156.書類地獄
留美生が車を改造して重機車にしていた。
そのお蔭で街の復興も進んでいるのだが、この世界ではオーバーテクノロジーな事を自覚して自重して欲しい。
シュバルツを迎えに行ったり、クロエが指定した土地に神社を建設したりと忙しい日々を過ごしている。
現場監督は全て部下がしており、私はまたしても執務室に缶詰状態である。
書類仕事したくなくて高飛びを計画していたのに、目論みは全部潰れて今は書類の山に埋もれている。
Cremaはアンナに譲ったのに、何で私が働いているんだろう。
給与制の会頭って一体何だろう……。
最近、1番疑問に思っている事だ。
演算も高速演算に進化したし、並列思考も役に立っているので書類整理はサクサク進む。
ただ、言わせてもらえるなら腱鞘炎にはなりたくないで御座る!!!
処理速度が上がっても、その都度追加される書類。
アンナめ、いつか仕返ししてやる。
紅唐白は、デンッと私の膝の上から動かないし。
時々、尻尾で腕をバシバシ叩き撫でろ催促されるくらいだ。
「私も現場で働きたい……」
空が青いなぁ…なんて黄昏ながら外を眺めていたら、いつの間に入室したのかアンナが、
「書類を全部片づけてから仰って下さい」
とのたまた。
しかも、追加の書類をデンと机の上に乗せてくる。
「ちょっ、何で増やすん!! 私ばっか書類仕事押し付けんなや」
「実務も立派な仕事です。神社建設と絵本等の作成はレン様が指揮を執ることになってますので、その書類です」
「Cremaで仕事取ってきたやん。アンナが社長なんやし、アンナが決済すれば済むことやろう」
鬼畜と喚いたら、
「黙って働け」
と絶対零度の視線と共に暴言を頂いた。
「クロエ様に都市構想の草案を清書するようにと言い使っているのは誰ですか? 私ごときが、どうこう出来るわけないでしょう。緊急なものから書類を持ってきているだけ有難いと思って下さい」
「ううっ……アンナが虐める」
「ちゃんと睡眠時間と休憩時間は確保してるじゃないですか。しかも、休憩時間と睡眠時間を使って日本に戻ってぐーたらしているのも知っているんですよ」
ゲッ、ばれてたのか。
ダラダラと冷や汗が止まらない。
「ずっと缶詰なんやもん。それくらい許してくれてもええやん」
「許容している代わりに書類仕事しろと言っているんです。他の者にバラしたら、滅茶苦茶怒ると思いますよ」
「ぐっ……仰る通りで」
1人だけ時差を利用して遣りたい放題しているから、バレたら収集が付かなくなるのは目に見えている。
それに、契約していない人間もいるから異世界の行き来がバレるのは拙い。
「街はどれくらい復旧が進んでるん?」
「留美生様とイスパハンがボックスカーを重機に改造してしまったのは遺憾ですが、そのお蔭で瓦礫撤去などが捗って、今は街の8割が更地になっております。留美生様は、アベル様とアナスタシア様の像の制作に入っております。後、戸籍の一覧表も作っております」
差し出された紙の束をピラピラと捲ると、ざっと1000人ほどの名前が書かれている。
「意外と多いな」
「はい、浄化した後に訪れた者の中にアベル様の呪いが解除され健康になったことで噂が噂を呼び人が集まっているようです。最もそれだけではないようですが」
「と言うと?」
「炊き出しで調味料をふんだんに使った料理や甘味が目当てな者のいるみたいですね」
成程、胃袋を掴まれた系か。
「人手はあった方がええけど、誰も彼も受け入れるわけにはいかんしなぁ」
悪党やアーラマンユ狂者だったら、即追放したい。
「戸籍に乗っている者がこの街に全員住めるわけではありませんから、その辺りはご安心下さい」
「どういう事?」
「街の整備、神社建設が終わり次第、全員ご神体に合わせますので、そこで天罰が食らうものは追放という事です。既に紅唐白様が、レン様が居ない間に天罰を下していたので、その者達は追い出しています。勿論、マークも付行けてますので、街に入れないように致します」
何か徹底しているなー。
キヨちゃん、何気に活躍しているのね。
「契約カルテット+αはどうしてるん? 丸っと留美生に丸投げしているけど、こそこそ変な物作ってないやろうな?」
「像制作に尽力していると伺っています」
暴走集団契約カルテットに白朱が染まってないと良いけど。
忙しさにかまかけて放置していたから、1度顔を見ておこうかな。
「像制作の進捗も気になるし、ここにある書類が片付いたら街の見回りしてもええか?」
私の言葉に、アンナは眉をひそめたが暫しの無言の後に是と答えた。
「……少しだけですよ」
「分かってる。じゃあ、直ぐ片付けるから少し待ってて」
終わりが見えているとやる気が出るね。
ばっさばっさと書類を捌き、1時間程度で書類の山が無くなった。
「いつもこれ位やる気を出して下されば良いものを」
「その言い方やと私がサボっているみたいに聞こえるやん」
「手抜きしているのは事実でしょう」
「……」
痛いところを付かれて思わず無言になる。
書類仕事よりも身体動かしたいんだ私は!
そんな事言おうものなら今の倍もの書類の山が積まれるのは分かっているので言わないでいる。
「じゃあ、視察に行こうか」
紅唐白を肩に乗せて、執務室を後にした。




