143.怨霊と元怨霊
引き合わせちゃ行けない2人を引き合わせて絶賛後悔中の花令です。
電車とバスを使って北野天満宮まで来たのは良いが、一の鳥居に着いた早々に神託があった。
全国の天満宮の総本山なので、敷地面積もでかい。
本殿ではなく地主社に来るよう言われた。
怨霊を聖域に入れるのは憚れるので、遠回りして地主社へ向かった。
アベルと共に、恐らく神域であろう場所に居た。
勿論、紅唐白も一緒に居る。
多分、私にも見えるように顕現してくれたのだろう。
何て言うか、ジャニーズ系のイケメンを初老にした感じだ。
私の語録の無さが悔やまれる!
享年59歳で亡くなっている美初老だ。
恰幅は良い方ではないので、スラッとした長身美形さん。
菅原道真公が醤油顔なら、アベルは濃厚トンコツスープ顔だ。
話は戻るが出会いがしらに言い放った言葉が、
<これが、異世界版の私か>
である。
お互いに自分の過去を語り合って、意気投合している。
話に口を挟む隙間が、全く見えない。
完全に放置プレイされている。
道真は仕える側だが右大臣にまで昇進し、貴族に嫉妬され大宰府へ左遷。
死後、厄災が京全体に降りかかり、2度北野に社を建てろと脅して北野天満宮が建った経緯がある。
『天神』とは人々に災いを与える荒ぶる神の総称である。
そして『天満』は、道真の【怒りが天に満ちた】というお告げに由来するといわれている。
アベルは100年弱アーラマンユ教によって封じられていたが、弱まるどころか怒りは増して手が付けられない状態だった道真と似た状態にあった。
で、今回私が2人を引き合わせたのだが……。
秀才同士、色々話し込んでいる。
私が聞いてもチンプンカンプンなので、紅唐白を抱っこしながら2人の話がひと段落するまで座って待った。
暇なので紅唐白と遊んでいたら物騒な事を言い出した。
<いっそうの事、その王家を滅ぼせば良いのではないか>
「是非したいものですな」
ハハハッと爽やかに笑っているアベルに、
「ちょっっと待ったぁぁああ! アベル、あんた今王家を滅ぼしたらハルモニア王国はなくなるんやで!! 自分の子孫の事も考えようや」
<呪い殺せば良いと思ったのだがな>
物騒な事を言わないで欲しい。
「いやいや、アベルは当時それなりに色々やらかして封印されたからー! ただでさえ、ハルモニア王国の国境沿いは小規模ながら諍いが絶えないやん。そんな状況で王家が揺らいだら、それこそ領土拡大を狙う他国や、独立しようと目論む貴族に国を滅ぼされる。祟って国を地図から消すより、神様になって王家から崇め奉られた方が健全とちゃうと思いますけど」
折角作った神社や買った家を他国に攻め入られて、財産没収とかされたら大損だ。
それだけは絶対阻止したい。
「道真様は、人でありながら神様まで成り上がったでしょう。そこは、神様になれば良いと説得して下さいよ」
<まあ、ここまで大きく祀られるとは予想外だったがな。国を滅ぼしても良いと言うのであれば、全力で祟れば良い。国を残したいのなら、それなりに大きな社でも建てろと脅せば良かろう。殺さぬ程度に王家の者どもを祟れば幾ばくか気は晴れるのではないか?>
あかん、この神様は祟ることが前提で話してる!!
「国が亡ぶのは不本意だ。子孫が不遇な思いをするのは忍びない。殺さぬ程度に祟って、神の座に就こう」
<うむ、その方が良い>
「アベルが祟ったら確実に死ぬから! せめて手加減のスキル取得してから祟ってくれ。レベル差を考えようや」
祟るのは決定事項なら、死人が出ないように努めるしかない!!
<1人、2人くらい死んでも問題なかろう>
「いや、問題大有りですから!! 王都に天照大御神様をお祀りしたばかりなのに、行き成り王族が死んだとかなったら、アーラマンユが難癖付けて活動し辛くなるから止めて下さい」
<天照大御神様がお祀りされている場所を祟るのはいかんな>
思いとどまってくれたかとホッとしたのも束の間で、
<お前が、王家に制裁を加えれば良いのではないか?>
と、とんでもない事を言い出した。
「私の積年の恨み辛みを代弁させるのですね! それは良い」
アベル、お前まで何乗り気になってんだYO。
<大打撃を与えるような制裁が良いだろう>
「そうですな。出来れば、この手でくびり殺したい程ですが」
あかん。
これ以上喋らせたら、もっと酷い内容になる。
そう直観した私は、咄嗟に代替え案を出した。
「……アベルに関する事実を公開させ王家の権威を削ぎつつ神社建設の費用を出させれば、精神的にも懐にも重い一撃が出来ると思いますよ」
王家がそれを素直に飲むとは限らないので、アベルの呪い(極弱)で王家をビビらせてやるしかない。
どうせ各地に神社を建設する予定だし、便乗して神社建設の一部を負担して貰おう。
「それでは気が収まらんぞ」
「全国に神社を建てれば、相当なお金が動くで。この北野天満宮も総本山で、その分社は万にも上るし。そう考えたら神社建設の金を出させた方が建設的やと思うけど。事実を公表させた上で、神社建設しまくったら王家に批判が集まると思うで?」
国家予算で賄うか、ポケットマネーで賄うかは今代の王の判断にもよるが。
後者なら王家の財政に直接影響が出るし、前者なら国家のお金を使うわけだから貴族らから不満の声が上がるだろう。
まあ、市民にすれば神社を建てることで安価で治療を受けられたり、ステータスを確認出来たりするので、支持率は上がるだろう。
王家的には±0と云ったところだろうか。
「では、全国に神社を建てることで怒りを鎮めるとしよう」
<おぬしが、それで良いなら良いのではないか>
「神様をするのは初めてだから、また相談しにきても良いだろうか」
<いつでも訪ねてくるがよい>
何か2人の間に見えない友情みたいなのが見えた気がする。
が! 一応突っ込んでおこう。
「水を差すようで申し訳ないんですけど、アベルは契約してる状態じゃないとこちらに来ることは出来ひんで。私が契約した人やないと世界を超えることは出来んし、私が日本に居る間やないとアベルは移動出来ひんからな」
<そうなのか>
「そうなんです。アーラマンユという邪神に召喚された人間は生涯サイエスで生活を余儀なくされます。私は、誤召喚だったので3つのお願いを聞いて貰うことにしました。1つは、経験値倍化。2つ目は、全ての言語が操れる力。3つ目が、所有物をサイエスでも使用可能にすること。購入した自宅があったので、結構賭けな部分がありましたけど。ちゃんと自宅の鍵が使えて、日本とサイエスを行き来することが出来たんです。あくまで召喚者のみが適用されるので、契約していない状態では移動出来ないです。契約中の家の精霊は無条件で行き来出来ますが、神様自身は干渉出来ないのではないですか?」
アーラマンユ自体サイエスから召喚していたから、多次元世界に干渉する力はないと思われる。
<では、契約とやらをしたままにすれば良いのではないか?>
「うむ、そういう事ならば仕方がない。戻ったらもう一度、契約で私を縛るがよい」
「……はい」
もう何も言うまい。
元怨霊の神様と現怨霊相手に私は戦う勇気は、な・い!
色々とまだ残っているけれど、取敢えずアベルに対する対応の方向性は決まり、安心しても良いだろう。




