185.マズ飯の危機
紅唐白のご飯が無くなったので、早速留美生に出汁巻き卵と同じフルーツミックスおからコンフレークを作って貰った。
まだ赤ちゃんだし、いきなり私と同じものを食べさせるのは……と思っていたので、丁度良かった。
実食っていう時に、紅唐白はコンフレークに興味を示すどころか、そっぽを向いてしまった。
「妹よ、キヨちゃんが食わへんねんけど? キヨちゃん、ご飯やで」
宥め透かしてご機嫌を取る私に対し、紅唐白はプイっと顔を背け続けた。
これでははお気に召さんというのか。
「作り直してくれへん?」
私の一言に明らかにムッとした顔をする留美生。
無言で席を立ち私からスプーンを強奪すると、紅唐白ちゃんの口を抉じ開けコーンフレークを突っ込んだ。
吐き出さないように口をガッチリと閉じ、ジタバタともがく合間にシャーン、ピシャーンと雷を落としている。
「ちょっと、キヨちゃんは神使やねんで!! アンタ、もっとキヨちゃんを敬いーやっ!!」
慌てて留美生から紅唐白を引き離そうとしたら、思いっきり睨まれた。
「お前が躾ちゃんとせぇーへんから紅唐白ちゃんは甘えたなんや! 好き嫌いとお残しは絶対に許しませんで!!」
紅唐白に甘いところはあるが、そもそも食べ物だって天照大御神から預かった物を上げていたのだ。
甘やかしとか言われる筋合いはないと思う。
「キヨちゃんが、食べたくない物を無理矢理食べされるのはおかしいやろう!!」
「じゃかあしい! 出された飯は不味くても食え。それが山田家の家訓じゃ」
留美生は、紅唐白の首根っこを押さえつけ、無理矢理口の中にコンプレークを問答無用で放り込みを何回か繰り返し完食させた。
オロオロしている私は、無理矢理コンプレークを口に詰め込まれ抵抗とばかりに留美生に向かって雷を落としまくる地獄絵図に、同席していた他の連中は早々に自分の食事だけ持って被害に遭わない場所へ避難していた。
留美生のコンフレーク攻めから解放された紅唐白は、私の腹に体当たりしキューキューと訴えるように泣いた。
怖かったなぁ、と紅唐白の頭を撫でながら文句を言うと、
「じゃあ、お前等の飯はサイエス飯にチェンジじゃ」
と極悪非道なことを言い放った。
その日の夕食は、本当にサイエス飯だった。
留美生曰く、ロッソ街の定番家庭料理メニューらしい。
見た感じは、ミネストローネ風な感じだけど臭いがダメだった。
どうしたら、こんな酸っぱそうな臭いが出来るんだ?
紅唐白には、固いパンをミルクに浸しただけのご飯が出された。
勿論食べるわけもなく、
「キヨちゃん、これ食べきらんとあかん。これ以上不味い飯食べたくないやろう?」
と諭すが抵抗とばかりに雷を落とされた。
念のため雷無効付与された服を着ておいて良かった。
感電してアバババな事にならずに済んだけど、口に入れても吐き出そうとするので無理矢理口元を抑える。
私も食べてるよ~とクソ不味い固いパンのミルク漬けを口に入れた。
思わず吐き出しそうになったが、根性で飲み込んだ。
「完食したら前に食べたがってたプリン上げるから、頑張って食べよう」
プリンで一生懸命釣ったが、結局紅唐白が口にしたのは2回のみ。
残りは、飼い主である私が全部完食した。
吐き気と胃もたれに苛まれながら食事を終え、紅唐白のお目当てであるプッチンなプリンを出した。
蓋を開けた瞬間、紅唐白はプリンの容器に顔を突っ込んで食べている。
野性味溢れる姿も素敵だけど、それがプリンとは…。
ペロッと普通サイズを丸々1つ食べきった紅唐白は、キュッと鳴きながら催促してきた。
紅唐白的にプリンはOKらしい。
「これから出されるものは、ちゃんと食べるならもう1個食べてええよ」
私の言葉に、キューキューと抗議をしてくるが折れないと分かって渋々頷いた。
「ちゃんと、留美生のコンプレークも食べるんやで」
そう言いながら2個目のプリンを出して、紅唐白のお腹は膨れたのか満足したらしい。
こうして私と紅唐白のマズメシ危機は去ったのだった。




