129.強化合宿は終わらない
留美生一行が帰ってきた。
両手にディゼニーの袋を引っ提げて。
中には福袋があった。
私だって欲しかったのにぃぃぃい!
「アンタぁ!!遅いと思ったらディゼニーで遊んでたんかっ!!?」
留美生の胸倉を掴み往復ビンタをお見舞いしてやると、
「五月蠅い!良えやん、自分の金でまったりと休暇しても。働き詰やったんやさかい」
と言い返された。
そんなのは言い訳にはなりません!
「うちはな! 地獄の強化合宿しとったんで!? しかも書類付きでなっ!!」
実務研修どころではなく、1週間全てが戦闘訓練になった。
お蔭で王国の兵士よりも強い。平均レベルが150台という偉業を成し遂げた。
私のレベルより上のモンスターに休む暇も与えられることなく戦闘を繰り返した結果である。
連携もばっちりだし、1人でもワイバーンくらい狩れるくらい強くなったと思う。
それもこれも、アンナのせいなんだけどね!
「どうせ提案したんアンナやろ。てかアンナに采配の権利渡した時点で想像出来ることやん、今更何言ってんの!?」
留美生に事実を指摘され、思わず崩れ落ちた。
ダンダンと床を叩きながら泣いたよ。
「まぁ、こっちも失敗して自腹になったさかいなぁ」
唯一の救いは、私を馬鹿にしたくせに自分も運転免許証を取得できなかったという所だ。
これで留美生にまで免許取得されていたら立ち直れない。
どうせ落ちる試験だったなら、私も旨いもの食って可愛いディゼニーグッズを買い漁り、福袋を満喫したかった。
留美生は、私が育て上げた精鋭の情報が記された書類を見て言った。
「へぇ、結構な募集でブートキャンプしたんやなぁ。良えんちゃう。貴族側の巫女や神薙も欲しかったし、他の地で神社建設する予定やし人手は多い方が良えわ。アンナ、こいつ等のレベルは最低基準達してると思って良えか? あと身のこなしもな」
「大丈夫です。きちんと躾してありますよ」
どんな躾だよ!
ブートキャンプから帰って、4日間の休暇を貰ったから日本に逃亡していたのが仇になった。
アンナ、お前は一体どこを目指しているんだ。
たった4日で実務経験を積ませたとでもいうのか?
「そうか、なら実践投入しても大丈夫か?」
「そうですね、仕上げに実践投入して落ちた者はクビって事でどうでしょうか?」
「それ良えね! ふるいで脱落者が何人でるやろう? 今の所は0なんやろう? こっちも実践で活躍出来へん無能は不要やからなぁ」
留美生は、数を数えながら仮雇用のメンバー達のプロフィールを確認している。
「アンナ、この男爵令嬢の四女のリゼル・フォーマットをこっちに回して。特別強化合宿してレベル200まで底上げするわ」
「分かりました。他に何名か優秀な候補生を預けても宜しいですか?」
「良えで、でも作る書類に死んでも自己責任ですと了承して貰ってなぁ。ワイバーン狩りに行から三馬鹿も連れてくさかい! 手配宜しく」
私の許可など丸っと無視してアンナと話を詰めている。
社長は私なのに、本当お前ら一体どこを目指しているんだ。
何事にもほどほどが良いのに、やり過ぎて折角育てた人材を使い潰してくれるなよ。
恨みがましい目で2人を見たが、華麗に無視された。
ムカついたのでお正月限定のディゼニーグッズをパチろうとしたら、横から掻っ攫われ留美生はアトリエに籠りやがった。
「レン様、これが次の育成予定の書類です」
ドサッと置かれた書類の束は10センチどころの話ではない。
100万円の札束が20束あるくらいの厚さだ。
「ちょっ、無理無理! 帰って来たばかりやん! てか、うちにそれだけ雇う余裕はないで」
「何冗談言っているんですか。ありますよ。レン様の化粧品や留美生様の装飾品は、王室御用達になってますのでレン様の商業ギルドランクもSランクまで上がってます。昇級の手続きは、代わりに行っておきましたからご安心下さい。化粧品の特許料もありますし、売り上げも好調。お布施も順調に集まってますから、この程度なら全然問題なく雇えます。強化合宿に残った者を更に実務研修で篩にかけ最後まで残った者だけ雇いますから。精々1/3が残れば良しでしょう」
この束を持って、隊を編成し、更に強化合宿をしろというのか!
「嫌や! 私は、この間やったばかりやもん。アンナが、やればええやん!!」
「私は、実務の教官ですので無理です。後任育てるなら、自ら率先してやって下さい。後、後任育てても仕事はして下さいね」
職場放棄すんじゃねーぞゴルゥアア! と暗に言われた。
最後まで抵抗してみたけど、誰も助けてくれず、結局第2回目になる強化合宿をすることになった。
助手にニックが付き、会社名義で購入していた大型バス車で移動となった。
長距離移動出来るようになったのは嬉しいが、これはない。
強化合宿をするためにバスを買ったり、免許を取得したわけじゃないのに!!
バス移動では、ヘレンとニックも運転手として駆り出されていた。
アンナの奴、どこまでも用意周到なんだ。
ちょっと遠出して高レベルモンスターが多数目撃されている森へと置き去りにされた。
「くっそぅぅうう、覚えてろー」
走り去るバスの後ろ目掛けて吠える私をよそに、助手のニックが合宿の概要を説明していた。
「レン様、やることやれば早く帰れますよ」
「分かってる。分かってるけど……ムカつく! 何で私ばっかり働かなあかんねん。給料増やせゴルゥアア!」
発狂する私に何を言っても通じないと判断したニックは、拠点のキャンプ設置を指示している。
動揺する仮雇用の面々にニックが、
「あれは何時もの事だから放置して良い」
と言い放った。
「会頭なのに給与制なんですか?」
という疑問に、ニックは深く頷いた。
「固定給で1ヵ月金貨20枚+役職手当金貨5枚だそうだ」
「あの求人票は嘘ということですか?」
「いや、本当だ。雇用主が金を持ってたらダメになるが信条らしくてな。給与だけみれば低いが、有能な部下には賞与や色々な手当が付けられる。必要なスキルを取得したら、更に手当が増える。1番稼いでいるのは、アンナ殿だな。月に金貨60~100枚貰っていると聞いた」
「そんなにもですか!?」
近衛騎士ですら、そんなに貰えない。金貨20枚あれば良い方である。
「本人のやる気と能力・成果次第で給与の額は変わる。新人だろうが、古参だろうが関係なく実力主義の商会だ」
そこまで言うと、皆のやる気が目に見えて変わった。
獲物を探すハイエナのようだ。
「レン様、さっさと立ち直って仕事して下さい。アンナ殿に給与カットされますよ」
「はっ! そんなんされたら、欲しいもんも買えんやん」
ニックの言葉に、私は我に返った。
「皆、気合入れて行くで! どうせ、うちが居たら高レベルモンスターの入れ食いや。チームワークが第一! チームワーク乱す奴は即死ぬから気を付けや」
「「「「「はい!!!」」」」
気合の入った良いお返事。強化合宿第2弾が、幕を開けた。
早く仕事を押し付けて、旅に出たい。
私は、心底本気で望んだ。
国外逃亡を!!




