135.大移動開始
アンナ厳選の下、9名が選出された。
こっそり鑑定でステータスを見てみると、全員が礼儀作法のスキルを取得していた。
私にはないスキルなんだが、大丈夫か私!?
「まずは、ミスト領主の領へ徒歩で移動するで」
「それでは時間が掛るのでは?」
アンナの言う事は最もだが、レベル上げも兼ねているのだ。
戦闘しなくてどうする。
リオンのステータスも確認させて貰ったが、引っかかるところが幾つかあるんだよね。
スキルに王宮剣術とかあるし。
どこかの王子っていう可能性も考えられる。
リオンは、レベルが元々高かった。
普通に過ごしていれば精々レベル8~15くらいだろう。
冒険者や騎士以外は、大抵結界の張られた塀の中で一生を過ごすからレベルは低い。
冒険者ギルドのキルドマスターですらレベル100はいかない。
私とパーティーを組むと、もれなく経験値倍化するので成長も早い。
契約している者もその恩恵を受けて、私には及ばないものの同様の効果を発揮していた。
これは、強化合宿で判明したことだが。
リオンは年の割にレベルが高い。
強化合宿せずに17歳でレベル60超えはお目にかかった事がない。
今回のミスト領訪問は、神職の者だけで編成している。
だから、基本は後衛職になる。
アンナも後衛だしな。
必然的に私も前衛に上がることになる。
「リオン、あんた剣使えるやろう」
「……ああ」
「この際言っとくわ。私の鑑定に隠ぺいは無駄やから。あんたが何を背負ってるんかしらんけど、Cremaの邪魔になるなら、その根源をゲロさせて貰うからな。根源は問答無用で排除対象じゃ」
今は聞かないでおくとだけ暗に言えば、リオンは小さく頷いた。
「さて諸君、これから強化合宿最終試験前の準備運動をしようやないか。最近、どうも私だけだと大物が入れ食い状態になるからな。気を抜いた奴から死ぬで。特にリオン、お前が1番レベル低いからこれを機に強くなりや」
ポンと手を叩き、ニッコリと笑みを浮かべて地獄の片道切符をプレゼントした。
「そう言えば、レン様が実施された強化合宿は他の者達が施したものと比べて過酷だったそうですね」
「アンナ、言わんといてくれ。まるでアーラマンユに呪われたみたいに、私よりレベルの高い魔物が入れ食い状態で襲い掛かってくる恐怖はなぁ……。死ね、アーラマンユ。寝る時なんか、多重結界と虫よけと魔物除けの薬がなかったら眠れんかったわ」
拡張空間ホームで大量の書類付き強化合宿だったけどね。
本当に、遅々として移動できないことに何度イラついたことか。
「恐らく団体さんで来てくれると思うから、向かってきた輩は身包み剥ぐ勢いで相手するで。錫杖で敵をボコる事は出来るから、魔力切れたら前衛に出て貰うからな。因みにリオンと私は前衛やから」
私の言葉に、若干青い顔をしている面々がいるが無視しておこう。
これも通過点だと思えば優しいものである。
本当の地獄は、キチ物件と言い切った曰く付き物件の処理なのだから。
「リタイアしたい奴は今の内に言いや」
私の言葉に誰も手を上げなかったので、全員参加とみなした。
「じゃあ、Wing Boots!」
全体に風魔法の応用した速度上昇の魔法を掛けた。
「あの、一体何をされたんでしょうか?」
「ん? ああ、普通に歩いてたら時間がクソかかるから速度上昇の付与魔法を掛けただけや。足が軽くなってるから、1.5倍は早く動けるで」
早歩きから自転車くらの違いだけど、それでもあるに越したことはない。
「じゃあ、出発!」
号令と共に歩き出す。
殿は私が勤め、高速移動する団体をすれ違う人々が呆気に取られて見ていたとは思わなかった。




