164.とある徴収兵
俺は、エイジ。
元々は、ハルモニア王国の一般徴収兵だった。
ミスト領の元館跡地に学術都市ルテゥが建設されるという事で、転属願いを出して着任した経緯がある。
初代ミスト公爵の怨念が原因で街が廃れた経緯があった場所に、新進気鋭のCrema商会が町興しをするとの事で興味本位で来てみたのが本音である。
ミスト公爵の私兵と王国から派遣された兵を併せて総数200人程だ。
一般徴収された兵は平民だが、志願兵の殆どは貴族階級だ。
それを纏めて扱うとなれば、色々と気を遣うことが多くて憂鬱だった。
俺自身も王国に使える兵という事を誇りに思っていたし、腕っぷしにも自信があった。
同僚に比べれば将来有望株だと言える。
しかし、それもルテゥに来る前の話だ。
実際に来たら、移住を希望する人がごった返している。
見たこともない鉄の塊が縦横無尽に走る姿に、思わず口を開けたまま見入ってしまった。
運転していたのは、リオンという青年だった。
鉄の塊を動かしながら、建物を壊し、瓦礫の撤去をしたりして、あっと言う間に更地にしていた。
集められた兵達は、5人1組で実地研修という名の戦闘訓練が行われた。
そこに身分の貴賤はなく、『力が正義』という事実を体に叩き込まれる。
引率で付いてきた人は、Cremaの古株で冒険者でもない普通の従業員と宣う。
従業員は、一度戦闘になると容赦なく相手を殺した。
その殺し方がえげつなかった。
「大抵の魔物は、口と鼻を塞げば窒息死するので水魔法で顔面を覆います。魔物によって魔法抵抗や物理無効を取得している魔物もいるので、どの攻撃が有効かは最初の一撃で見極めましょう」
と、まだ幼さが残る顔で爽やかな笑顔と共に精密な魔力制御でWater ballを作って、Bランクのジャイアントベアを窒息死させた教官に恐れ戦いた。
「チルドル、普通は魔法を使える奴は少ないんだ。物理的な殺し方を教えるべきだ」
もう1人の教官が、物騒なことを言い始めた。
「あ、そうか。ごめん、ジャック。そこまで気が回ってなかったよ」
ジャックと呼ばれた者も、まだ十代前半の子供である。
なのに、勝てる気がしない。
「俺らは、魔物を誘導する仕事だ。戦闘は、こいつらがすればいい」
「いやいや、無理ですって!!」
高々レベル10程度の人間に、Bランクの魔物を狩らせるのは無理があるだろう!!
死ねと言っているようなものだ。
「死なないように鍛えるのが俺らの仕事だからな。多少怪我はしても、全快出来るようにポーションもたんまり持ってきている。それに、ちゃんと役割をこなせば死なん」
ジャックが指す役割とは、壁役・攻撃役・回復役・遊撃役である。壁役1人、攻撃役2人・回復薬1人・遊撃役1人の計5人という計算だ。
回復薬は回復魔法を使うわけではなく、ポーションを使うタイミングを計る人物を指している。
遊撃役の班と付与師班があるが、平均レベルが全員10~20前後では役割を与えたところで意味があるのかどうか疑問だった。
「魔法や物理耐性のある魔物は、毒薬を投げつけて動きが鈍ったところを仕留めるのも有効です」
チルドルは、ウエストポーチから取り出した試験官を襲ってきたベヒーモスに投げつけていた。
振り上げられた拳が振り下ろされることはなく、ベヒーモスの体が崩れ落ち口からは泡が吹いている。
「流石、レン様が調合しただけあります! 効果は抜群ですね」
「いや、それ失敗作って言ってたぞ」
ベヒーモスを一撃で倒せる薬を作るレンは一体どんな化け物なんだ。
「じゃあ、実践していきましょう。気絶している間に四肢を切断して、動けなくなったところを総攻撃です。危なくなったら手を出しますので頑張って下さい」
「俺は、次の獲物を連れてくるわ」
ジャックがその場を離れてしまい、ニコニコと槍を片手に訓練ですよと急かされるまま、30人かかりでベヒーモスを倒した。
それから教官は、交代でB~Aランクの魔物を連れてきては戦闘の繰り返し。
睡眠時間は平均5時間。
常に死と隣り合わせの環境で、ケロっとしているのは教官の2人だけである。
強化合宿が終わる頃には、最低でも1人がBランクの魔物を狩れるくらいには成長した。
そして、色々と達観し身分ではなく実力が物を云う世界なのだと叩き込まれたのだった。




