184.策略は専門外です
冒険者ギルドから戻ってきたら、留美生が開口一番にこう言った。
「姉、今日こそお前に囲碁と将棋を教えたるわ!」
首根っこをガシっと掴み囲碁盤の前に無理矢理座らせた。
「先ず囲碁からにしよか」
「え? 知らんで。興味ないもん」
戦略ゲームは私ノータッチだし、そういうた類のイベントは全部留美生に押し付けていたから、戦術とかからっきしである。
それに、私にはギルドに卸す素材の一覧表を作らなければならない。
そもそも、自分が指揮を執るくらいなら最初から奴隷を買ってきてない。
「何で、知らへんのに買ってくるんや!! アホかっ!? 昼飯抜きやっ!!」
「嫌や!イヤー何で昼飯抜かれへんとあかんの!?」
理不尽にも程があるだろう!
サイエス飯は不味いに定評があるのに、ご飯を人質に取るなんて鬼だ!
「将棋盤や囲碁盤まで買いおって! 磁石式の簡易な奴じゃなくて本格的なん買ってきたら指すぐらい出来ると思うやろ! 馬鹿の見本として私とお前対戦をしようと思ってたのにぃ!! お金の無駄やないけっ! 囲碁盤とか買わずにネット対戦出来る無料アプリがあるんやからそっちで教えたら良かったわ」
「こ、こういうのは形から入るんやで!?」
知識付けていざ実戦って時に、チープなものを使ってだと面白くない。
それに囲碁や将棋が流行させるつもりもあり、奮発してかったのにセセコマシイことを言うなんて我ながら妹はバカである。
勿論、パソコン使っての電脳戦をさせるつもりだ。
最近は将棋以外はAIが勝っている程に好敵手になる。
「形だけなんて意味ないわっ! お前、死ぬ気で覚えろよぉおお」
顔を赤くして怒り狂う留美生に、これ以上言っても無駄と判断し、適当に囲碁の指し方を学んだ。
暗記スキル取っておいて良かった。
速読でルールブックを読んで、棋譜を読みまくれば、ある程度は理解できるようになったが、いかせんつまらないのでやる気が出ない。
飯抜き回避のために頑張った。
留美生曰く、打倒アーラマンユの前に教会の信徒とぶつかるはずだ。
戦略を覚えておいて損はないし、戦況は秒単位で変化していくのだから、それに対応できるようにする必要があるんだと。
裏からサポートする気満々だったのに、何で一軍を任される前提で話が進んでいるんだろう。
逆らったら飯抜きの刑なので、私は欠伸を噛みしめながら棋譜を読んで四面対戦を無理矢理させられた。
解せぬ。
流石に囲碁や将棋ばかりしているわけにはいかず、資金源になる迷宮産のドロップの納品をしに行くと言うと待ったが掛った。
「迷宮品のドロップは、武器制作で使う予定なんやけど」
「宝石は要らんやろう」
「いや、リオンの即位式の為に王冠やら装飾品やら作る予定やから卸すのはなしや」
NOと両手でバツを作る留美生に、
「宝石で作るより魔石で作ってやった方がええんちゃう? 付与もし易いし、価値は宝石よりも上がるで」
魔石ですらカットや研磨して宝石のように見せる技術を持っているんだから、別に本物の宝石くらい要らんだろう。
「そう言われればそうやけど……」
「魔物のドロップ品の中で、残しておきたいものをリストで上げてや」
拡張空間ホームの迷宮フォルダーを開き、ドロップされた品が一覧でリスト化されているのを見せる。
「結構いいもん手に入ってるやん。逆に不要なもんが少ないわ」
などと言いながら、留美生はメモ帖を取出し不要なものを書き出している。
途中でイスパハンを呼んで、あーでもないこーでもないと言い合いながら不要リストを完成させた。
宝石は私のゴリ押しで卸すと決定した。
「じゃあ、冒険者ギルドに卸してくるわ。後、キヨちゃんのご飯が無くなったから出汁巻き卵と同じご飯作っておいてくれ。帰ったら食べさせるから」
と言い残し冒険者ギルドへ行ってひと稼ぎしてきたのだった。




