157.急ピッチで街を建設中です
急ピッチで建物が建てられている。
プレハブで出来た家である。
二階建ての簡易アパートが、区画に分けて建てられている。
ファミリー向けの戸建てタイプも用意してある。
北東に元公爵の館跡地に神社を建設、街の中央には学校を建設中だ。
それを取り巻くようにプレハブの家が建てられていく。
街の外壁修繕も同時進行で行っている。
人手も足りず女子供も容赦なく働く環境に、誰一人文句も言わず従順に指示に従って働いている。
基本的に女子供は、料理と洗濯に従事している。
プレハブの家は建つが、街の整備が終わってない上、貸し出すにしても人成りを見ておきたい。
ご近所トラブルとか、犯罪者とか居たら嫌だしね。
整備が終わるまでは、テント暮らしになる。
それでも不平不満が出ないのは何故なんだろうと思い聞いてみたら予想外な答えが返ってきた。
「旨い飯が食えて、金も貰える。街が出来たら住めるとも聞いたんだ」
私は、絶句した。
一体どこからそんな噂が出たんだ。
確かに飯は旨いだろう。
香辛料を惜しげもなく使っているし。
お金も食費込みで成人男性は危険手当付きで金貨1枚、女性は銀貨8枚、子供は銀貨5枚。
1日8時間労働の格安でコキ使っている。
街が出来れば、住居を貸し与える予定ではあるけれど、ただで住む場所が貰えると勘違いされてないか?
「住むにしても家賃は取るし、部屋を購入するならお金は払って貰うよ?」
私の言葉におじさんは、笑った。
「そりゃそうだろうよ。誰もタダで家が貰えるなんて思っちゃいねーよ」
なら良いんだが、噂が変な尾びれ背びれが付いて話が大きく変わっていたら困る。
「アンナ、1回通達した方が良いと思う?」
「そうですね。集まってきている人全員受け入れるわけではありませんので、1度今後の街の滞在について説明する必要はあると思います。訂正するなら早いに越したことはありませんので」
「じゃあ、夕食時に説明会もしておこう。最先端技術を生み出す街にする予定だし、住人にもそれなりの教養は求められることを知ってもらう必要はあるからね」
「住人になるには、読み書き算術が必須になると平民は難しいと思いますよ。商人でもそれなりに稼いでいる者でなければ習いませんから」
アンナは唇に人差し指を乗せて呟いている。
その癖は煽情的で色っぽいが、ちょっと目のやり場に困る。
「勉強半分、仕事半分でやって貰うし。読み書きや算術が出来たら給与を上げて正社員として雇うことを前提にしていれば、やる気出して頑張ってくれるんとちゃう?」
「そうですね」
話しながら移動して、建設中の神社に顔を出すと見習いから卒業した巫女達が迎えてくれた。
ルーシーが、神社建設の指揮を執っている。
パッと見は完成しているように思えるが、細かいところがまだらしい。
「ルーシー、お疲れさん。進捗はどうや?」
「レン様、アンナさん! お疲れ様です。留美生様が作られた重機のお蔭で建設が捗りました。後は、細かいところを手直しすれば完成します。社務所やお守りを置ける場所も作りましたよ」
ルーシーの案内で出来上がっている場所を見せて貰った。
日本で建築現場を視察させた甲斐があったわ。
「これならアベルも文句言わんやろう」
アベルのやつ、私が日本に居る時を嗅ぎつけて道真のところに通っているしな。
奴曰く、神様の心得を教えて貰っているのだとか。
それは建前で、日本をがっつり満喫しているように思うのは私だけだろうか。
「アベル様の注文でこの作りになりましたので、文句はないと思いますよ~」
「は? アベルが出てきたん??」
「いえ、私は見てないんですけど神託を獲得されたルーチェさんに伝言されたそうです。しかも、映像まで見せて頂いたとか。その後、ルーチェさんが紙に絵を描き起こしてくれたんです。本当に助かりました」
見習い卒業したばかりの子が、神託のスキルを取得しているとは思わなかった。
相当頑張ったんだな……。
しかし、アベルの奴はがっつり自分の趣味を押し付けているのか。
ルーチェが絵下手だったらどうするつもりだったのか。
「ルーチェに今のところ文句は言ってきてないんやな?」
「はい。特に文句は言ってません。後は、留美生様が作っている像が完成したらお祀りするだけです」
元はアンテッドエンペラーの癖に、冥府の番人に変わってから偉そうだ。
一片〆るか。
「留美生はアトリエにおるんか?」
「恐らくは」
「ルーシー、ありがとう。この調子で頑張ってや。後、これ皆で食べえ。うちからの差し入れや」
北海道の名産生キャラメルの切れ端が詰まったお得パックである。
「こ、これは噂の華牧場の生キャラメルですか!?」
「せやで。切れ端を集めたもんやけど、味は変わらんし今ここに居る人らで食べ。他の人には内緒やで」
唇に人差し指を乗せシーのポーズを取ると、コクコクと頭を高速で縦に振っている。
甘い物は別格だし、この世界では甘味は貴族階級が口にするものと位置づけられている。
でも、私には関係ないもんね。
「じゃあ、留美生のところに行ってくるわ」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
おうおう、背後から元気な声がするよ。
皆、現金なんだから。
クスリと笑みを零した。
アンナを連れて神社を離れ、索敵で人が周囲に居ないのを確かめてから拡張空間ホームの留美生のアトリエに顔を出した。
「留美生、作成捗っとるか?」
「ん~、後少し~」
素材があちこちに散乱しているので、足でそれらを踏まないように進んだ。
留美生が像を鑢で微調整しているところを眺めていたら、作業着のポケットから見覚えのある物を発見した。
「ん? これ……キヨちゃんの鱗やん!! 何勝手にキヨちゃんから鱗剥いでんねん」
手加減なしの張り手を脳天にかましたら、像を持ったまま頭を抱えて呻いている。
「うちのキヨちゃんに何さらすねん。殺すぞ」
襟首を掴み上げると、グエッと変な声を出す留美生がいた。
「ちょっ、これは落ちてたんや。紅唐白ちゃんから無理矢理取ったんとちゃう」
「お前が、キヨちゃんを頬擦りしまくってたのは知っとるわ。気絶させるくらいの雷喰らったんやから絶対取った!!」
嘘つくんじゃねえ! とばかりに締め上げると、
「嘘ちゃうもん! 大体、あんたが紅唐白ちゃんを置いてきぼりにしたからご飯食べられずに怒ったんやで。うちのせいちゃうもん」
そう言われてみれば、紅唐白が私の食事を邪魔したのはご飯が食べられなかった腹いせなのか?
留美生は嘘を吐いているように見えないので、一旦襟首から手を離した。
ゲホゲホ言っているが気にしない。
「拾ったならまず、私に渡すもんやろう。何で勝手にポケットにないないしてんねん。ぶっ飛ばすぞ」
「だって、紅唐白ちゃんの鱗欲しかったんやもん。今回の像も、それが無いと完成しないから貰っただけやもん」
「ババアが、もんもん付けるな。気色悪い」
「酷い!!」
うわーんと泣き真似をする留美生を軽く小突くと、チッと舌打ちして気色悪い泣き真似を止めた。
「素材が必要なら私に渡してから要求しろ、カス。次、同じことしたら減俸やからな」
「分かった」
ケチケチせんでも良いのに……などとブチブチ文句を言っているが、ギロッと睨んだら黙った。
「それで像は出来たん?」
「うん。後は研磨して磨けば完成やで。王都の像と遜色ないものが出来たわ」
えっへんとツルッペタな胸を張る留美生に、ハイハイご苦労様と適当に流したらブーブーと不満を言い出した。
「契約カルテット達の様子も見に来たんやけど、あいつらどこにおるん?」
「多分あの辺にいると思うで。適当に素材渡してあるから、何か作ってんのとちゃう」
留美生のその辺が、素材と作られた物でごちゃごちゃしているから契約カルテット達が見つけられない。
これは念話かなーと思っていたら、向こうから念話が飛んできた。




