171.ロッソ山へピクニック
ただいま、ロッソ山へ楽しくハイキングしています。
魔物と出合い頭にこんにちはと同時にさようならが待っている。
壁役のレナにヘレンが痛覚遮断と物理攻撃軽減の付与魔法を掛けてるので、ハンス・私・リオンが前線に配置され、遊撃としてニック・イスパハン・クインテット、後衛に留美生とイーリン・ヘレンの編成だ。
ゲルドは、宿でお留守番をして貰う事にした。
はっきり言って足手まといだから。
殲滅なら連れて行ってレベル上げしていたが、今回は勝手が違うので置き去りにした。
だって邪魔なんだもの。
留美生とイスパハンの力作の装備がまぶしすぎる。
リオンの獲物が双剣になっていた。
何時の間に刀を作れるようになったんだろう。
私は、須佐之男命から授かった刀があるのでそれを装備している。
限りなく和装に近いんだが、絶対あれは趣味だろう。
鑑定したらスパイダーシルクで織られた布を使っている。
なんて贅沢な!
攻防共に隙が無い防具というなの衣装に、恨めしそうに留美生を見るが無視された。
根付が、太陽の紋章になってるところは留美生の拘りなんだろうか。
入れ食い状態に魔物が来てくれるので、ワイバーンと地竜戦の肩慣らしには丁度良い運動になる。
戦力過多で文字通り『蹂躙』である。
クインテットには、ドロップ前に山賊の手で心臓と魔石を回収するように頼んでいるので、貯まるドロップ品に顔がにやける。
スキップしながら、ルンルン気分でハイキングを楽しんでいた。
「リオン、剣はどうや?大丈夫か?」
留美生が、リオンに刀の調子を聞いている。
「今のところ問題ない。」
「防具も今作ってるさかいな! リオンの男前度が上がるで!」
下種い笑みを浮かべている留美生の考えが手の取るように分かる。
奴は、良い着せ替え人形が出来たと喜んでいるんだろう。
まあ、リオンの見た目は美形だしなぁ。
随分大人びたクソガキだが、需要はあるだろう。
私の好みではないがな!
「そろそろワイバーンの住むところだ。気を引き締めろ」
イスハパンの言葉に私達は気を引き締める。
周囲を警戒しながら奥に進むと、ワイバーンの群れが上空をグルグルと飛んでいた。
運のお蔭か、ざっと見積もって大小合わせて300前後の数だ。
まずは交渉だ。
距離的に、いつも使っているマイクでは声が届かないだろう。
クインテットが作った『100キロ先にも届く拡張機』がこんな時に役立つとは思わなかった。
スチャッと拡声器を取出して勧誘してみた。
『ワイバーンの諸君、君らは冒険者ギルドで討伐依頼が発布されてるで! このままやと討伐されて終わりになりたくないやろ!? だから私と契約せんか!?』
ワイバーン語で語りかけたら、何か怒り出した。
あれれ?
どこに怒る要素があったのか全然分からないんだが。
首を傾げる私に対し、留美生が拡声器を取り上げて言った。
『姉が失礼しました。深くお詫び申し上げます。ですが、姉が告げた事には嘘偽りはありません。私達は貴方がたを討伐しに来たのではありません。どうか、私達にその高貴なお力をお借りしたいのです』
私の発言を謝罪し、ワイバーンの様子を伺っている。
何か私、ダメな子扱いされてなくね?
『人の子にして我等の言葉が分かる異端者よ、力を借りたいとはどのような事だ? 我等を図るつもりではなかろうな?』
盛大に威圧してくれているが、アベルの威圧に比べたら屁でもないわ。
威圧し返したら怒られるかな?
『我等の神、太陽神の天照大御神様に誓って貴方様を図る事はありません。我等が力を借りたいのは、我が仲間が危機に瀕しているからでございます。アトラマント帝国にて、今は内乱状態にあります。我が友であるリオン殿もこの内乱に巻き込まれ常に死と隣り合わせなりました。この内乱では制空権を握る必要があるのです。どうか、私達にお力をお貸し下さいませんか?』
留美生が頭を垂れると、空気を読んで皆で頭を垂れた。
『弱者に使役されるのも業腹だ。なら力を示せ。そして我等を納得させよ』
ちょっとイジケてたら、ワイバーンの長らしき者が力を示せと言ってきた。
『では一騎打ちで宜しいでしょうか?』
『一騎打ちか、構わんがお前が我の相手をするのか?』
『いいえ、私ではなく直接力を借りる事になるリオン殿の力を見て判断して頂きたいのです。どうでしょうか?』
『良かろう、ではリオンとやらと一騎打ちしてお前達が負ければ我等の餌になって貰う。其方が勝てば我等の力を貸そう』
留美生の意図が分かった。
これから戦争するための助力を乞うなら、軍主になるリオンが力を示さない駄目だ。
これから、こういう場面は多く遭遇するだろう。
今まで殆ど先陣切って戦っていたから、サポートする側に徹する必要があるな。
サポートは実際性に合わん。
そこは我慢が必要になりそうだ。
留美生が言質取ったとドヤ顔でガッツポーズしそうになっているのが手に取るように分かる。
滅茶苦茶声が弾んでいるもの。
「リオン、ご指名やで。一騎打ちして勝ったら仲間になってくれるって! サクっと勝ってきて頂戴や!」
「おい、何で俺なんだ!?」
「ワイバーンいるのはリオンの為に決まってるやん。これから軍主になるんやで! 私が力を示してどうすんねん。力を借りるリオンが力を示さんとあかんやろう。不満が出て爆発して内部瓦礫して軍どころじゃないで! それに何のために、その双剣を打ったと思うや? 攻撃と防御両方に特化してるんやで! この場で練習出来る事を幸いに思いーや! リオンの実力を見せつけてこい!」
言いたい放題言って留美生は、リオンを強制的にワイバーンの長の前に押し出した。
一騎打ちなら他は、観戦に回ることにし、攻撃が当たらないように多重結界を発動させながらお茶をしていた。
留美生は、リオンの雄姿をビデオに収めねばと撮影している。
それを撮影してどうするつもりなんだろう……。
待つこと数時間。
リオンが、ギリギリで勝った。
「約束通り契約するから、一列に並んでや~」
ワイバーンの長には、スサノオと名付けた。
勿論、由来は須佐之男命から取りました。
武神の神の加護がちゃんと付いている。
それとは別に饒速日の加護も付いている!!
飛行機の神様の加護があれば、飛行時の安全が保障されたようなものだ。
留美生は、ワイバーンゲットを祝して飯の用意をしていた。
「レジャーシートひいてやー」
留美生は、アイテムボックスから取り出したレジャーシートを近くにいたイーリンに渡した。
「お茶を淹れたさかい、人数分配っといて」
レナが座っていた奴らにお茶を配りだした。
留美生は、重箱二つとバケツプリンを数個取出した。
「右はおかずで左はおにぎりやからな。皆、合掌」
留美生の合掌の音頭で、皆目の色を変えた。
「「「「いただきます」」」」
ご飯は争奪戦である。
自分の分を確保する為に箸と箸が火花を散らす。
負けじと自分の皿によそおうとするが、横から掻っ攫われる。
未だにご飯にありつけない私に対し、留美生は自前おかずのタッパーと手に取ったおにぎりを食べるている。
ムカつくぅぅう! と睨みつけていたら、後ろから契約したばかりのワイバーンの声が聞こえてきた。
『うむ、これは美味いな』
よきかなぁーと副音が聞こえてきそうなワイバーンの声にバッと振り向いたら、デザートのバケツプリンに頭を突っ込んで食っていた。
「あぁーーーーーーーー私のデザートがっ!!」
留美生の悲痛な叫びを皮切りに、
「いやぁぁぁああ! デザートだけは死守したかったのにぃぃぃい!!!」
私を含め食意地の張った奴らが悲鳴を上げた。
『折角楽しみにしてたのに! バケツプリンは中々作ってくれへんねんで!! 吐けぇ!!』
食べ物の恨みは業が深いのだと、教育的指導をしたがガン無視でバケツプリンを食べている。
クソゥ、私のプリンが!!
悲しみに暮れてばかりではいられない。
この後、地竜との交渉が待っている。
フラストレーションも溜まってか、地竜に下僕か死かを選択させたら戦闘になったのでボコりました。
数分で死亡を確認。
呆気なかったわ。
地竜は討伐になったのだが、卵があったのでパチりました。
卵焼き美味しいよね!!
出汁巻き卵希望で! と留美生にお願いしたが、帰還中に孵化しました。
仕方なく契約したよ。
何気に紅唐白が、生まれたばかりの地竜に敵愾心を燃やしているのか、私の首を絞めてくる。
窒息するから止めてくれ。
余談だが、自分の名前が出汁巻き卵と覚えてしまい訂正出来ず、一同何とも言えない顔をしたのだった。




