138.アベル公爵の過去
商談も終わり、留美生が待つ件の館跡地へと移動を開始した。
公爵領の地図を頭に浮かべながら最短ルートを算出する。
ルートも決まりさて移動しようかと思ったら、留美生から念話が入った。
<姉ちゃん、屋敷におるけどお手上げや>
<何やて!?>
うおおぃぃいい!
何かってなことしくさっとんのじゃ!
誰が乗り込めと言ったよ!!
館付近で待機を言い渡したのに、勝手に行動するとは命令違反にも程がある。
<街全体がアンデット系のモンスターの住処や! しかも館は邪神がおるで。もう一柱神として祀って祟りを収めて貰うしかないわ。場合によっては国王引き摺りだす必要があるで!>
Oh……。
ある程度予測はしていたけれど、この展開は想定外だ。
<………それでか……>
<どうするん? オーロラヒール使っても昇天せんで! 多分。お、墓が見えたわ。ちょっと見てくるさかいまた連絡するわ>
一方的に念話を切られた。
藪を突いて蛇ならぬ悪霊の親玉を引きずりだすなんて、留美生は天才だろう。
心底馬鹿だけど。
悪霊の親玉相手に留美生のオーロラヒールが効果がないとなると相当手強い相手となる。
浄化力だけで見れば、留美生が断トツ1位である。
合流して戦うとしても、勝算が見えない。
「滅茶くちゃ不良物件を押し付けられた感があるわー」
無いわー無いわーと呟く私に、
「あれだけ王都で遣らかしているんですから、その手の話が入ってくる事くらい想定内でしょう」
とアンナに突っ込まれた。
確かにそうなんだけど、留美生でも祓えなかったとなると私やサクラでも無理となる。
「留美生がお手上げなら、私もお手上げや。1度合流して対策を考えんと。街の外れまで出てから車に乗って移動するで」
早歩きで街の外れまで出て、アンナにワゴン車を出して貰った。
ワゴン車に乗り込む面々を見て、慣れって恐ろしいなと思う。
初めてワゴン車を目にした時は?マークを飛ばし、車が走り出すと車酔いする人続出で車内が吐瀉物の臭いが立ち込めたものだ。
世界地図で公爵領をズームアップさせ、この場所から件の館までの最短ルートを割り出す。
「この森を突っ切った方が早い。多重結界を車に施すから、アンナは魔物を引き殺して進んでや。急ぎやからドロップ品は諦めろ」
「勿体ないですよ」
「そんな事言ってる暇やない。留美生が勝手な行動に出なかったら、もっと時間に余裕を持って行けたのに! 文句は、あの馬鹿に言ってや」
「分かりました」
アンナの目つきが鋭くなった。
留美生強く生きろよ、と心の中で冥福を祈っておいた。
「大体2時間程度で着く予定や。皆、ちゃんとシートベルトしときや。多重結界張っても衝撃はあると思うし」
私の言葉に、素直に従う一同。
私も紅唐白を膝の上におろし、紅唐白ごとシートベルトを締めた。
紅唐白は嫌がったが、これも安全のためなので諦めろ。
私はスマートフォンでググル先生にアベルについて調べたら、ウィキに載っていた。
本名は、アベル・フォン・ルテゥ・ミスト(旧姓:アベル・フォン・ルテゥ・ハルモニア)。
ハルモニア王国の元王太子だった。
彼の人生を一言で表すと『不遇』だ。
幼いころに実母を失くし、王太子として育つが、側室に男児が生まれて権力争い勃発。
文武両道で人望も厚かったが、実母は位が低い貴族のため後ろ盾がほぼ無いに等しく、王が崩御と同時に側室の子が王として周囲を抱き込んで王位に就いた。
アベルは降下し公爵となりアナスタシア・ミスト伯爵夫人と結婚するが、政治に関わることも出来ず飼い殺しされ一生を終える。
死後、恨み辛みが王家に様々な厄災を齎したとして旧ミスト領の館はアーラマンユ教会の手の者によって封印されると。
それが3代前の話で、封印が解け始めて街は荒れ果てて捨てたのが真相のようだ。
アーラマンユで手を余らせたのか、それとも封印事態が不完全だったのかは分からないが、厄介な事になっているのは間違いない。
「留美生は後でお仕置きするとして、アベルってのをこの目で見てみんとどうにもならんな」
留美生の神格化も視野に入れて動いた方が良さそうだ。
その前に、アベルが理性を失くして暴れまわっているなら話し合いも出来ないし。
その辺りは現地で要確認だろう。
私は、厄介なことを引き受けてしまったと大きな溜息を吐いた。




