173.ロッソ山を購入します
ハンスを連れて商業ギルドへ直行しました。
私の名前を出すと、Cremaの会頭という事でギルドマスターが直々にお相手してくれる事になった。
神経質気味なインテリメガネというのが第一印象である。
「初めまして、レン殿。噂はこの地でも聞いておりますよ。私はジョバンニ・イーストウッド。ハルモニア王国との玄関口、ロッソ街の商業ギルドマスターです」
「初めましてジョバンニ殿。ロッソ山を購入したいのですが、幾らになりますか?」
私の言葉に豆鉄砲をくらった鳩のように、ポカンッとしている。
「は? 山ですか?」
数秒後に絞り出された言葉がこれとは、まだハルモニアの方が商人の質は上かもしれない。
「はい」
「あの山は、ワイバーンや地竜が住み着いている危険な山ですよ」
「百も承知です」
そのワイバーンは私の手中だし、地竜に関しては蹂躙したからね。
ジョバンニは、眼鏡を押し上げ平静を保とうとしている。
「購入した後で、返品は聞きませんが宜しいのですか?」
「返品する気はありませんので、大丈夫です。いくらですか?」
購入する気満々の私に、何を言っても無駄だと判断したのか、物件のファイルを取出してロッソ山全域の書類を見せてくれた。
ワイバーン達が住み着く前は、帝国へ行き来する道として使われていた模様。
しかし、今は非常に危険な山となり地下価値も殆ど無いに等しい。
「金貨800枚ですか。随分安いですね」
「危険な山を購入したい人はいませんし、帝国とは今は海路で国交を開いてますので必要がないのですよ」
「成程、分かりました。金貨800枚です」
ショルダーバッグを通して、金貨800枚を取出した。
袋に入っていないので、テーブルに金貨800枚が山を作る。
付録の巾着に、数を数えながら入れなおしていく。
「なんて手触りの良い毛皮だ。これを袋として使うのは贅沢な」
金貨800枚よりも、付録のファー巾着袋に食いつくとは。
ラバンだったか、リバンだったか忘れたが、一応ブランドらしい。
「この毛皮はもうないのだろうか?」
「今は手持ちのそれしかありません。それとは別に、こういうのであればご用意出来ますよ」
花柄プリントされたポーチを見せた。
合成皮を使った可愛いポーチである。
チャック式なので、化粧品などの小物が入れられる。
「これは、また斬新だ。皮に直接絵が描かれているのか?」
「そうですよ。使い方は人それぞれですから、お金を入れるのも良し。ちょっとした化粧直しで化粧品を入れるのも良しです」
「どうやって使うのかね?」
「この突起を引いてみて下さい。開閉します」
「これは凄い!!」
開け閉めしているジョバンニに、初見でポーチを見せると大抵そうなる。
「生産ギルドに開閉部分の特許は申請してますので、チャックが生産できるようになれば好きな布でポーチを作ることも可能になります」
「流石、Cremaの会頭殿だ」
「あー……、私は今は会頭ではないんです。後任が育ったので、全権をアンナに譲り今は新しい事をするために根無し草になってます」
「何と!! では、美の魔法薬などは此方でも売って貰えないのですか!?」
何か凄い食いついてきた。
ち、近い。
顔が、めっちゃ近いです!!
身体を仰け反らし距離を取りつつ、
「美の魔法薬などの販路は、国外にも拡大する予定なのでギルドを通してアンナに相談してはどうでしょうか?」
「その手があったか……」
アンナ仕事を増やしてごめん、と心の中で謝っておいた。
「金貨800枚、数え終わりました」
ジョバンニとやり取りしている内に、ハンスが金貨800枚を綺麗に数えて10枚ずつ積み上げている。
「そちらの巾着とポーチは差し上げます。金貨800枚用意したので、確認お願いします」
金貨800枚を早速巾着袋に入れ始めた。
入りきらなかった分はポーチに入れている。
「確認出来ました。こちらが物件の書類です」
速読でザッと中身を確認し、書類にサインをして一部を返す。
「では、これでロッソ山は私の持ち物という事ですね」
「はい、購入ありがとうございました」
「こちらこそ、良い商売を」
握手を交わし、書類をショルダーバッグを通して拡張空間ホームに収納する。
「また珍しい品があれば、是非お持ち込み下さい」
「お値段は勉強して下さるなら」
ニッコリと笑みを浮かべて返すと、ジョバンニは肩を竦めた。
「それでは、ごきげんよう」
ロッソ山も手に入ったし、冒険者ギルドに寄って素材を売って帰ろう。
冒険者ギルドで地竜の素材を売ろうとして、ギルドマスターに怒られたりしたが、暫くの資金に困らないくらいの収入が入りホッと息を吐いた。




