145.経過報告をしましょう
ミスト公爵の館近くの宿に研修生達を残して、リサイクルに出された街の件でと至急話たいことがある旨早馬を出した。
アベルには手加減の上のスキル『師範』を取得させた。
スキル取得に10万ポイント、レベルを50まで上げるのに130万ポントを消費した。
アベルが持っていたポイントから出させたけど、上位スキル取得で140万ポイント使うことになるとは思わなかった。
ミスト公爵の館に向かったのは、私と留美生・アンナ・リオンと元凶のアベルである。
厄災級魔物なので、憲兵に止らりたり、公爵家の私兵に止められたりと中々進まずアベルがイライラし始めたのが恐ろしかった。
宥め透かして何とか館に着き、公爵と面会できると聞いた瞬間、思わずホッとした。
何で王家のいざこざを私が関わらなければならないのか。
それも留美生が、リサイクルなんてものを勝手に発案してやり始めたのが原因だ。
恨めしそうな目で留美生を睨みつけると、サッと顔を逸らされた。
「レン様、仕事中ですよ」
アンナの冷ややかな声に、私は姿勢を正した。
クッ、アンナが居なかったら留美生をボコボコにしてたのに。
「分かってます」
「そう、なら良いのですが。私が居なくても、人様のお家で乱闘などしようなど考えないで下さいね」
私の考えを読んだかのような言葉に、思わずヒッと短い悲鳴を上げた。
「姉妹喧嘩するなら人気がない森とかでして下さい。人的被害が出たら給与から差っ引きますよ」
「お前、給与制なのか?」
アベルが、空気を読まずに地雷を踏んだ。
「今をときめく新進気鋭のCremaの社長ですよ。まあ、隠居したくて私に全権を委ねたお馬鹿さんですが」
「酷いぃぃい! 最後のは聞き捨てならないんやけど」
納得出来ないと抗議したら、アンナがハッと鼻で嗤った。
「私に全権を渡しても隠居出来ると思っていたところが、お馬鹿さんだと言うんですよ。働けるなら馬車馬のように扱き使うに決まっているじゃないですか」
ポムッと肩を叩かれ、振り向くと留美生が輝く笑顔で親指を立てて言った。
「どんまい☆」
「留美生様も、働けるまで馬車馬のように姉妹揃って働いて貰いますから」
アンナは、留美生の隠居生活もプチッと潰して安月給で働かせると宣言している。
留美生は顔面蒼白になり今にも灰になりそうだ。
「どんまい♪」
キラッと滅茶苦茶イイ笑顔を作って親指を立ててやった。
そしたら、あろうことか私の親指を鷲掴みにしてへし折ろうとしてきた。
「痛っ…痛いわ! たく、折れるかと思ったやんか」
ガスッと手加減せずに留美生の頭をしばいたら、
「姉ちゃんのせいや! 私は後任に丸投げして隠居生活するつもりやったのに!! あんたが、アンナに全権渡したから安月給で馬車馬のように生涯扱き使われるんやで」
「私も同じじゃ、ボケ。大体、お前がリサイクルショップなんて考案したから、こんな面倒臭いことを引き受ける羽目になったんじゃ」
ギリギリとお互い掴みあって罵り合っていると、
「留美生様・レン様共に1ヵ月給与カットです」
とアンナが閻魔帳を広げて減俸と書いている。
「ちょっ、待ってえや。ちょっとしたじゃれ合いやん。何で給与カットになるん」
「そうやで。給与カットされたら4ヵ月無償奉仕しなあかんやん。イベントにも行きたいのに、その資金源を断つなんて鬼や!!」
「姉妹喧嘩はするなと申し上げた直後にお互い口汚く罵り合ってたじゃありませんか。まだ、仕事中です。給与カットが嫌ならちゃんと仕事して下さい」
「「はい……」」
アンナは閻魔帳に給与1ヵ月カット(予定)と書き直している。
これは、本気で給与カットされかねない。
「んんっ、これから公爵に合うから粗相がないようにな」
私の言葉にお前が言うなみたいな視線が突き刺さるが気に……しないっ!
灰汁の強い面子を率いる立場になれば、そんな些細な視線気にしていたら心が幾つあっても足りない。
リオンからは、こいつ馬鹿だみたいな視線を貰ったが無視するに限る。
「Cremaのレン様とその従者様、シュバルツ様がお待ちです」
メイドが静々とシュバルツのいる執務室へと案内された。
ぞろぞろとメイドの後ろについて歩く。
初老のメイドは、ちょっと青ざめた顔をしている。
原因は、アベルだろうが逃げ出さず粛々と仕事を全うする姿に欲しいなと思った。
凝った彫り物が施された扉を軽く2回叩き、
「こちらで御座います。シュバルツ様、レン様たちをお連れ致しました」
とメイドが声を震わせながら報告をしている。
「入りなさい」
中から入出の許可が下り、メイドがドアを開けてくれた。
私から順に入りアベルが入り終わり、ドアが閉められる。
急いで遠ざかる足音に、私はやっぱり怖かったんだなとアベルを見た。
当事者は我関せずを貫いている。
「まずは座り給え。ここに来たという事は、例の街は無事に事が運んだという事かね」
ソファーに座るように勧められ、私達は着席する。
目の前にシュバルツが座り、報告を求められた。
「完全にとは言い難いですが、解決に向かってます」
「ほう……それはどういう意味だね」
目を細めてこちらの出方を伺っているシュバルツに、私はここからが正念場だと笑みを浮かべて事のあらましを話した。




