胸を張って答えると、心配されたもののそれ以上引き留めることはなかった。
「気を付けて行くんだぞ」
「はい、ありがとう御座います」
小さくお辞儀をし、朱い空を見上げながら『原付乗りてぇ』と思っていた。
1時間ほどあるけば、夜の帳がおり辺りは薄暗くなって気味が悪い。
索敵と隠密は発動し続けて周囲に何もないことを確認して、自宅をアイテムボックスから出した。
私のスマートフォンの時計が丁度19時を回ったところだ。地球は6時だ。
「ただいまー」
まだ寝ているであろう妹を起こすのも忍びないと思い小声で帰宅を告げた。
やっぱり寝ているのか返事はない。
リビングに行き、赤白ちゃんと紅白ちゃんに挨拶をする。
「お早う。最近構ってあげられなくてごめんね」
カレンダーで餌や排泄・掃除などのメモを確認し、ハンドリングしても問題ないと判断して二匹と戯れることにした。
鞄をソファーに置いて、ゲージに手を入れると赤白ちゃんがスルスルと腕を登ってきた。
チロチロと舌を出しながら、お早うと言いたげに頭を上下に揺らしている。
「可愛いなぁ。んー、今日は無臭だね! 少し見ないうちに、ちょっと大きくなったかな」
元々大きい個体ではあったけど、サイエスに行く前と比べて少し大きくなった気がする。
カレンダーを見ると、どうも出かけている間に脱皮していたみたいだ。
「じゃあ、お家に戻ろうか。お水換えてあげるからね。脱走しちゃダメだよ」
赤白ちゃんをゲージに戻し、水入れを取り出し、綺麗に洗ってから新しい水を入れてゲージに戻した。
赤白ちゃんが浸かれるの大きさなので、サラダ用の器を使っていた。
暫く巣に戻ることなく水を入れた器の周りをウロウロしていたが、そのまま器の傍で寝そべっている。
「紅白ちゃん、お待たせ~。先にお水換えるね」
水入れを取出し、綺麗に洗った後に新しいお水を入れて戻す。紅白ちゃんは怖がりなのか、手を出しても動かないので諦めた。まだ、成体になって間もないから小さいんだよね。
温度計を弄りながら、湿度と温度をチェックする。蛇ちゃんの適温が28~30度位。スノー種の赤白ちゃんは寒さに強いが、ウルトラアネリモトーレ種の紅白ちゃんは小さいので出来るだけ30度に近い設定にしている。
30度・湿度72%。悪くない数字だ。
蛇ちゃんズに癒されていたら、留美生が起きてきた。
「あ、お早う」
「は? 何でいんの?」
妹よ、その反応は酷くね? 姉ちゃん、命がけで戦って(ないけど)帰って来たのに、もう少し歓迎しても良いじゃん。
そして、サクラを撫で繰り回すのは止めろ。
「メール見てないの? 一回帰って来た時に時差が7時間差だって送ったのに。それに合わせて帰って来たんだよ」
「ごめん、見てない。最近、うざいメールが多いから放置してた」
一体何があったんだ。コイツ変なところで面倒なことに巻き込まれるから心配だ。
「サイエスの1時間が、こっちでは7時間差になるみたいだよ」
「だから1日だと一週間になるのか……。まあ、法則が分かればやりようはあるね」
「そうだけど時差を計算するのが面倒くさい。同じ時間軸で統一して欲しかった!」
ブーブー文句を言う私に、留美生は生暖かい目で私の肩を叩いて言った。
「ドンマイ☆」
グッと親指を立てられたのがムカツク。
「あ、そうそう。お前、病院の受診日すっぽかしてたから熱出して寝込んでるって事にしといたから。今日行ってこい」
サイエスの事で目まぐるしく動いていたから、すっかり忘れていたわ。
「了解。ご飯食べてお風呂入ってから行ってくる。飛び込みでも大丈夫でしょう。その間、サクラの面倒見てくんない? 連れて行くわけにはいかんし。可愛いからって頬ずりとかお菓子上げまくるのは禁止だからね」
一応釘は刺しておくが、赤白ちゃんと紅白ちゃんを溺愛している姿を見ると、不安しかない。
「サクラ、私は用事があるから傍を離れるけど、このどうしようもないダメな妹が面倒見てくれるからね。私が帰るまでの辛抱だからね」
と言い聞かせてみたが、分かってない様子で? マークを頭に沢山浮かべている。
家の中にさえ居てくれれば良い。蛇ちゃんズのように脱走とかして、外に出られたら捕獲&即研究所送りにされる。
「サクラちゃんの事は私に任せなさい! あんたは、ちゃんと受診してくること」
常備薬も切れそうだし、行かないと色々とヤバイ。
「ご飯の支度するから、風呂入ってきなよ」
「分かった。サクラもおいで」
留美生からサクラを奪い返し、そのまま風呂場へ直行した。
湯が張ってあるわけないので、必然的にシャワーになる。サクラは桶にお湯を張って放り込むと勝手に遊んでいる。
時差も大体分かったことだし、それを利用してお風呂に入りにくれば良い。
逆算するのも面倒だから、腕時計のアラーム機能を設定しておこうっと。
軽く朝ごはんを食べて、病院へ行く支度をしてたらいい時間になった。
「じゃあ、サクラたちを宜しくね」
「はいはい、いってらっしゃい」
シッシッと追い払うような仕草で送り出す妹に、ちょっぴり悲しみを覚えたよ。
そろそろ、原付のガソリンが心配なので通院の帰りにガソリンスタンドに寄って給油しよう。
そんな事を考えながら、時速30キロでノロノロと公道を走る。
自転車よりも少し早いくらいの速度だ。
横を通る車の主達は、嫌そうに私を見るが気にしない。
ちゃんと道路交通法を遵守してますから!
なんて阿呆なことを考えてたら、白バイに止められました。
速度違反してないのに、何でやねん! と思っていたら遅すぎて危ないんだと。酷す。
「そこの貴女、遅いからもう少し速度上げて走って」
「いや、無理です。怖いんで」
ドヤ顔&決め台詞を言ったら呆れた顔で大きなため息を吐かれた。
「何処まで行くの?」
「●●診療内科ですけど」
「じゃあ、そこまで先導して上げるからついてきて」
何その羞恥プレイ。私、そんな性癖ないんですけど。
「嫌です」
勿論即答しました。
「この道路で君みたいに徐行運転されると逆に危ないんだよ。ついてきてね」
有無を言わさない白バイの兄ちゃんに、私は折れました。
押し問答しても、受診の待ち時間が延びるだけだもの。
受付開始前には着きたいので、仕方なく白バイの後ろについていく事にしたが、全くついていけず置いてきぼりを食らった。
それで怒られたのは解せないと、主治医に愚痴ったのは言うまでもない。




