147.緊急事態発生
1年くらいぶりの生理が来ました。
生理不順を通り越して、全く来ない生活をしていたから、すっかり忘れていたよ。
1度来たら確実に3日はベッドから起き上がれない。
汚れた下着をCleaningで綺麗にして、ナプキンを付けてキリキリと痛む腹を押さえながらヨロヨロとアンナのところに向かった。
痛み止めも飲んだが、気休め程度にもならない。
アンナが泊っている部屋のドアを軽くノックをすると、ドアを開けてくれた。
「レン様どうしたんですか? 顔が真っ白ですよ」
「生理痛だから気にしないで」
「え? レン様って生理が重い人だったんですか?」
目を点にして、吃驚みたいな顔をしないで。
「うん、重いを通り越して起きられない人です。自宅に引き籠りたいけど、戻ったらサイエスに来る時王都の自宅に繋がるから、ミスト領内で適当な物件を1つ買いたいねん。日本で過ごした方が何かと都合が良いし」
主にトイレ事情だが、その辺りは何となく察してくれたのか、アンナは嗚呼と頷いた。
「商業ギルドで公爵家の館に近い場所で一軒家を購入しましょう。簪を卸す際に店がある方が都合が良いですしね」
「じゃあ、痛み止めが効いている内に行こう」
「分かりました」
念話で留美生に商業ギルドに行く旨だけ一方的に伝えて宿を出た。
真っ白い顔でフラフラしながら商業ギルドまで歩くこと30分。
足取りが滅茶苦茶重く、いつもよりも倍の時間が掛った。
迎えてくれた職員の方も、ギョッと目を見張るよな顔で私を凝視するのは止めてくれ。
「レンと申します。公爵様の館から近い場所で空き家を購入したいのですが、良い物件はありますか?」
「レン様ですね。噂は伺っておりますよ。私はトレニーと申します。どのような用途でご利用されますか?」
「お店を開く予定ですが、住居もあるのが良いですね」
「畏まりました。幾つか物件を用意致しますので、こちらに掛けてお待ち下さい」
背もたれの無い椅子を勧められ、腰を下ろそうとしたら、アンナが拡張空間ホームから車椅子を出してきた。
「ちょっ、アンナ。行き成りそれだすんかい」
「座るのも辛いでしょう。これから物件を見るとなると移動もありますし、最初からこれに乗って頂ければ(私が)楽ですから」
何か副音が聞こえた気がするが、一々相手にするのも辛いので、アンナの提案に乗っかることにした。
車椅子に座ると、ディゼニーで買ったブランケットを膝の上に掛けた。
室内だから寒くはないが、腹を温めるので多少は痛みが和らいでくれると御の字だ。
そうこうしている内に候補の物件を携えたトレニーが戻ってきた。
「そちらは、見たことがないものですね。人を運ぶものですか?」
トレニーの目が、獲物を狩るような目になった。
ギラついていて怖い。
「車椅子と言って、病人や怪我人などを簡単に運ぶ道具です」
「お年寄りや足の悪い方には、喉から手が出るほど欲しがりそうなものですね。お売りになる予定はありませんか?」
「今のところは量産する目途がありませんので」
「量産の目途が立てば販売もあるという事ですね」
フフフ、ホホホと笑い合う2人が怖い。
どちらも目が¥マークになっている。
「レン様のご希望に添えそうな物件を幾つか用意してみました」
公爵家から徒歩で30分から1時間前後の場所で探してくれたみたいだ。
間取りなども見て、酒場兼宿の物件を見つけアンナに打診してみた。
「これ悪くないんちゃう?」
「そうですね。1階部分を改装すれば、宿の部分は住込み従業員の部屋として使えます。倉庫もありますし、馬小屋もありますね」
値段は白金貨5枚と高いが、立地も公爵家から徒歩30分ほどなので悪くはない。
色んな店がひしめき合っているし、各ギルドに行くのも交通の便は良い。
「1度下見してから購入を検討したい」
「では、ご案内致します」
トレニーの先導でアンナに車椅子を押されながら、紹介された物件を見た。
作りはしっかりしているので少し手を加えれば、趣向のある内装になるだろう。
2階部分はアンナに確認して貰い、問題なしのお墨付きを貰ったので購入することにした。
商業ギルドに戻り書類を書いたりして手続きを済ませ、お金と引き換えに鍵を貰う。
「レン様は即決即金で手続きして下さるので、本当ありがたいです」
ニコニコ現金払いが1番。
ローンを組む手もあるが、金利が勿体ないし、お金に困っていないならサクッと払った方が後腐れもない。
まあ、私が家を買う時は訳あり物件を安値で買っているんだが。
今回は私の体調が悪いのと、利便性も考えての購入だ。
「そう言って頂けると嬉しいです。ありがとう御座いました。良い商売を」
トレニーと握手を交わし、早速宿に戻りアンナに日本で2~3日過ごす旨伝えた。
甚く心配されたが、パンジーがいるので身の回りの世話はしてくれるから問題ないと伝えた。
車椅子はそのまま拝借して日本の自宅に戻り、パンジーに公爵領で購入した自宅の鍵を渡した。
パンジーを通して、これで公爵領の自宅に出ることも出来るはず。
私は、パジャマに着替えカイロin腹巻きを装備して生理痛と戦ったのだった。




