159.暴走集団クインテット
アンナと私が留美生のアトリエから出て行った後、契約カルテット+αは不満を言い合っていた。
<留美生の素材使っても良いていったのに、あの鬼婆>
<マウス飯がず~っと続いているのに、いい加減普通の飯も食わせろ>
<サクラは、甘い物が食べたいですの>
楽白は、サクラの言葉に賛成とばかりに前足を上げて謎の踊りを披露した。
<しかし、これから安易に素材を使うとあの鬼婆が文句言うで>
紅白の言葉に、一同沈黙が続いた。
そんな中、唯一お小言から逃げ切った白朱が身体をくねらせ赤白と紅白に一生懸命に何かを伝えている。
一通り聞き終えた2匹は、フムフムと頭を縦に振り頷いている。
<確かにお前が一番マークされてへんしな。よし、白朱が素材強請り担当や>
紅白の言葉に、サクラがキョトンとした顔で言う。
<主が寝ている時におねだりすれば良いと思いますの~>
<いや、それをしたところで覚えとらんから、パチったと思われるだけや>
赤白が、サクラの提案を却下した。
楽白が、前足を縦にフリフリして訴えている。
<なんや楽白。スマホで録音? 証言を押さえればOK?>
赤白が、楽白の言いたいことを通訳している。
<そもそも、蛇に蜘蛛にスライムやで。まず操作出来んで。念話でしか意思疎通出来んし、持たしてくれへん>
楽白が根本的な事を指摘したら、楽白はガーンッと暗雲を背負っている。
<そこでや! 今、1番マークされず警戒されてへん白朱が素材のお強請りをするんや。身内贔屓で見ても可愛いからな。キュルンとした目でじ~って見続ければ、何に使ったとしても怒られへん>
「おーい、そこの暴走集団クインテット。私がここにおる事忘れてへんか?」
名案だと威張る赤白に対し、留美生が突っ込みを入れた。
<留美生かて良い素材欲しいやろ。白朱を使って素材をゲット出来たら、横流しすんで>
「まあ、そうやけど。ケチな姉ちゃんが、そう易々と素材くれるか?」
<最近、花令はワシらの身体触ってへんし。紅唐白のお守りだけしかしとらんから、白朱の可愛い顔とツルツルボディで悩殺すれば成功するで>
「……確かに。そう言われると、成功する可能性があるな。ボイスレコーダーならあるから、それ上げるわ。ボタン式やから、あんたらでも使えるやろう。精密機械やから扱いは慎重にな。証拠になる音源は録音するんやで。花令が何か言ってきたら、それを再生してギャフンと言わしたれ」
赤白の横流し発言に、留美生はニヤッと悪どい笑みを浮かべて昔仕事で使っていたボイスレコーダーをクインテットに渡した。
一通り使い方を教えて、ちゃんと使えるかチェックしている。
留美生としても、高価な素材は頭を下げて貰う。
それが苦痛だった。
一々使い道を聞いてくるし、作った物は片っ端から取り上げられる。
それに、使った素材で余った物も一緒に巻き上げられる。
余った素材で作りたいものがあっても、作れないのでイライラが溜まる。
「白朱ちゃんばかりやと不自然から、あんたらも5回に1回はローテーションで花令を誑かすんや! 上手く行ったら間食用にお菓子用意したる」
<普通のご飯に戻してや>
<そうやそうや>
<普通のごはんが食べたいですの>
キシャーキシャー。
本当に食に忠実な奴たちだ。
しかし、それを許容すると怪しまれる。
「普通のご飯に戻すのは、徐々にしたる。急に普通のご飯にしたら、花令に怪しまれるからな」
<それなら、仕方ないわ。じゃあ、間食用のお菓子は豪華にしてや>
赤白が、そこはしっかり念押ししてきた。
本当、誰に似たんだか。
「分かった。あんたらも、花令から素材のお強請りと証拠の音源はちゃんと残しておきや。言った言わんかったの水掛け論にならんように。証拠は大事やで」
留美生は、しゃがんで赤白達に言い聞かせた。
そして誕生した暴走集団クインテット。
高性能なのに使い道がショボい物ばかり生み出し、花令が発狂し言質を取られてアンナから減俸処分を下されるまで後3ヵ月。




