170.討伐前夜祭
宿に戻ってきて、宿の裏手を借りてバーベキューしています。
だって、サイエスの飯が不味いんだもの。
男集団は、大降りに切ったジャイアントベアの肉を頬張っている。
塩コショウが効いて美味しいのは分かるが、頬を膨らませてリスのような顔をするのは恥ずかしいから止めてくれ。
「冒険者ギルドで何か良いクエストあったん?」
留美生が、肉串を返しながら聞いてきた。
「ワイバーンと地竜の討伐クエストがあったから、折角やし仲間にしようかなっと」
「そんな弱い魔物仲間にしても意味なくね?」
結構酷い良いようだが、普通ならワイバーンだって脅威なんだよ!
「討伐してしまった方が、早くないですか?」
ハンナ、お前まで……。
戦闘狂になってしまったのか。
「仲間にするという事は、レン殿が契約するということか?」
ハンスが思案するように問いかけてきた。
「そうだよ」
「……それは、些か難しいのではないだろうか。竜種は気性が荒いゆえ、契約出来る者も限られてくる。戦闘力は、純粋な竜に比べて格段に劣る」
「私が欲しいのは、空中戦力や! 実際、戦ったことあるから分かると思うけど空に逃げられたら厄介な相手や。魔法や弓の射程距離を取られたら、手出し出来んしな。この世界でワイバーンを契約している奴がどれだけ居ると思う? 地上戦だけでなく、空中戦も想定して仲間を作った方が死亡率は下がると思うで」
戦争屋じゃないから、兵法とか分からない。
しかし、地球では他国が毎日戦争でドンパチしているし、歴史から戦術を学ぶ機会は多い。
リオンに手を貸すのも、勝算があると踏んで手を貸したわけではない。
最終目的に有利に事が進むと判断したから手を貸すことにしたのだ。
「じゃあ、死なない程度にボコって契約するんやな!」
「留美生、ポケットでモンスターなアニメの見過ぎやで。対話を試みて、あかんかったら戦闘へ移行。適度にボコッて上下関係を魂に刻み付けてから、再提案。無視するなら、交渉決裂ということで討伐続行かな」
「いや、姉ちゃん。あんたの言ってることも結構酷いで」
「あんたよりは紳士的やろう」
いきなりボコりから入らないところが。
「そうすると、殺傷能力の低い武器が必要か?」
イスパハンが、顎に手を当てて呻っている。
私以外の武器が、殺傷能力が高すぎて怖い。
複合魔法を使っても、傷1つ付かない優れものだしな。
「HK416Cカスタムで翼を狙って撃ち落とすから、傷は最小限で抑える予定。みんな、いつも通りの武器で良いよ」
「地竜の方は、どう対応されますか?」
イーリンが不安気に聞いてきた。
ワイバーンよりは強いが、上位の龍には負けるだろう。
「以前、冒険者ギルドで魔物図鑑読んでたんやけど、防御特化で火・土・雷耐性がある。風魔法には弱いみたい。どれだけの硬さか分からんから、取敢えず全力でボコる。頭と心臓は残しておいてな。仲間になる前に死なれたら洒落にならんし。キヨちゃんは、今回出番なしやから大人しくしとくんやで」
と、紅唐白に釘を刺したらキューッと悲しげな鳴き声を上げた。
相性の悪い相手と戦って無駄に体力・気力を消耗しても無意味だし。
「ワイバーン戦では、活躍の場があるかもしれへんから」
膝の上にいる紅唐白の頭をなでなでしたら、キュッとやる気満々の声が上がった。
うちの子テラ可愛ゆす!
「留美生、明日のお昼ようにガッツリ食える飯作り置きしておいてくれ」
「あ、俺焼肉弁当希望っす」
肉を口に入れたまま、リクエストをしてくるワウルに、行儀が悪いとハリセンでどついた。
「いや、そこはステーキ丼が良いと進言する」
ハンスが、すかさずステーキを押してくる。
「いえ、ここはハンバーグでしょう!」
負けじとイーリンが、ハンバーグを主張する。
本当、君たち日本食に馴染んだね。
以前は、食事を楽しむこと自体してなかったと言っていたのに。
「弁当は明日のお楽しみや! 肉は入れたるからちょっと黙り」
それぞれの主張に辟易した留美生が、ストップをかけた。
「私は仕込みがあるから、あんたらコレ片付けときや」
「はいよ~」
日本に戻って人数分のお弁当をこさえるのか。
お疲れ様である。
「イスパハン、契約カルテット用の投擲武器を用意してくれん? 契約カルテットは、白朱の初陣に力貸したりや」
<お任せですの~>
<手取り足取り教えたんで>
<楽勝や>
サクラ、紅白、赤白が調子の良い返事を返す。
キシャーキシャーと楽白が、謎の踊りを始めたので多分任せろということだろう。
「今日は、ガッツリ食べてしっかり寝て明日に備えるで! 二日酔いになる馬鹿はおらんと思うけど、酒は程々にな」
お酒は水ですと言わんばかりに飲んでいるイスパハンをチラ見しつつ、バーベキューは続いた。




