153.事後処理
城を出たところで、ミスト公爵の家紋が入った馬車が出迎えてくれた。
私とシュバルツが王城に押し掛けたことが、クロエ夫人には筒抜けだという事か。
恐ろしい情報網を持っているな、あの人。
王都の滞在時間なんてザッと見積もっても4時間くらいだ。
まあ、40分ママチャリを時速20Kmで爆走していたからな。
目立っていたのかもしれない。
「閣下、お迎えが来ているみたいなので私はこれで」
シュバルツを置き去りにして帰ろうとしたら、服を鷲掴みされた。
「どこへ行く気だね、レン」
「自宅に戻るだけですけど」
「そんな言い訳通用するか! 色々と聞きたいことがあるから同乗するように」
うげぇ、面倒臭い事になった。
ぶっちゃけクロエ夫人は苦手なんだよね。
腹に何を隠し持っているのか分からないくらい色々抱えこんでいるヤリ手の公爵夫人。
正直、相対の対話だと負ける自信がある。
「じゃあ、Cremaに寄って貰えます? 私の秘書を同行させたいので」
「良かろう」
私は、公爵の馬車に乗り込み念話でアンナを呼び出した。
<アンナ、ちょっと良いか?>
<レン様、私を置いて行くなんて酷過ぎます!!>
<アベルの出した条件は飲ませた。誓約書が拡張空間ホームの私のフォルダーに入っているから確認してくれ。後、Cremaに向かってくれ。今から公爵家の馬車で迎えに行く>
<了解しました>
私の指示に、アンナは不機嫌な空気を収めて仕事モードに切り替わる。
一々説明しなくても大体は把握してくれるので、本当有能な秘書だ。
まあ、勝手に留美生と共同で要らんことをしでかしてくれるが。
「ミスト領から一瞬で王都へ来れたのは、レンの魔法か?」
「魔法ではありませんよ。魔法を発動する時のスペルを言葉にしてませんし、発動時の魔力放出もなかったでしょう」
「そうだが、何かからくりがあるのではないか?」
食いつくなー。
一瞬で移動出来るなら軍事転用を考えるだろうが、ネタバレする気はさらさらない。
「企業秘密です。自ら手の内を明かす馬鹿はいませんよ」
説明しろと言われれば説明できるが、する必要性がないし、したら軍事利用されかねない。
国に飼われる趣味はないしね。
ジト目で私を見つめてくるが、ガン無視したら諦めた。
「口を割らないか」
「割りませんよ。でも、ヒントだけ教えておきます。精霊関連です」
「精霊魔法を使った形跡はなかったが」
「これ以上は言えません。閣下も精霊使いなのですから、ご自身の精霊に聞いてみては如何ですか?」
答えてくれるとは限らないし、そもそもパンジーの存在自体が特殊なので他にドモヴォーイが存在するかは分からない。
精霊自体が専門外だし。
アベルは大精霊の加護を持っていたから、精霊契約の仲介人も兼ねて貰えば、信仰心も集まりやすいかもしれない。
これは、留美生達に要相談案件だな。
「分かった。瞬間移動に関しては聞かないで置こう。しかし、アベルの件はどう説明する」
「陛下の前でも言った通り、交渉したと申し上げましたが」
「レンがレベル400と云うのも眉唾物だが、更に4.5倍のレベル差のある者と交渉など出来るはずがない」
レベルだけで見れば、レベル1の勇者がレベル99のラスボスに戦いを挑むようなものだ。
日本のことは話せないし、どう言いくるめようか。
言い訳を考えるのに、思考が高速回転する。
スキルで演算を獲得していたが、並列思考を取得おこう。
今の私だと上手な言い訳が考えられない。
並列思考取得にポイントを500pt、25まで上げるのに5万ptを消費した。
勝手に使ったから、後で報告しないと怒られるな。
「Cremaに出された街一帯を浄化した時に、アベルの妻アナスタシアから救って欲しいとブローチと共に託されました。最初は、怒り狂って手が付けられませんでしたから多重結界で防戦一方でした。ある程度攻撃させて少し冷静になったところで、ブローチを見せて交渉をしました。神になる提案をしたら、話が突拍子もなく真実味がないというので、実際に人から神になった方を紹介して納得頂いた次第です。先に言っておきますが、私は神託のスキルがありますので神との交信も可能です」
自由自在と言うわけには行かないがな!
「人が神になるなど聞いたことがない」
「歴史に消されているのではありませんか? アーラマンユ教は一神教なので、他に神が存在したら都合が悪いでしょう」
宗教戦争とかあるし、この世界でもアーラマンユ以外の神を信仰している可能性も大いにある。
そういう人に行きついていないが、いずれ出会うかもしれない。
出会った時は、その宗教も取り込んで布教してやる。
そして、アーラマンユの神通力をそぎ落とすのだ!!!
「……確かに、そう言われるとあり得る話だな」
「民話や童話を調べてみるのも良いかと思いますよ。リサイクルに出された街は、Cremaが主体になって街を作り直しますので人員の確保お願いします。ちゃんとお給料も出しますので安心して下さい」
「いや、街の復興にはミスト家からも援助しよう。人員と金は用意する」
元々が廃墟なので復興と同時に移住者を募り、領主が自ら職も与えるとなれば領主の株は上がる。
Cremaに美味しいところを全部持って行かれるのは困るということか。
全額出しても良いが、後々ミスト家との友好を考えたら負担して貰うところは負担して貰った方が良いだろう。
「では、共同出資ということでどうでしょう? 将来的には学術都市として機能して貰いたいので、移住者については最低でも読み書き算術は出来るように指導しますが宜しいですか?」
「民に読み書き算術まで覚える必要があるのか?」
「識字率が高いほど、経済が安定します。例えば、字が読めず悪どい商人に騙されることもなくなります。読み書きが出来れば書物を読み知識を増やすことが可能です。算術が出来れば、つり銭を胡麻化されることもないですし、有能な商人や経理士が生まれます。安定した収入に繋がり、自分の力次第で貧困から脱出することが可能となる。無能な貴族より有能な民を青田刈り出来るチャンスですよ。そう考えると、実に良い話ではありませんか?」
有能な者は、片っ端からCremaに勧誘するけどね☆
「成程、それは興味深いな」
「これを機に実験的に初めてみては如何ですか? 上手くいけば、ミスト領の全土で徐々に導入するのもありだと思います」
「検討しよう」
よしよし、掴みは悪くはない。
都市構想を議論していたら、Cremaの本店に着いていた。
アンナは店の外で待っていた。
アンナを馬車に乗せ、王都にあるミスト公爵の館へと向かった。




