144.戻ったら殴られました
菅原道真との会談後、紆余曲折あってアベルの根城に戻ってきました。
セーブとロードの機能が欲しいとこの時ばかりは、心底思った。
何故かというと、日本の自宅から一歩出ると王都に戻っていた。
拠点が無かった時は元の場所に戻ったのに、王都で自宅を購入したことで、そこが拠点と判断されて元の場所ではなく拠点に戻る現象が起きたのだ。
今まで王都で活動していたから何の疑問も持たなかったのに、この落とし穴には頭を抱えた。
アベルを正式に契約した後、ガタガタ云うアベルを黙らせ、ミスト領へ原付で戻った。
ハイオク満タンにして、最高速度出して引き殺した魔物は多数。
ドロップ品など目もくれず戻った時には、留美生率いる神職隊が街の浄化に成功していた。
どんよりとした空気が、正常になっている。
アベルを契約した事で、アベルは職業が冥府の番人に変わっており、加護に菅原道真が付いていた。
ポーションを使い切ってへばる留美生達に、元凶を連れて帰ってきたらグーパンチ食らわされた。
しっかり顔面を狙って抉るような右ストレートをもろに受けて、吹っ飛んだ。
宙に浮いた体が地面に叩きつけられ、ゴロゴロと勢いよく転がる様を見て、アベルだけが辛うじて心配らしきものをしてくれた。
「だ、大丈夫か?」
オロオロと私と殴った留美生を交互に見ている。
「大丈夫ちゃうわ! 何すんねん、留美生」
「何ボスキャラを連れてきてんねん! こっちは疲弊してるんやぞ」
「行き成り殴る必要あるか、ボケェ!!!!」
「お前が死ぬんは別にええけど、他を巻き添えにすんなカス」
「酷い!!」
留美生の口撃にショックを受ける私に、
「どの面下げて本丸連れてきたんじゃ」
と喧嘩腰で追い打ちをかけてきた。
「紆余曲折あって契約したから連れて来たんだよ!」
「その紆余曲折を省略するんじゃねぇー」
ゴッと左ストレートが繰り出され、油断していた私はもろにそれを受けた。
左右にグーパンを食らって口の中を切った。
血の味がして辛い。
巫女の耳飾りのお蔭で、この程度の怪我は直ぐに治るけれど痛みはある。
マゾではないので、痛いのはお断り案件だ。
「話す前に暴力振るったん留美生やん!」
「お前が、予告なく本丸を勝手に連れてくるんが悪い。念話すれば良い話やろ」
そう指摘されて、私はぐうの音も出ず黙るしかなかった。
「レン様が連れてきたのであれば、害意はないのではありませんか? まずは、こちらに連れてこられた経緯を聞いてみましょう」
アンナの助け舟で、留美生の激おこプンプン丸は一先ず落ち着いた。
皆に集まって貰い、アベルが仲間に加わった経緯を話した。
アベルは一応は魔物という扱いになるので、私が契約したとしても不審に思われることはなかった。
彼のレベルを知ったら、ガクブルものなので態と端折ったが。
「――というわけで、この度正式な仲間になったアベル君です」
「おい、そこは『様』だろう」
私の君付けに対し、アベルが不機嫌そうに指摘してくる。
チッ、一々細かい奴め。
「良いやん。これから、あんたを神として正式に祀る事になるんやし。彼らは、あんたの信仰を集める重要な存在なんやで。一々敬称でガタガタ言うな。器が小さく見えんで」
「私は神になるのだぞ。そこは様を付けるべきだろう」
「契約されている以上は私が上や。菅原道真様みたいな存在になったら様付けしたるわ」
ケッと吐き捨てたら、
「その言葉違えるなよ」
と念押しされた。
「女に二言はないわ」
後に神社が建設ラッシュを迎えて、アベルの名も広く知られるようになった時、アベルは私に対し悉く様付けをさせるようになるのは、そう遠くない未来の話。
街の浄化は終わり、取敢えず諸悪の根源であるアベルも一先ず落ち着いたので、一旦報告も兼ねて皆で公爵家の館に行くことにした。




