131.ストライキ起こしました
「姉、入るよ」
の声と共に留美生が入ってきた。
イラッて来たので思わずボールペンと投げつけたらヒラリと交わされた。
「ノックしてから入れ粕めっ!」
私の暴言は何のその、留美生は落ちたボールペンを手渡して言った。
「いくつかヤバイ物件あったやろ?地方でも構わへんし21件ほど集めてくれへん?神社建てるのも交渉して欲しいわぁ」
「は? 何言ってんの!!そんな面倒ごと嫌やで!」
この状況を見て言っているのか?
この山積みの書類を前に言っているならぶっ飛ばすと思っていたらアンナが超良い笑顔で、
「何を言っているんですか! 天照大御神様の神社建設と布教を全国でしたいって言ってたではありませんか! 大丈夫ですよ、留美生様。貴族の伝手はありますので、私達で整えて明々後日にでも書類をお渡ししますね」
と勝手に答えられた。
私の許可を取ることなく決定事項として通達された。
アンナを恨みがましく見ても許されると思う。
「自分は社長やのに……。私だって全国津々浦々回って遊びたい!! ……じゃなかった、強化訓練してその地域の現状とか把握しなくては!!」
思わず本音が零れてしまった。
もう缶詰は嫌だ。
書類と格闘したくない!!
「あんた書類で動けへんやん。アンナ連れてって交渉させるんでも私は構わへんで。自分の仕事分は終わってるやろうし、最終試験はお祓い系やしな。新しいスキルを身に着けた奴もおるし、こっちは期待が大きいねん!」
書類裁け、仕事しろと言われ、年甲斐もなく机にへばり付き泣いた。
「どうでも良えけど、書類仕事から逃げるなよ」
留美生がクイっと指で後ろを指すので振り返ってみると、アンナがハリセンをパシンパシンとしながら笑っている。
「ヒィィィイッ!!!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
留美生に助けを求める視線を送るが、無視されて退出していった。
留美生の馬鹿!!
私の盾になってから出ていけばいいのにぃ。
「レン様、我がままも程々になさらないと給与カットですよ?」
全権渡すと言った傍から、給与をしっかりと握られている。
忙しくてお金を使う暇もなく貯まる人の気持ちが今なら分かる気がする。
物欲とか言っている次元じゃない。
「……はい」
最近ゲームもしてないし、本も読んでない。
読んでいるのはアンナが購読している新聞くらいだ。
良い暇つぶしにはなるし、情勢が分かるので欠かさず読んでいるが。
渋々とそして粛々と書類を捌く捌く。
捌いても捌いても減らない書類が憎い。
「ルーシーとキャロルに書類やらせたらええやん」
「彼女たちに書類回してます。私もやってるじゃないですか」
「何でこんなに多いん?」
「それは、レン様が思い付きで色々やらかしてくれてるからでは?」
身も蓋もない答えが返ってきた。
地味に凹むわ。
「思い付きなら留美生が、アンナ経由で色々な催事を持ち込んでるやん。大体は、それらの決済ちゃうん? 留美生のことやから、大方私に言ったらお金が下りひんの分かってるからやろう。アンナは、金になりそうならホイホイ受けてるんとちゃうん?」
「何の事でしょうか?」
知ってるんだぞと睨めば、ニッコリと笑顔で返されたが内心動揺しているのが手に取るように分かる。
「労働基準法違反や。これ以上働かせるなら休憩貰う!」
紅唐白を連れて、日本の自宅へ引き籠った。
パンジーに誰も日本に通すなと命じ、スマートフォンの電源を落として自室でゴロゴロした。
見たかったアニメを一気見し、お菓子とジュースを飲み食いしながら、ルームウエアで漫画を読む。
日本時間で1日経った頃に、サイエスへ戻った。
「レン様、いきなり居なくなるなんて!!」
「1時間ほど席外しただけやん。休憩ぐらい取らせろ」
馬車馬のように扱き使うなら、程よい休憩くらい取らせてくれても良いんじゃなかろうか。
「大体、留美生みたいに仕事ほっぽり出してサイエスに逃げ込んでないやん。私は日本で休憩を満喫してただけ。それも何日もではなく1時間ほど。何か問題でもあるんか? Cremaが採用時に提示している昼休憩も社長の私には適用されんとでも言うんか?」
休みなしで働かされて鬱憤が溜まっているのだ。
八つ当たりの1つや2つしたくなる。
「……済みません。仕事を詰め込み過ぎました」
アンナから謝罪の言葉を頂いた。
「悪いと思っているなら、私も最終試験に参加するからな。どうせ、留美生に押し付けて私だけ書類仕事させるつもりやったんやろう。言っとくけど却下したら、今みたいにストライキ起こすからな」
意図して仕事しません宣言をしたら、アンナは大きな溜息を吐いた。
「どこからそんな情報を仕入れてくるんですか」
「言うわけないやん。商人の情報網を教える気はないで」
「分かりました。でも、最終試験でも書類仕事はして貰いますからね」
「アンナもするならな」
ニッコリと笑みを浮かべて言い返したら、米神をグリグリ押さえながら大きな溜息を吐かれた。
ダメとは言ってこないので、これは了承したと取って良いだろう。
暫くぶりの実践に、やる気がちょっと出た。
最終試験が楽しみだ。




