167.ハルモニア出国
出国準備をしていたら、イーリンに気付かれた。
私用で辞表書いて国外出向するとゲロったら、ハンス・レナ・ニック・ヘレン・イーリンが漏れなくついてきた。
どうしてこうなった!!
元Bランクパーティーが勢ぞろいで心強いけど、君たちに振った仕事はどうしたのと聞いたら、
「後任は育ちましたので大丈夫です」
と頼もしい返事を頂きました。
死ぬ気はないが、これから戦争しに行くわけだ。
戦力はあった方が良いだろう。
「私の私用やから給与は出んで。それでも行くんか?」
「勿論だ」
「元々は冒険者。我らは根無し草ですからな。レン様が行くところならば、地の果てまで行きますよ」
「そうですよ! 伊達に冒険者やってませんから、レン様のお役に立てます!!」
「詳しい事情がどうであれ、レン様の意思に従います」
ハンスの即答を皮切りに、ついて行くぜ姐御的なノリで同行が決まりました。
同行者全員に辞表を書いて貰い自宅に戻り、パンジーにアンナに渡すように言づけた。
急遽同行者が増え、リオンに接触を図っていた男を拉致ってミスト領を出た。
中型車免許を取得させておいて良かった。
中型バス(Crema所有)を使って、一気に移動開始する。
バスに多重結界を張っているので、魔物を引き殺しても傷1つ付かない。
「魔物の遭遇率が高いんだが」
イスパハンが苦虫を噛みつぶした顔で行く先々を魔物に邪魔されるためフラストレーションが溜まっているようだ。
「あ……多分、それキヨちゃんと私のせいだと思われ」
「どういうことや?」
「キヨちゃんを鑑定した時、幸運のはずが運になっとったから多分全員が運で統一されとると思うよ。良くも悪くも引きが良い状態やから、魔物遭遇率は他人よりも高いやろうね」
巫女の耳飾り(改)も正常に作用して、これだから諦めの境地である。
紅唐白を孵化させた時点で、幸運は無くなったと思うしかない。
「この面子なら、相当な事が起こらない限り全滅する可能性はないだろう」
「ハンスの言う通りです。それで、商会を辞職してまで国外に出られる理由を聞きたいです」
レナが詳しい状況を聞かせて欲しいと催促してきた。
拉致ったおっさんにも、説明が必要だろう。
「リオンが軍事国家アトラマント帝国の第3王子で、王位継承権争い中で内戦1歩手前の状況を打破するために参戦し、正式に王位に就く手助けをする。そこのおっさん、素性は分かっているから嘘はなしな。Cremaがひと段落したら国外に出て太陽信仰を布教しまくるつもりやったしな。リオンが王位に立った時に、協力者としての地位を確立できて色々と便宜を図って貰う算段や」
「王位に就けたとしても、荒れた国を治めるだけでも精一杯になる。便宜を図ることは難しいと思うぞ」
眉間に皺を寄せるリオンに、
「別に直ぐ取り立てるわけやない。神社を各地に建てさせてくれれば、うちの目的は達成や。勿論、あんたの国が上手く回るように手は貸したるで。Cremaで過ごした日々で、自分のカードになる物はちゃんとあったやろう。上手く利用しろ。ただし、ハルモニアに手を出したら全力で潰すからな」
と言っておく。
公爵との顔合わせも、一歩間違えれば自分の首を絞めかねないものだが、リオンならジョーカーとして上手く使うだろう。
「俺としても、ハルモニアとやり合いたくない」
「まあ、それが賢明やな」
一市民がレベル200を超えている輩が軽く1000人は居る。
そして、今も育成している最中だ。
統率の取れた彼らは、王国兵よりも強い。
実際、アンナが兵の育成まで仕事で取ってきたからなぁ。
自衛のための強化は必要だが、戦争のための育成はしたくない。
しかし、世界はそんなに甘くはない。
国境を超えられ侵略されたら折角作ったCremaの存続が危ぶまれる。
それにアーラマンユの力を削ぐためにも信仰心を失墜させ、新たに太陽信仰で力を付ける必要がある。
「姉ちゃん、スマホ鳴ってんで」
マナーモードにしていたから気付かなかった。
「留美生、ヘレンは多重結界の維持宜しく」
「へいへい」
多重結界を継続使用するとなると、それなりに集中力がいるからね。
他の事をしながら、同時進行で魔法を使うとか無理!
スマートフォンを見てみると、アンナの文字が出ていた。
このまま拒否りたいが、出ないと何度も掛けなおしてきそうだ。
「もしもし」
『レン様! どういうつもりですか!!』
「以前から、国外に行く話してたやろう。それが、ちょっと早まっただけや。後任は育っているし、サイエスでのCremaの代表はアンナやん。私の目的に資金源として会社を作っただけやし、ある程度目的も達成したからな。次の行動に移る。私と同行している者は、全員退職届出しているから受理したで。退職届は、拡張空間ホームに入っているから確認して」
『そういう問題じゃありません』
「あのな、私の目的は会社の繁栄ちゃうで。そこ分かってて言ってるんか?」
思ったよりフラストレーションが溜まっていたのか、低い声が出てしまった。
『……そうでしたね。失礼致しました。退職は受領いたします』
「まあ、儲け話が出たらCremaに持ち掛けるから。それまで社員をしっかり守って育てや」
『分かりました。では、帰宅後にお土産話と儲け話を待つことにしましょう』
と軽口を叩かれた。
もうちょっと文句を言われるかと思ったが、流石商人引き際を見極めている。
「アンナ、Cremaを私物化したら潰すからな」
『トップは金を持つな、ですね。承知しました』
「それは私の信条やけど、高給取りなら相応の仕事と責任は負いや。じゃあ、気が向いたときに連絡入れるわ。何か困ったことがあったら連絡して」
『はい、ありがとう御座います』
ピッと通話を終了して、ハァと溜息を吐いた。
「何か物騒な会話やったけど大丈夫なん?」
留美生が、恐る恐る聞いてきた。
「ん? 嗚呼、問題ないで。辞表はちゃんと受領されたし、昔みたいにビジネスパートナーに戻っただけやから。アンナが商会を私物化することは無いと思うけど、一応釘は刺しとかんとな。全員これで無職になったわけやし、冒険者業しながら路銀を稼げばええんちゃう?」
「無職……嫌な響きやね」
「まあ、仕方がないわ。私と留美生、こっちでの無職やからあっちに戻ればちゃんと席は用意してあるで。お給料も最低限は入るから引き落とし関係は問題ないから安心し」
サイエスでの給与はないが、日本に戻ればちゃんと給与が振込まれているので、これはこれで複雑な気持ちになる。
でも、お金は必要なので貰えるものは貰っておこう。
残業代も休日出勤代も付かなかったのだ。
これくらいは特権と思うことにしよう。
「まずは、さっさとハルモニアを出国するで」
「おうよ」
アクセル全開で飛ばす暴走車に引かれる魔物から、山賊の手で心臓と魔石だけ抜き取りドロップ品は置き去りにして走り去った。
高速で移動する鉄の魔物が出没すると噂になっていたとは、私達は知らずにハルモニアを出国したのだった。




